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統計のお話 第13回「バラツキの評価」


(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。

本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”

「統計のお話し 第13回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】バラツキの評価
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突然ですが、皆さんは、
・ハイリスクハイリターンな投資
・ローリスクローリターンな投資
どちらが良いですか??

個人の好みもあるでしょうし、資金の性質にもよるでしょうから
答えはそれぞれでしょうね。

今回は、ファイナンスに限らず、統計で避けては通れない
重要な分野について触れたいと思います。

それは、分散と標準偏差、分かりやすく言うと、バラツキのことです。
分散、標準偏差、というと生理的に受け付けない方も
バラツキ、と覚えれば直感的に大丈夫ですよね?!

なぜバラツキをみる必要があるか、と言いますと、
ファイナンス上とても重要な”リスク”という概念がありますが、
そこに大きな影響を及ぼすのがバラツキ、だからです。

リスクの例を持ち出すまでもないので、
下記のような例を考えてみましょう。

下記の表はAさんとBさんの2001年?2005年の
株式投資の成果です。

この表を見ると、Aさんは安定的な収益を上げていて、
年次リターンに目立った数字はありません。

一方Bさんは65%で運用をした年もあれば、
マイナスになっている年もあります。

Bさんの方が明らかにバラツキが大きいですね。
両者の過去5年間の年次リターン(%)の単純平均は
17%と等しいですが、
運用結果はAさんが2.2倍、Bさんが1.7倍と、
Aさんの方が良いです。

このように、いくら平均値が同じであっても、
バラツキが異なることによって、結果は変わってきます。
というわけで、
バラツキが大事であることはつかんでいただけましたか??
バラツキのことを知りたくなってきましたか??
いや、別に・・・、
とは言わずにもう少しお付き合いください(笑)。

せっかくなので、簡単な例でバラツキを求めてみましょう。
A:[-3], [5], [1]
B:[-8], [2], [9]
AとB、明らかにBの方がバラツキが大きいですね。

しかし、A,Bともに平均値は1になります。
この時点で両者に差はありません。

そこで、平均値からの離れ具合をみるために、各数字から
平均値の1を引いてみましょう。
すると、、、
A:[-4], [4], [0]
B:[-9], [1], [8]
このときA,Bともに足し合わせると0になります。
これでは、評価できないので、それぞれを2乗にして、
足し合わせると
A:32 (=16+16+0)
B:146 (=81+1+64)
随分と差が出ましたね。これらをサンプル数(この場合は3)で
割ると“分散”と言われるモノになります。
ところがこの分散は、単位が%の2乗、という特殊なものですから、
理解しやすさと数学的な理由により、
この分散のルートをとった“標準偏差”が最も使われています。

ちなみに、この標準偏差ですが、業界用語(笑)で
ボラティリティと呼ばれます。

しったかぶりたい方は、バラツキが大きい現象に対して、
「ボラティリティが高い」と、表現してみて下さい。

ちょこっと賢くなった気分になることうけあいです(笑)。
さて、本日の最後に、バラツキをエクセルで扱う際の
注意点を書きたいと思います。

標準偏差を使おうと思ってエクセルの関数を見ていくと、
標準偏差が3種類あることに気づくかと思います。
1.STDEV()
2.STDEVP()
3.STDEVPA()
(ちなみに標準偏差の英訳はSTandard DEViationです)
ここで、3は無視してください。3はファイナンスでは使いません。
それでは、1と2の違いは何かといいますと、
Pが付いているかどうか、ですね。

いや、そりゃ見りゃ分かるよ、といった感じだと思いますが、
このPとは何かというと、Population(母集団)のPです。
(母集団の説明はこちら)
扱っている数字が、母集団全体である場合は、
Pが含まれているSTDEVP()を使用します。
そうでない場合は、Pが含まれていないSTDEV()を使用します。
具体例に見てみましょう。

<問題>
TOPIXの年次リターンは平均何%であるか
上記を求める場合、1950年~2000年までのデータを
持っていたとしても、2000年以降の数字が手元にありませんし、
未来の数字はそもそも手に入りませんよね。

この場合、TOPIXの年次リターンは、
市場が始まってから、終わるまでの全ての年次リターンが
あってはじめて、母集団全体のデータを取得できたことになります。

つまり、1950年~2000年のデータは、
母集団全体ではなく、そこから取り出したサンプルに過ぎないわけです。
そのときに使うべきは、Pが含まれていないSTDEV()を
用いる必要があります。

<問題2>
1950年~2000年のTOPIXの年次リターンは平均何%であるか
この問であれば、年次リターンの全てのデータがある
(=母集団全体を扱える)ので、
STDEVP()を使う必要があります。

データ数が小さいときは結構な差になりますので、
覚えておくのが良いと思います。

というわけで、長々と説明してきましたが、
一言で表しますと、調査対象全てのデータを扱うときは、
母集団(Population)全体を扱っているので、P付き。

そうではないならば、Pなし、でOKです。
標準偏差には、数学的に面白い特徴があるのですが、
それはまた別の機会にお話ししたいと思います。

2007年5月31日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!

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統計のお話 第12回「真っ当な株式投資」

次回のパートナーエッセイは6月2日(土)にMori氏が担当します。





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