板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「ファイナンスを学ぶということ」

先週末も合宿セミナーでした。
受講生の顔ぶれは、いつものように、年齢も職業も性別も事前知識も、どの角度から見ても参加者のそれは幅広く、しかしすべての受講生が学習を楽しんでいたという共通点がありました。

セミナーのたびに思うことですが、
「1年で●億円儲ける方法!」とか、
「講師のだれそれは年率●%のパフォーマンス!」
などというキャッチコピーに惹かれてやってくる「他のセミナー」の受講生のような、ドヨォ~んと暗く、社交性がなく、金にガツガツした連中ばかりが当事務所のセミナー受講生だったとしたら、僕はこのセミナーを16回も出来なかったと思います。
現在のセミナー活動を始めて早2年となりますが、これまで続けてこれたのは、これまでの受講生の方々がナイスガイ、ナイスレイディースだったからだと、つくづく思います。

「株式投資には興味がなく、経済の仕組みについて学びたかったが、このセミナーを受け、株式投資によって学習の効果を確かめたくなった」
という感想を今回の受講生から頂きました。
株式投資であれ、消費活動であれ、就労であれ、これらすべては社会に対して何らかのカタチで参加するということを意味します。
この点、常に読者や受講生に伝えようと努力してきましたが、セミナーのたびに、それが伝わる様子に満足し、楽しませていただいております。

ところで、ファイナンスを学ぶということの目的は何でしょうか・・・

僕なりの結論は、
「素晴らしい仲間を見つけ、自分もその仲間になるため」だと思っています。

たとえば、サッカーチームについて考えて観ましょう。
サッカーチームへの関与の方法は様々ですよね。
サポーターとして、観客として、
はたまたプレーヤーとして、監督として・・・
いずれの関与の仕方であれ、出来れば関与しているチームに勝って欲しいですよね。
増してそのサッカーチームの一部の所有権を得るという関与の仕方なら、なおさら勝って欲しいですよね。
そうでなければ、その所有権を得ることによるリターンが得られません。

勝つチームに関与するためには・・・
1、勝つ可能性を見極める能力を身につける。
2、そのチームの勝つ可能性を高めるために自分の何らかの価値を提供する。
が必要だと思います。

1については、知っていなければならないことがいくつかあります。
サッカーのルールを知る。
サッカーで勝つための条件を知る。
それぞれのプレーヤーの役割を知り、プレーヤーの評価方法を知る。
などです。
つまり、サッカーについて熟知していなければ、サッカーチームの評価は出来ないということになります。

また2については、1によって勝てる能力を持ったサッカーチームを見つけたとしても、自分自身の関与がそのサッカーチームの「足を引っ張る」ような関与の仕方では、自分自身が損失を被るばかりではなく、そのサッカーチームに迷惑をかけてしまうということを認識することが大切だ、ということを意味します。
たとえば、そのチームの部分的なオーナーになり、オーナーとして権利をことさら主張し、
「選手の報酬が多すぎるから、もっと削って、その分俺によこせ!」とか、
「新しい練習場など必要ないから、チームの資金を俺によこせ!」とか、
「一度オーナーになったけれど、チームが勝ってチームの評価が高くなったら、その権利をさっさと売るぜ!」とか、
そんな態度で臨めば、そのチームのほかの利害関係者にとって迷惑な話ですよね。
また、監督として関与して、
「ディフェンスなんか地味だから、派手で目立つ攻撃力だけ高めればいい!」とか、
「サポーターや選手のことなどどうでもよい、俺の報酬を高めることだけ考えよう・・・どうせ『サポーターの皆様のために』とか適当な言葉を吐いておけば大丈夫さ」などという態度で望めば、チームは崩壊してしまいます。
そんな「寄生虫」のような態度で接すれば、せっかく優れたチームを見つけることが出来ても、一時の利得と引き換えに、そのチームの活動による恩恵を継続的に受けることが出来なくなり、結果として自分自身の首を占めることになります。

つまり、
サッカーチームに関与し、自らの利得を継続的に最大化するためには、サッカーに関する知識を習得し、優れたチームを見つけ出し、そのチームに自らの何らかの価値を提供することによって、勝つ可能性をさらに高め、結果としてチームと自分自身のリターンを得るということです。

「チームプレイである以上、優れた仲間とチームを作ること」が勝利の条件であるはずです。
至極当たり前のことです。
この点において、サッカーのルールや勝つための戦略について知らなかったら、優れたチームを探し出すことなど不可能と言えるでしょう。

ファイナンスの知識とは、つまるところ上記のサッカーの例と同様、
「優れた企業というチームを探す術」です。
つまり、経営者や従業員、そして株主など、自分以外の利害関係者の「専門職としての評価」を行う術なのです。

「株主様を大切にしています」と発言する一方で、株主を著しく毀損するオペレーションを行う経営者を僕は軽蔑しますが、そのオペレーションが株主を毀損するかどうかは、ファイナンスの知識がなければ判断できません。
そんなインチキ経営者の言葉に騙され集まってくる株主によって構成された企業に、自分が混じってしまえば、気が付かぬうちに損失を被ります。

ファイナンスの知識は、経済活動における「人物評価」のための術なのです。
自分が何らかのカタチで関与しようとするチームが、自分とそのチームにとって優れた集団であるかどうかを判断するための術なのです。

多くの人が、ファイナンスの知識を得ることが出来れば、インチキは淘汰され、優れたチームだけが存続することでしょう。
そして優れたチームに関わった人は、きっとハッピーになることでしょう。

これからも、たくさんの方々に「優れた仲間を見つける術」を伝えてゆきたいと思います。

2006年5月16日 板倉雄一郎

PS:
ちなみに、サッカーの試合で勝つためには、
「たくさんのゴールを奪う」のではなく、
「相手に奪われたゴール以上のゴールを奪う」です。
この点に注目すれば、
「相手にゴールを奪われないようにする」
が如何に大切かがお分かりになるでしょう。
絶対にゴールを奪われないチームなら、負けることはありません。
勝つためには、まず負けないことが大切です。
これをファイナンスに応用すれば、
企業価値を高めるためには、
「たくさんの収益を得る」ではなく、
「かかるコスト以上のリターンを得る」であり、
「資本コスト以上の投下資本利益率を得る」と言うことになります。
つまり、「資本コストを下げること」が如何に重要であるかがお分かりになると思います。
企業の成否は、資金の「運用側」もさることながら、それ以上に資金の「調達側」が大切なのです。
調達で失敗した僕が言うのですから間違いありません。
「運用」にばかり気を取られていると、
(=攻撃にばかり気を取られていると)、
「調達」で失敗してしまいます。
(=相手にゴールを奪われてしまいます。)
多くの方は、どのような事業がどれほど利益を生むかという「運用側」については、よく知っていると思いますが、そのための資金の「調達側」については、あまり知ろうとしませんよね。
企業買収が話題になっても、その資金の調達側が話題になることはほとんどありません。
多くの人が、運用側より調達側が大切であることを知らないからです。
このサイトの読者の方々には、その点強くお伝えしたいと思っています。
なぜなら、投資家とは、企業にとってその「調達側」の役割だからです。

 





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