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統計のお話 第23回「メンタルアカウンティング」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第23回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】メンタルアカウンティング
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これまでの金融理論において、支配的となっていたものは
「効率的市場仮説」です。
効率的というのは、程度にもよりますが、
いつも“価値=価格”が成り立っている状態です。
新しい情報が流れて価値に変動があった場合は
瞬く間に価格に反映される、というわけです。
それが成り立つためには、投資家は常に十分な情報を持っていて、
いつも正しく合理的な行動をとる存在として扱われていました。
そのため、経済が過熱して株式市場が
どんなにバブル的な動きを示しても、
それも人間の合理的な行動の結果であると仮定されていました。
つまり、伝統的ファイナンス理論においては、
「人は、利益の追求のみを目的として、常に合理的に行動する」
ということが前提となっています。
でも、本当にそうなのでしょうか?
本当に人は、投資家は、常に合理的に行動できるのでしょうか?
実際に、今までおいたその仮定の上に成り立ったモデルや
そこから導かれる計算式では、
金融市場で起きていること・動きを上手く説明できそうにない、
ということが問題として分かってきたわけですね。
(今では、これらは問題としてとらえるのが当たり前ですが、
効率的市場仮説が隆盛を極めていた1970年代以前は
この仮説に異論を唱えること自体が異端の研究者だったようです。)
そういった背景の中、産まれたのが、行動ファイナンスです。
行動ファイナンスでは、
“人は常に合理的に行動するとは限らない”
という前提に立って、あらゆる経済現象や金融市場の動きを
考えていきます。
今回はその一例である、メンタルアカウンティングを扱います。
メンタルアカウンティング。直訳すると心の会計、ですね。
これは、現実の会計に勘定科目があるように、
心の中にも多くの勘定科目が存在し、
その勘定科目内での損益を考えることが多い、という訳です。
わかりやすさのために、例を挙げますと、
お金を拾ったり、ギャンブルで10万円を得たとします。
一方同じ10万円をかなり大変な労働で手に入れたとします。
同じ10万円なのに、重みが違いませんか?
私は、前者の10万円は、気前よく使ってしまいそうです(笑)。
10万円という金額は同じですから、変な話しですよね。
これは、まさにメンタルアカウンティングの例です。
前者の10万円は、特別利益の勘定科目ですから、
同額を使い切ってしまっても、その年の営業利益には影響しませんよね。
一方後者の労働による10万円は、
営業利益を下げてしまうので、本業からの稼ぎが減ってしまいますよね。
でも、どちらの場合も、純利益は変わらないのに、後者のほうが一般的に「使いづらい」ですよね。
また別の例を考えてみましょう。
あなたが、ミュージカルを見に行くとします。
下記2通りの場合であなたはどちらの場合、
チケットを購入し、ミュージカルを観るでしょうか。
1.10000円の前売り券をあなたは購入していましたが、
  開催当日、そのチケットを紛失してしまったので、
  再度10000円のチケットを購入し、ミュージカルを観る。
2.開催当日、あなたは誤って10000円を落としてしまいました。
  その後、10000円のチケットを購入してミュージカルを観る。
あなたは、どちらの場合だったら、
「それでもミュージカルを観る」という選択をするでしょうか。
一般的な回答ですが、前者だったら、あまりチケット代を払いたくなく、
後者だったら、10000円支払ってチケットを購入しても良い、
と思うのではないでしょうか。
(もちろん、当日一緒にいる彼女(異性)の重要性・魅力度や
単純に個人のフトコロ事情にもよりますが!)
この例も心の勘定科目ですね。
前者は、もうすでに娯楽費用として、支払い済みなので、
購入した場合、娯楽費用を20000円支払うことになります。
後者は、特別損失で10000円があり、
別途、娯楽費用で10000円が計上されるので、
結果的に、前者の場合と同じ20000円を支払うことになりますが、
心理的抵抗が和らぎます。
このように、人は、お金を勘定科目で分けて考えている、ようです。
分かりやすく言えば、お金に色をつけているわけです。
これは、客観的にみたら、全く合理的ではありません。
伝統的ファイナンスの言うところの、経済合理的な
行動ではないわけです。
当然、投資においても同様のメンタルアカウンティング的に
合理的ではない行動を取ったりするのが人間です。
(例えば、思わぬ投資収益があれば、その資金はよりリスクの高い
投資先に、振り向けられる、なんていうことは良くありそうです)
2002年にダニエル・カーネマン博士が、
行動ファイナンスの一つである“プロスペクト理論”で
ノーベル経済学賞を受賞してから、
一般的にも、行動ファイナンス的な考え方をたくみに利用した
投資信託や保険などの金融商品が流行ってきています。
行動ファイナンスの罠を把握することにより、
少なくとも経済合理性が優先されるべき状況において、
(保険の決定や住宅の購入などの大事な局面において)
経済合理的に行動できるようになりたいものですね。
次回以降、複数回にわたり、行動ファイナンスについて
話しをすすめてみたいと思います。
2007年11月1日 K.Shimoda
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