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統計のお話 第14回「β(ベータ)の求め方」


(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第14回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】「β(ベータ)の求め方」
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当事務所のWebでは、今まで、βやCAPMに対する
取り扱いに注意を促して来ました。
例えば、下記のエッセイ、
SMU 第103号「資本コストと割引率」
SMU 第168号「β(ベータ)」
ほか多数。
今回は、概念的な話もさることながら
エクセルでβを算出する方法を通して、
実際にβが如何に役にたたないか(笑)、
を検証してみたいと思います。
まず、具体的に吉野屋ディーアンドシー(9861)のβを
算出してみようと思いますが、その前に、改めて、
βのイメージを持ってもらいましょうか。
ある銘柄が、日経平均(やTOPIX)が上昇(下落)した時に、
その銘柄はどのように動くのか、を数値化したものがβです。
具体的には、
市場が10%伸びたときに20%伸びる銘柄であれば、βは2になり、
市場が10%伸びたときに5%だけ伸びる銘柄であれば、
βは0.5になります。
イメージはつかめましたか??
さて、ヤフーファイナンスで9816で検索してみて下さい。
吉野屋の情報が表示されると思いますが、関連情報の中に、
“時系列”というボタンを押します。
すると過去の株価データが検索できる画面に行きますので、
例えば、2003年5月~2007年5月、を選択します。
続いて、日次の株価データ、あるいは週次データなのか、
月次データなのか、を選択します。今回は月次にしましょう。
そこで表示ボタンをクリックします。
すると、始値、高値、安値、終値、出来高、調整後終値の
月次データが表示されますよね。
これをエクセルに貼り付けておいて下さい。
また、TOPIXは銘柄のコードが998405なので、
これも同様の期間調べて月次データを
エクセルに貼り付けておいて下さい。
吉野屋とTOPIXの株価の月次データが得られましたね。
ここで、終値と日付以外の情報は消してしまいましょう。
他のデータは使わないんです。
さて、次に、
(前月の終値)/(当月の終値)-1
という計算式を入れていきます。
下表のように、最初から最終まで上記の数式を入れます。

同様に吉野屋についてもも求めることが出来ます。
終値の変動までを計算して下さい。
最後に、
=LINEST(吉野屋の変動,TOPIXの変動)
を入力すれば、βを算出することが出来ます。
(LINESTは傾きを算出する関数です。
あまり使わない関数ですので、覚えなくて結構です。)
カンタンですね!
これで色々な企業のβが実際に求めることが出来ます。
(βの情報はブルームバーグでも手に入りますので、
ご自身で計算されたものと、ブルームバーグのような
企業から発表されたものの違いを見るのも面白いかもしれません)
さて、吉野屋の場合はどうなるかと言いますと、
過去3年分のデータでβを求めると0.036になります。
過去1年分のデータでβを求めると-0.67になります。
(βがマイナスということは、市場が+に伸びているときに、
マイナス成長であるということです)
ちなみに、ブルームバーグでは、0.519とのことです。
見ての通り随分違いますね~。
少し、違うというレベルではなく、随分変わってしまいます。
(βの算出にどの程度過去までさかのぼって計算するか、
によって、これだけ数字が変わってしまうわけです。)
そして、この“不安定な”βが、
現在価値を求めるための最も大きな因数であるWACCに
かなりの影響を与えるわけです。
βの信用できなさ加減が伝わりましたでしょうか。
ご自身の気になる企業でも試してみて下さい。
ご自身でやってみると、βは信用できない、
ということを腹の底から理解できます(笑)。
ちなみに、βを発表している機関・企業は
ブルームバーグ以外にもあるのですが(Barra社など)、
彼らは、株価変動以外の要因も含めてβを算出していたりします。
また、経済学者たちも、βの精度を上げるために、
細かい場合分けをしたβを求めたり、
βの精度を上げるべく理論研究に日夜励んでおられる方も
いらっしゃいます。
このように、β自身も改良はしていっているようです。
(が、その改良の結果、最適な未来が求まるとは
思えませんが・・・苦笑)
最後に、個人的な体験を共有させていただきます。
私が大学院で研究していた頃、リアルオプションという理論を使って、
原子力発電所建設の価値を算出し、建設の可否を研究していました。
(あの有名な(?)ブラックショールズ式を元にした理論です)
当時は真剣にリアルオプションは面白かったですし、
某電力会社の方から研究者としての就職のお誘いも
いただいていましたが、
結局、研究者の道を選ぶことはありませんでした。
一番の理由が、
今回行った“怪しい”βの算出と、それによる影響力の大きさのため、
「この研究、本当に意味あるのか?!」と悩んだからです(笑)。
実際、米国の電力小売価格の変動から、
βのようなとある数値を求めて、
その数値の取り方により、割引率が決定されます。
感度分析しなくてもだいたい検討つきますが、
割引率が投資の可否に最も影響があるわけです。
数千億の初期投資額よりも、
原子力発電所建設にかかる近隣住民説得費用よりも、
β(のようなもの)の算出期間の影響力がデカイなんて!!
ナイーブな学生であった私には、
理論の限界を知る十分な体験でした。
とまぁ、色々書きましたが、
結局、“βってどうなんだろう?”というお話でした。
Webをご覧の皆様におかれましては、
くれぐれもβで時間をとられないようにしていただきたいと思います。
では、どうすれば良いかって?!
それは、板倉さんの過去エッセイにたっぷり書いてありますので、
ご覧下さい。
私が好きな文章を下記に引用させていただきます。
SMU 第103号「資本コストと割引率」より再掲
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重要なことは、「そもそも企業価値評価を何のために習得するのか?」という点です。
もし、「証券会社に勤めてアナリストになりたい」とか「現在、企業価値評価をする仕事をしているが、その精度をアップさせたい」ということなら、この小難しい資本コストについて、可能な限り正確な数値をはじき出せるように、勉強する必要があると思います。
ところが、その目的が「株式の長期バリュー投資で資産運用したい」とか「自分の会社を自分の条件で売却したい」ということであれば、実は資本コストの算出に関して、頭から煙が出るほど勉強しなくても、その理屈が理解できる程度でよいわけです。
たとえば長期バリュー投資をしようとする場合、自分が考えるところの、ある種、身勝手な期待収益率というものがあるはずです。たとえば、「マザーズのような新興企業に対する投資の場合、年率20%!のリターンが見込めなければ、投資したくない。」などなど。
このように一投資家のリスクに対する期待収益率がある程度決まっている場合、その期待収益率をもって株式の機会費用とし、その結果算出される資本コストを当該企業の将来キャッシュフローの割引率とすればよいわけです。その結果算出された企業価値から有利子負債などを差っ引き、株主価値を割り出し、ここで得られた数値と株式時価総額を比較し、時価総額の方が小さければ、チャートがどうであれ、投資すれば良いわけです。
つまり「割引率=資本コスト」という考えは、お勉強のためのためであって、お金儲けの場合は、必ずしも「=」とする必要はないというわけです。
あたたり前のことですが、自身の期待収益率が高すぎると(=割引率が大きすぎると)、時価総額より大きな企業価値算出結果を得られなくて、つまり投資先が見つけられなくて、「自分で消費者金融やるしかないな」となってしまいますけどね(笑)
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2007年6月7日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!
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次回のパートナーエッセイは6月9日(土)にmori氏が担当します。





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