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統計のお話 第3回「母の集団?」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの下田です。
本日も統計の時間がやってまいりました!

“読むだけで統計のエッセンスがつかめる”
「統計のお話 第3回」をお届けいたします。

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1.【日常生活編(1)】母集団と標本に注意!
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“母集団”という言葉は聞いたことがありますか??

これは、ははしゅうだんではなく、
“ぼしゅうだん”と読みます。

具体的な例を挙げますと、
視聴率調査の場合、母集団は日本に住む人全員です。
小学生の学力調査の場合は小学校に在籍する小学生全員です。

母集団のイメージはつかめましたか??

さて、視聴率調査の場合、日本に住む全員のテレビの
視聴時間を記録するのはほぼ不可能と言っていいでしょう。

でも、なんとかデータが欲しい!

そんな場合は、母集団全体から、一部を抜き出します。
(一部のことを“標本”、抜き出すことを“抽出”と言います)
標本を調べて統計的に処理することにより、
母集団全体の数値として扱うわけです。

母集団と標本の関係を図にすると
下記のようなイメージになります。
(標本1、標本2は抽出の仕方による違いを表しています)


図:母集団と標本の関係

例えば、視聴率調査で有名なビデオリサーチでは、
関東地区15,798,000世帯(2000年国勢調査)のうち
600世帯を調査対象としています。

ここでは、15,798,000世帯が“母集団”で、600世帯が“標本”
ということになります。

どうですか?意外に少ないですね。

本当に600世帯で全体のこと分かるの??
と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、
話が長くなりますので、ここでは割愛します。
詳細が気になる方はこちらをご覧下さい。

視聴率調査のように、全てを調べることが難しい場合は
標本を取り出し、それらを調べることにより、
全体を把握します。

そして、標本を抜き出すという行為。
ここにワナが潜んでいるのです・・・。

例えば、新宿駅の利用者にアンケートを取りたい場合が
あるとしましょう。

そういう場合に、母集団は新宿駅の利用者全員ですから
全てを調べるのは難しいですよね。

そこで1000人分のアンケートを10人で手分けして
集めることにしました。

そしてあなたが調査員の1人だとします。
さて、あなただったらどんな人に声をかけますか??

たぶん、ですが・・・、

身長2メートルを超える筋骨隆々の外人さんに
話しかける人はいないでしょう!
言葉の壁もあるでしょうし。

私もきっとできません(笑)

新宿駅のようにたくさんの人がいる環境で、
あえて難易度の高い人へアンケートを
お願いはしないのではないでしょうか。

そうすると、母集団は新宿駅の利用者、としたいのに、
集まってきたデータからは、言葉の問題から
実際よりも外国人率が低いことが想定されます。

また、強面系の人もはずされるかもしれません。
急いでいるサラリーマンにも声を掛けづらいですね。

さらに、調査員10人のうち、10人とも
女性だとしたら、アンケートする1000人のうち、
女性の割合が増えるのではないでしょうか。
逆もしかり、です。

あ、いや、男性調査員も、女性にばっかり
声を掛ける人がいるかも知れません(笑)。

このように、母集団からきっちりと正確に、
標本を抜き出す(抽出する)のは、非常に難しく、
偏りが生じてしまうことも多いのです。
(抽出だけを扱う本もたくさん出ています)

というわけで、駅前調査などの対面調査の調査結果
(特にテレビ番組などの調査)はあまり信用しない方が
良いでしょう。知らない間に制作者にコントロールされます。

例えば、景気が急速に回復している、という趣旨の番組を
作りたかった場合、景気が急速に回復している地域で多めに
実地調査を行い、統計データを取ります。

で、実際に使う際には、「○○地方で実地調査を行った結果」
というナレーションなり、文言なりを一言追加すれば、
実態とは異なる印象を視聴者や読者に与えることが可能です。

このように、制作者の意図によって、“それっぽい”データは
カンタンに作れてしまいます。

もっと簡単な例ですと、
“渋谷での街頭調査の結果、この商品が流行っています”という
内容がテレビで放映されていた場合、それは広告に見えない
単なる広告かも知れませんよ!

