(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
「バランス」って、本当に難しいですよね。
いきなり何の話だよ、って思われるかもしれませんが(笑)、
世の中には様々な「バランス」があって、その最適な答えは非常にわかりにくいです・・・。
そこで今日は、「投資家と従業員のバランス」そして「仕事とプライベートのバランス」に関するエッセイです。
私は、とある上場会社でIR・財務業務を担当しているのですが、小さい会社なので他にも様々な業務を担当しています。
そして、その中に社内の人事制度の策定に関する業務があります。
IRと人事って関連性がなさそうで、実は関連していると思います。
いずれも会社を取り巻く利害関係者(投資家、従業員等)に対してコミュニケーションを取り、説明責任を果たすことが必要な業務ですよね。
最近、人事制度全般の見直しを行う中で悩んでいます。
どんな悩みかと言うと・・・。
<投資家と従業員のバランス>
人事制度を見直す過程では、従業員の皆さんに対するヒアリングを行います。私なりに考えた改善案をプレゼンし、それに対するフィードバックを得るためです。
多くの従業員と面談をする中で、多くの要望を頂きます。
要望は、給与、賞与、退職金、福利厚生制度、休暇・・・様々です。
直接話をしていると、彼らの要望に応えたい気持ちが強くなります。
「従業員のモチベーションを高める施策を行うことは、人件費等の増加により短期的な利益を押し下げたとしても、長期的な利益の獲得につながるはず」と考えるわけです。
しかし、一方で、私は投資家とも対話する対場です。
大口の株主(機関投資家、事業会社等)と定期的に行うミーティングでは、
利益成長に対する期待(要求)をひしひしと感じます。
特に、新興市場の銘柄は高い成長性がなければ、投資家からまともに話も聞いてもらえない(存在意義を否定される)ことが多いです。
また、経営陣が長期の成長戦略を説明したとしても、投資家はなんだかんだ言って短期の利益も気になるので、足元の業績に関する質問をたくさん受けます。
そうすると、ミーティング後は「何としても利益成長せねば」、「短期の利益も確保していかなければ」という気持ちになります。
こうして、いずれかの利害関係者とミーティングをするたびに、
私の心は揺れます(笑)
「どの程度まで従業員に利益還元することがベストなのだろうか?」
まず、「投資家」と「従業員」に対する利益配分のバランスで悩むわけです。
(この他にも考慮しなくてはいけない利害関係者がありますが・・・)
<仕事とプライベートのバランス>
従業員との面談では、仕事とプライベートのバランスに関する話題がよく出ます。
「奥さんからもっと家庭の時間を増やして欲しいと言われてます」とか、「家庭への時間を犠牲にして責任ある仕事をしている分、もっと給与を上げて欲しい」といった内容です。
これらの話を聞くと、彼らの気持ちも理解できます。
「会社は株主のものだ」という見解はひとつの側面として正しいですが、そこで働く従業員が満足な家庭生活を営めなければ、そもそも事業が成り立たないですからね。
その意味では、経営陣にとって、従業員の仕事とプライベートのバランスというテーマも考慮すべき課題だと思うのです。
一方で、そのバランスは従業員が自己のポリシーに基づいて判断すべき話であり、会社が考慮する話ではないという考え方もあると思います。
会社と従業員の雇用関係が「従業員が提供する価値」と「価格(給与)」の交換である以上、それぞれの従業員がそのバランスを考えて雇用契約を締結すればよい話ですからね。
そう考えると、会社が各従業員の仕事とプライベートのバランスを考慮しすぎるのもおかしな感じがします。
そうした中、自分が少しでも最適に近い解を考えることで「様々な利害関係者が納得するWin-Winの関係を構築しよう」と仕事に集中しすぎると、今度は、私の仕事とプライベートのバランスが崩れてきて、彼女に怒られたりします(笑)
こんな感じで、「人事制度の見直し」という取り組みを通じて様々な「バランス」に悩むわけです。
上記のバランスなんて、私だけではなく世の中の多くの方が抱えていると思いますし、これ以外のことに関するバランスで悩んでいる方もたくさんいらっしゃると思います。
どういうバランスの取り方を決定するにせよ、
「何かを得れば、何かを失う」ことになります。
そして、その最適解を見出すことは容易なことではありません。
参照エッセイ:Deep KISS 最終号「バランス」
とはいえ、結局は、様々なバランスの取り方における意思決定には時間的な期限があるので、私の場合は期限が近づいたところで自分が信じるバランスを「えいやぁ?」って決めちゃうわけですが(笑)
私は、各個人が様々なバランスを取ることの積み重ねによって社会が形成されていることにすごく面白さを感じています。
その意思決定によって、各個人、会社、そして社会の行方も変わってくるわけですからね。
皆さんはどんな「バランス」を抱えて、どんな意思決定をしてますか?
PS
私が「バランス」について初めて強く意識したのは、簿記を勉強し始めて、「借方」と「貸方」の概念を知った時でした。
「一つの取引は常に二つの側面から表現される」ことを知った時、
「世の中って全てそうなんじゃないか?」と感じたことが強く印象に残っています。
あれからずいぶん時が経ちましたが、「バランス」についてこんなに悩まされるとは思ってもいませんでした。
そして、これからも悩まされそうです(笑)
2007年6月12日 S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!