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統計のお話 第6回「検査結果で陽性が出た!」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!

板倉さんの2007年のテーマは「健康」とのことでしたので、
今回は誰にとっても身近な(?)“検査”について
取り上げてみたいと思います。

“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第6回」をお届けいたします。

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1.【日常生活編】必ず起こりうる過ち
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「うわっ、たんぱくが陽性だっ!再検査だって(泣)」
「俺もコレステロール値がヤバイって??」

企業にお勤めの方は春先になると、
健康診断がありますよね。

中には上のように、陽性が出て、
再検査を言い渡されてしまった方もいらっしゃるでしょう。
(ちなみに私はビール党なので尿酸が心配です・・・)

ちなみに、私は、たんぱくでも異常値が出て
再検査になったことがありますが、改めて検査をしてみたら
“異常はありませんでした”
ということになりました。

要するに“最初の検査結果は間違っていた”わけです。

同様に検査結果が間違う場合としては、
“本当は陽性なのに、陰性が出てしまう場合”です。

このように、検査では必ず2種類の間違いが起こります。

1つ目は正しいこと(今回の例だと陰性)を
誤っている(陽性)としてしまう場合。
(第1種の過誤といいます)

2つ目は誤っていること(陽性)を
正しい(陰性)としてしまう場合。
(第2種の過誤といいます)

これを表にすると下のようになります。

     表:2種類の誤り



さて、このように、1回目の検査でひっかかったのに、
再検査では大丈夫だったという経験をされた方も
いらっしゃると思いますが、
そもそもなぜこのような間違いが起きるのでしょうか。

そのナゾをとく鍵は、
“正常とはどういうことなのか”にあります。

医学では、その“正常”を決めるべく、
正常な人をたくさん集めて、
その人たちの値(例えばコレステロール値)をとるわけです。

コレステロール値のデータを集めたら
どのような分布になっているかを調べます。
今回は下記のような正規分布になったとします。
(正規分布にならない場合もあり得ます)


     図:コレステロール値の分布例

そこで、次にやることは、
どの値からどの値までを正常とするか、です。
一般的には、中央の95%を正常な値とします。

つまり、高い側の2.5%と低い側の2.5%を異常となり、
図にすると次のようになります。


    図:コレステロール値の正常と異常の境界線

ちなみに総コレステロール値の正常値は
120?199mg/dlとされていますが、
このような考え方で求められているわけですね。

正常な人たちの中にも極端な値を出す人がいるようですが、
中央から極端に外れた値の方が再検査をするに値するため、
“異常なので、再検査して下さい”となります。

種類の過ちでいうと、第1種の過誤になりますね。

さて、検査関係の値は基本的に同じ考え方で
正常値が定められています。
(当然例外もあります)

ですので、20種類の検査結果があったとして、
本来、その全てが正常だとしても、
検査結果で1つ以上の項目が
異常値として判断されてしまう確率は
かなり高くなります。

具体的には、
1?(0.95)^20=0.641…=約64%!

20項目も調べれば、
完全に健康な人でも約64%の確率で、
どこかしら悪いものと判断されてしまいます。

あなたの周りの健康な人が
いくつかの項目で引っかかっていたり、
再検査したら実は大丈夫だったり、
というのは、統計的に良く起こることだったわけですね。

「そんなに間違えるなんてケシカラン!!」

とお思いの方も多いと思います。
しかし、仕方のないことでもあるんです。

例えば、中央の95%を正常値とするのではなく、
99.9%までを正常値としたとします。

そうすると正常な人が20項目の検査をしても、
1つ以上の項目で異常だと判断される確率は
64.1%から1.9%まで引き下げることが出来ます。

しかし、今度は逆に異常値だけれども、
正常と判断されてしまう確率も
格段に上がってしまうのです(第2種の過誤)。

つまり、第1種の過誤と第2種の過誤は
トレードオフの関係にあるわけですね。

そこで、考えなければならないのは、
第1種と第2種の過誤でより問題が大きいのはどちらか、
ということになります。

検査の場合、目的は大きな病気が発症する前に、
身体の異常を発見することですから、
第2種の過誤(異常を見逃してしまう)の方が
よりマズイわけですね。

こういった事情で、第2種の過誤が起きにくいように
異常値を検出する値が定められているわけです。
(当然第1種の過誤が起きやすくなりますが、
もしあなたが本当に病気だった場合には助かるので、
許してやってください)

ちなみに、1回目の検査で陽性となり、
再検査も陽性となることはあまりありません。

例えば、尿酸値で異常が出て、再検査をします。
両方とも中央から95%を正常値とする検査の場合は、
0.05^2=0.25%になります。
1000人に2人ぐらいの割合ですね。

また、2回目の検査は1回目とは別で、
より確実に異常かどうかを判断できる検査をするのが
一般的です。

「最初からそっちの検査やってくれよ」

というご意見ももっともですが、全員にその検査をするのは、
コストの関係で実現が難しかったりします。

巷で30万とか50万とかの
価格の高い人間ドックを受ける人がいますが、
それは、コストが掛かるけども、
より確実な(見逃しや誤りの少ない)検査方法を
用いているから、といえるわけですね。

今回は誰もが1年に1回は体験する
“検査”について取り上げてみました。

長くなりましたので、ビジネス編は一回お休みで、
次回からまた書いていきたいと思います。
どうぞお楽しみに!

2007年1月9日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!

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統計のお話 第5回「アンケートって・・・」

次回のパートナーエッセイは1月11日(木)にTakamura氏が担当します。





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