おかしな記事やデータを見つけたら、
母集団や標本を疑ってみましょう!

きっとどこかにゴマカシが潜んでいると思います。

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2.【ビジネス編】あなたのビジネスに統計を活用する方法
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さて、本日のテーマは母集団です。

そもそも母集団の全体を完璧に正確に数字に要約するには
(※統計は要約の技術でしたよね。第2回参照)
全部を調査した方が良いことになります
(全数調査といいます。ちなみに全数調査の例は国勢調査です)。

ところが、全数調査が現実的でない場合がビジネス上でも
大いにありえるわけですね。

例えば、20000時間の耐久時間を持つ電球を考えます。
全数調査を行うということは、出荷前に、全ての製品で
20000時間実際に点灯させ続けてみるということです。

でも、それって20000時間の点灯を証明することはできますが、
出荷される時点で、20000時間も使い古された電球、です(笑)。

当然誰も買わないですよね・・・。

ですので、こういった場合は、
製品の一部をランダムに抽出して、

1.20000時間点灯させる実験を行い、不良率を探る。
2.不良率を改善するために、設計や部品、工程などを見直す、

といった形でビジネス上は行われていくわけです。

このように例のように、全数調査は、下記3点の理由により
不可能なことが多いため、標本調査が必要になります。

a.物品を対象とする場合
→非破壊検査なら大丈夫です。例えば、衣料品などに針が
 含まれていないかを検査する、など。

b.医学・心理学などの調査の場合
→全人類(これから生まれる人も含む)が母集団になるから、
全数調査は不可能。なので、起きる確率で語られます。
 ガン検査などは、陰性と判断されても、陽性である確率が
 0ではありませんし、0にすることはほぼ不可能です。
 これは面白いテーマですので、別の機会に取り上げます。

c.コスト・手間・時間がかかりすぎる場合
→視聴率調査に代表されるような大規模なものはこれに含まれます

3点の理由により全数調査が実施できない場合は、
標本調査になるわけですが、この辺りを詳しく学びたい方は
標本調査に関しての書籍で学ばれることをオススメします。

概略を知りたい場合は、こちらのHPがなかなか良いと思います。

また、ビジネス上、特に重要なのがコストですよね。

上記のc.の例でも挙げた視聴率調査ですが、
15,798,000世帯全てに調査用機械を設置するのではなく、
費用対効果のバランスを考えて、
600世帯を抽出して、調査しています。

このあたりを詳しく学びたい方は“標本誤差”という単語を
調べていくと、良いでしょう。計算式も出てきます。
例えば、こちら。

もちろん計算式が分かったとしても、最終的に
精度どこまで求めるか(=コストはどこまでかけられるか)
は人間が判断する必要はあるんですけどね。

あくまで数字は数字、論理は論理、統計は統計です。

それらは“判断材料”に過ぎず、最終的な“判断”そのものは
人間しかできない、ということを忘れないで下さいね!

2006年11月21日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!

PS 余談になりますが、全数調査という言葉を
最近私が聞いたのは、米国産牛肉解禁の是非を扱う番組でした。

日本は、命に関わる問題なので、全数調査(全頭調査)を
主張します。

しかし、合理主義の米国では、
“■■の調査をすれば、誤差が起きる確率は
統計的に○%以内に抑えられる。
予算も△△ドルしかないからこの規模の調査にとどめよう”
という発想になります。

ビジネスとしては真っ当な発想なのです。

しかし、命に関わる問題なんだから、
(日本人に米国産牛肉を消費してほしいなら)
コストをきちっとかけて調査をし続けてくれよ!
と思っちゃいますよね。

統計のお話バックナンバー
統計のお話 第2回「出所の魔力」

次回のパートナーエッセイは11月23日(木)にTakamura氏が担当します。

PS:現在オープンセミナーレディースデイの受講募集を行っております。
   詳しくは、こちらから。
   皆様の参加を心よりお待ちしております。





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