板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「スティールパートナーズ(1)」


スティールパートナーズに関する考察を今回から数回に分けて書きたいと思います。
初回の(1)は、スティールに関する情報を積極的に集めていない段階での「印象」についてです。
印象(1):「グリーンメーラーとしか思えない」
(「村上ファンド」なんて、かわいいもの)
彼らの主張は、概ね・・・
「資本効率の低い企業を買収し、経営者および投資家の教育を通じ、当該企業の資本効率を向上させ、企業価値の最大化を図ることを目的にする」
とかなんとか言っているようですが、
「そんなの無理」です。
なぜならの1:
彼らが既に5000億円ほど投じている日本企業(←この場合の日本企業とは、当該企業の利害関係者の多くが日本で暮らす=日本国政府に納税義務のある者によって構成され、東証をはじめとする日本の資本市場に上場している企業)のポートフォリオの「数」を見るだけでも、それらのポートフォリオ一つ一つの経営者や株主に「教育」(彼らの言うところの教育とは一体ナンなのか僕にはさっぱりわかりませんが)を施すことなど、到底不可能だからです。
そもそも、「たった一つの企業」の利害関係者の教育だけでも結構大変なわけですから。
なぜならの2:
彼らのポートフォリオの内、日本企業だけを見ても、彼らの取得価格やTOB価格は、(少なくとも僕の価値算定の基準からは)決して割安ではない、からです。
もちろん、買収後の資本効率アップが実現すれば、買収時に「割高」であったとしても、後にフェアバリューとなりうる可能はありますが、上記「なぜなら1」と合わせて考えれば、やはり「割高」で投資を実施していると思います。
とすると、「ブルドックソースをカゴメに高値で売りつける」(←仮想ストーリーです)といったグリーンメーラー的イクジットが現実的になる、と、少なくとも僕は思います。
以上の「初期的印象」を元に、次回以降のスティールに関する考察を書いていきたいと思います。
現在、当事務所のパートナーの協力を得て、スティールの情報(資金調達方法、大出資者、買収戦略の傾向、イクジットの傾向、ポートフォリオ分析など)を集めていますので、お楽しみに。
また、読者の方からの情報提供もお待ちしています。
今回(1)の結論:「資本市場には、金がわんさか余ってる。」
彼らのポートフォリオとその取得価格を見る限り、
「金余っちゃってて、何でも良いから買うしかないのよ」
という印象を受けます。
メディアは、
「日本企業が全部買われてしまうぞ大変だ!」
みたいなことを表現したりします。
でも、全然大丈夫です(笑)
かつて、日本の80年代バブルのとき、米のメディアでは、
「アメリカが日本に買われてしまうぞ大変だ!」
と騒いでいましたが、
ロックフェラータワーが三菱に買収されたとき、賢い投資家は、
「売ってしまえよ、どうせ持っていけやしないんだから」
と考えていました。
日本企業の場合だってこれと同じです。
「売ってやれよ、従業員までもっていけやしないんだから」と(笑)
日本企業の価値の源泉は、とにかく「人」なのです。
サウジアラビアとは違うのです。
「箱」が買収されても、従業員が辞めてしまえば、文字通り「もぬけの殻」。
ロックフェラータワーも、結局、高値で一旦三菱に売却し、しばらく経って、安値で(=三菱が損をして)買い戻しているわけです。
「所有」なんていうのは、以上のように幻想に過ぎないのです。
株主とは、社会の公器である企業に対し、
資金を投じているという「いちパートナー」としての存在に過ぎません。
所有する企業を「なんとでもできる」と思ったら大間違いなのです。
いずれ彼らが「仕方なく手放すとき」が来るとすれば、
そのときは、しっかり「割安で」いただきましょう!(笑)
2007年6月13日 板倉雄一郎
PS:
もしかしたら、彼らの情報を集め、それなりに分析を進める過程で、
「グリーンメーラーなんてとんでもない!彼らは真っ当な投資家だ!」
なぁ?んて結論になる可能性もゼロではありません。
(限りなくゼロに近いと思いますケレド)





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