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IR物語 第8回「公開授業に参加しました!」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先日、ちょっと珍しい公開授業に参加してきました。

その公開授業とは、中央大学アカウンティングスクールの公開授業です。

公開授業は、個別企業の「企業価値評価」を実施した学生によるプレゼンテーションに対して、知識・経験の豊富な方々(教授及び金融機関に勤めているゲスト)が突っ込みを入れるという内容でした。

ちなみに、教授の鈴木一功氏は、
企業価値評価の分野で有名な「企業価値評価【実践編】」の編著者です。

私は板倉雄一郎事務所のパートナーということもあって、
「企業価値評価」に関連する授業(セミナー)に興味があります。

・アカウンティングスクールの授業の内容ってどんなの?
・その授業って面白いの?
・実は我々のセミナーで教えていることと全然違うのでは(笑)?

上記の疑問を解消すべく、
板倉雄一郎事務所のコミュニティの仲間達(この人とかこの人とか)と
一緒に参加したのでした。

今日のエッセイでは、その時の印象を皆さんにお伝えしたいと思います。

(1)企業価値評価の考え方は共通!

ある意味当たり前なのですが、
この公開授業で用いられた企業価値評価に関する考え方は、板倉雄一郎事務所で教えている内容と同一でした。
このため、一緒に参加した当事務所セミナーで学んだメンバーも授業の内容をすんなり理解していました。(と思う・・・多分)

時折、当事務所のセミナーを受講した方・受講を検討している方から、
「このセミナーで教えることは、板倉さん独自の理論なのか?」
という問い合わせを受けることがあります。

私はこれまで、
「企業価値評価の考え方はファイナンスの原理原則に基づくものであり、
どこで学んでも一緒です!」と回答してきましたが、
今回、身を持って体験することができました(笑)

(2)「アカウンティングスクール」の目的とは?

中央大学アカウンティングスクールは、
『ファイナンスやマネジメントと会計との融合をはかるという理念の下、幅広い知識と柔軟な思考を備えた会計専門家やCFO(財務担当重役)を育成するMBAプログラムを提供』しているそうです(HPより抜粋)。

ただ、今回の公開授業に参加して強く感じたことは、
学生のプレゼンに対する教授及びゲストの様々な指摘が、
「投資銀行マンからの視点」に偏っている気がしたのです。
さながら「投資銀行マン育成講座」という感じがしました。

企業価値評価に関するファイナンス的な議論以外に、プレゼンの仕方とかパワーポイントの作り方とかに関する細かい指摘が多々あって、

「そんなプレゼンじゃ、お客様から手数料は取れません!」

みたいな雰囲気があるわけですよ。
きっと、ここの学生の多くは、投資銀行業界に行くのでしょうねぇ・・・。

板倉雄一郎事務所のセミナーでは、
ファイナンスの基本的な考え方について、
・あらゆる場面で活用できるように
・一般の方々へわかりやすく教えること 
を重視しているので、その違いを感じました。

投資銀行マンになりたい方にはよいと思いますが、
「CFOやCEOといった事業会社の経営陣」になりたい方にとってあの授業が面白いかは疑問であり、その点で少しもったいない感じがしました。
(あの公開授業だけで決め付けてはいけないとも思いますが・・・)

(3)公開授業から学んだこと

上記の感想を抱きつつも、この公開授業から様々な学びを得ました。

私が特に印象に残ったのは「費用分析」についてです。

ある学生がプレゼンした内容に対して、ゲストの方が次のように講評されました。

「業界動向や売上の見通しについてはよく調べられていると思います。
しかし、費用に関する分析は弱いのが惜しいです。」

売上の分析は一生懸命やるけど、費用の分析は案外おざなり。

これって、私のIR実務の経験上、よくある話だと思います。

IR担当者として投資家、アナリスト、メディア等の関係者から受ける問い合わせの内容は、「売上」に関する内容が「費用」に関する内容より圧倒的に多いです。
運用のプロと称される機関投資家とIRミーティングを行っても、
「費用」の発生に関して細かく質問する方はわずかであり、
ほとんどが「将来売上」に関する質問です。

・今後の販売戦略は?
・海外市場への進出可能性は?
・新規事業の市場規模は?   etc・・・

確かに、会社は顧客に対する価値の提供があって初めて成り立つため、
「売上」の分析は重要な要素のひとつです。

しかし、企業価値を生み出すのは、
将来得られる「売上」?「費用」=「利益(キャッシュフロー)」
であることから、「費用」の分析も同じように重要だと思います。

分析対象の会社の主要費目が何かを把握することによって、
その会社の事業構造の特徴や成長のためのポイント・制約条件を理解することができます。

特に、長期的に事業を継続できる企業を見つけるには、
「費用分析」の視点がとても大事になると思います。
参照エッセイ:
ITAKURASTYLE 「大切なのはディフェンスなんだよ!」
SMU 第177号「安く仕入れて(調達して)、高く売る(運用する)」

ちなみに、聞き手側のニーズを反映しているせいか、
IR情報において、「費用」に関する開示はあまり多くありません。
例えば、売上の内訳や月次推移は積極的に開示されていても、
売上原価に含まれている主要費目の内訳や推移を開示する例は少ないです。
このため、費用分析は売上分析に比べて難しいと言えます。

しかし、有価証券報告書における財務諸表や注記項目を読み解けば、
ある程度は把握することができますし、IR担当者に質問して教えてもらうことも可能です。

「売上」の分析は華やかで楽しいですが、たまには「費用」に思いを馳せて、「この会社の費用構造はどうなっているのか?」について考えてみるのをオススメします。

その時には、会社のことがより深く理解できると思いますよ!

2007年2月8日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、2月10日(土)に橋口寛氏が担当します。





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