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IR物語 第30回「中期経営計画との付き合い方」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

早いもので今年も3月に入りましたね。
3月は、日本企業の多くを占める3月決算の企業にとって年度末のラストスパートの時期ですが、投資家にとっては既に興味の関心が来期の見通しへ移っている時期でもあります。

理論株価を算定する上での重要な因数が「将来業績(キャッシュフロー)」であることを考えると当然とも言えますね。

将来業績を予測する上で重要な役割を果たすIR情報のひとつに「中期経営計画」があります。例えば、こんな感じで向こう3年間の将来ビジョン及び業績を掲げる場合が多いです。

投資家にとって重要なIR資料である中期経営計画は、開示する側にとっては悩ましい存在です。
そこで、今回は「中期経営計画」をテーマに取り上げてみたいと思います。

先日、「日経ヴェリタス創刊直前号」を読む機会がありまして、その一面は「中期計画 4割守れず」という見出しでした。

なんでも、時価総額の上位企業から中期経営計画を発表している100社を抽出し、その計画と実績を検証すると、4割の企業が中期経営計画を達成できていないそうです。

皆さんは、この見出しを読んでどのように感じますか?

(余談ですが、日経ヴェリタスは日経金融新聞の代わりに3月16日から創刊されるそうです。最近、ファイナンスに目覚めつつあると評判(?)の日経新聞が「一流の投資は一流の情報から」というコンセプトで力を入れるとのこと。
取材を受ける側の私の印象として、従来の日経金融新聞は日経新聞(本紙)より格下で、片手間で書かれている印象だったので、今回は力を入れて読み応えのある記事を提供して欲しいと期待しています。)

私はこの見出しを見て、直感的に「少ないな」と思いました。
ここ数年は時価総額の大きいグローバル企業の方が好業績だったことを考えると、仮に中期経営計画を発表している全ての企業の達成状況を検証したら、50%以上(いや、もっとかな・・・)は未達成だと思います。

中期経営計画を作る立場を経験している今では、そのぐらい中期経営計画を達成することは大変だと感じています。
そのように感じている理由は下記のとおりです。

【?3年先の経営環境なんてわからない】
そもそも、外部環境の変化が激しい現在においては、3年先の外部環境を予測することはとても難しいです。その上、内部環境も加味した上で業績目標を立てるとなると「神のみぞ知る」世界(不確実性が高い)です。
(そのため、投資家側としては、その不確実性を資本コストに組み込む必要があります。)

【?投資家・従業員に夢を与えたいというプレッシャー】
経営環境が不確実であれば保守的に計画を策定する手もあります。
しかし、中期経営計画は利害関係者に公表される「メッセージ」の側面があります。作成する側としては、中期経営計画は投資家や従業員等に対して夢を与えるものでなければ作成する意味がないと考えがちです。

決算短信で発表する「今期の業績見通し」数値は、現場からの積み上げ式で保守的に作成している企業が多いと思いますが、中期経営計画になった途端、まず3年後の目標値(ビジョン)ありきで、その過程においては数字合わせで作成される場合が多いです。
(このアプローチそのものを否定しているわけではありません。)

【?保守的な中期経営計画を出しにくくなっている】
また、最近では保守的な中期経営計画を出しにくくなっている面もあります。最近では、Jパワー(電源開発)やノーリツの事例のように、株主から経営計画の修正を求められることが増えています。場合によっては、経営陣交代の危機になったりするわけです。
経営陣も自ら交代の危機を招く要因を作りたくはないですよね。

これらの要因から、中期経営計画はどうしても「ベストシナリオ」の色彩が強くなります。結局、未達成が非常に多い結果となるわけです。

このため、投資家としての私は、中期経営計画に対して過大な期待をせずに見るようにしています。
そして、中期経営計画をどの程度信頼するかは、目標数値そのものよりも、その前提条件の開示が十分であり、前提条件に納得できるかどうかで決めています。
前提条件が把握できれば、四半期ごとに公表される実績で検証することが可能になりますしね。

中期経営計画は未達になりがちとはいえ、企業(経営者)の将来ビジョンを示す重要なIR資料であることは確かです。

企業(経営者)側は、投資家の評価を得るために少しでもチャレンジングかつ達成可能な計画を発表することに注力すべきですし、一方で、投資家側は、その中期経営計画を鵜呑みにすることなく、自己の判断の下にその妥当性を検証すべきだと思います。

この双方向の関係が経営者と投資家の間の信頼関係を左右し、ひいてはWACCに影響するわけですね。

私がこんなエッセイを書いたのも、もうすぐ中期経営計画の見直し発表を控えて悩ましい日々を送っているからでした・・・(笑)
投資家にどのように受け入れられるか・・・期待と不安で半々です。

PS 先日、金融庁による新EDINETの説明会に行ってきました。
平成20年3月17日(予定)からEDINETが新しくなるそうです。

具体的には、EDINETシステムのインターフェイスが変わり、平成20年4月1日以後開始事業年度に係る有価証券報告書等の提出からXBRL形式になります。(3月決算の会社は、平成21年3月期の第1四半期決算発表から変更になります)
新しいEDINETがどんな使い勝手になるのか楽しみです。

2008年3月6日  S.Yoshihara
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