板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「オリエンテーリングの想い出」


もう30年ほど前の話になりますが、中学のイベントで、オリエンテーリング大会があった。
オリエンテーリングとは、
1、主催者が地域の数箇所の適当なポイントに、あらかじめ、フラッグや「そのポイントにたどり着いた証となるモノ」を設置し、
2、競技参加者は、文章によるポイントのヒントと地図、そしてコンパスを頼りにポイントを回り、
3、早くゴールにたどり着いた者が勝ちとなる、
あのゲームのことです。
その大会は、給食などのときに作る「班」をチームとし、全校で百数十チームによる大会でした。
物心ついたころから、どういうわけか「チームリーダー」になってしまう僕は、この日も班のリーダーだった。
スタートの合図と共に、他のほとんどすべてのチームが駆け足で最初のポイントを目指すのを横目に、僕のチームは、僕の一声、
「まあゆっくりやろうよ。焦って走ったところで楽しくないじゃないか。
 優勝したところで、どうってことないでしょ。」
で、楽しくおしゃべりしながら、つらつら歩き始めた。
僕は、チームメンバーのダベリングに適当に頷きながらも、心の中では、
「そうは言っても、全校でビリじゃチームの皆もがっかりするだろうから、
 何とか効率よくポイントを回るようにしなくちゃ!」
と思っていた。
そして、ゆっくり歩きながら以下のような戦術(?)を考えた・・・
1、ポイントのヒントから、すべてのポイントの位置を大まかに予測する。
2、最短距離ですべてのポイントを回る順番を考える。
3、間違った道を行かないように、地図とコンパスの使い方を厳密にする。
4、そして、途中で他のチームに遭遇したとき、相手の成果やこちらの成果について情報を交わさない。
(↑ 無用な「チームメンバーの焦り」を排除する)
だべりながらのお散歩は楽しかった。
誰が誰を好きだの、誰と誰が放課後どこで会っていただの、
先生が休日にパチンコ屋に居ただの、
まあよくある中学生同士の会話だったが、楽しかった。
そして、いくつかのミスはあったが、順調にポイントを回ることができた。
途中、他のチームが、あっちだ、いやこっちだ、と走りながら行き来する姿を目撃したが、僕達のチームメンバーは、彼らを笑いながら応援していた覚えがある。
すべてのポイントを回り、ゴールの校庭に戻ってくると、そこには誰も居なかった。
「やっぱゆっくりだったからねぇ!」
「まあいいじゃん、楽しかったし」
「でも、恥ずかしいよな、ビリじゃ」
そんな声がチームメンバーから聞こえてきた。
僕は、それでも、「もしかすると・・・」という可能性を捨てていなかった。
恐る恐る、「○×中学校」と書いてある色気の無いタープの下に居る事務局(とは言っても、普段の先生ばかりだが)に近寄り、
「あのぉ?、ゴールしましたけど・・・」
と僕はつぶやいた。
すると、事務局の先生は、
「お前本当かぁ?、どれ見せてみろ」
僕は、ポイントを回った証(この大会では、それぞれのポイントにそれぞれの色のクレヨンが置かれていた)を差し出した。
「どれ、・・・・・・・」
事務局の先生は、10箇所程のチェックボックスにクレヨンで記した色と、「模範解答」の色を照合してゆく。
「おお、すごいな、お前ら優勝だな。」
結果を告げる言葉は、あっけなかった(笑)
「やっぱり」
僕は、心の中でそう思った。
チームメンバーは、僕の感覚とは違い、驚いているようだった。
それから数時間、すべてのチームが戻ってくるのを待ち、表彰式が始まった。
演台で僕は、「ゆっくりやっただけです」と話した。
その言葉は、全校生徒を敵に回すのに十分だったかもしれない。
ひたすら走るという「目に見える努力」をしなかったことが、不評を買ったのか、誰も僕達の優勝を褒め称えてはくれなかった。
けれど、僕達は間違いなく「努力」した。
戦術を考え、チームメンバーの地理に関する知識を集め、道具を正確に利用するという努力をした。
このときの想い出は、現在、僕自身が何かに「焦り」を感じていると僕自身が認識したときに思い出すようにしている。
「あの時だって、うまくいったじゃないか」
そう、自分に言い聞かせるときに思い出す人生の糧である。
この想い出から得られる示唆を忘れていたのは、20代後半から30代前半までの時期だった。
今、板倉雄一郎事務所の活動に関して、たくさんの方々から、
「もっと早くやれ!」
「もっとレバレッジを効かせろ!」
「もっと規模を拡大しろ!」
などのアドバイスをいただくことが結構ある。
けれど、僕は、今のペースを変えようとは思わない。
ゆっくり、しかし確実に、一歩一歩進めたいと思う。
以上の想い出から得られる示唆は・・・
1、経済的にしろ、時間的にしろ、焦っているメンバーはパートナーにするべきではない。
2、同業他社との比較を行うべきではない。
(↑ 一歩先んじる同業他社が必ずしもゴールに早く到達するとは限らない
  =同業他社のやり方が常に正しいとは限らない。)
3、すぐに動くのではなく、動き方をじっくり考えた上で動く。
4、そして、楽しめなくては続かない
(↑ 息切れするほどのスピードは継続不能)
現在の僕のチームは、それが投資や企業経営、そして教育の分野に属するから、相手は世界全体にまたがる。
だから、バフェットチームのような「優勝」には至らないだろう。
けれど、僕達の価値観に基づいた僕達のハッピーの継続は、十分可能だと思う。
2007年5月30日 板倉雄一郎





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