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ITAKURASTYLE「リクエストに答えて?PIPEs」

このところ、PIPEsなる資金調達手法、というか、引受証券にとってのビジネスモデルというか、とにかく資本市場では流行っているようです。

PIPEs  = Private Investment in Public Equity のことで、
要するに上場企業が行う私募を意味します。「えっ!上場企業なのに私募???変なの!」と思われる読者の方は多いとは思いますが、その印象は「正しい」です。

そもそも上場企業であることによる一つの大きなメリットは、資金調達をパブリックに行えることですから、なにもわざわざ私募などやる必要は無いわけです。なのに、上場企業の発行する私募債などを引き受けるビジネスが流行るのは、「パブリックには資金調達困難な上場企業がある」ってことです。

PIPEsの一つの手法に、悪名高きMSCBがあります。また、MSCBでなくとも、市場価格を大幅に下回る株価での第三者割当増資もPIPEsの一種です。どちらも常識的には「適法な範囲を超えた有利発行」のように見えますが、今までのところ裁判でMSCBが差し止められたことはありませんし、既存株主を既存する可能性が高いにもかかわらず株主総会決議を経て発行されることはあまりありません。
(ただし、現在、MSCBは証券業協会の自主規制の対象です・・・僕も少しはこの規制に貢献できたのではないかと思っています。)

また、有利な株価による第三者割当増資の場合も、発行株式の種類が、優先株など種類株にすることによって、普通株式に比べ差し止められるリスクを減らしているわけです。

これらの事実上の有利発行は、既存株主から発行差止め請求がもっと出されていても良さそうなものですが、差止め請求がなされてるケースがあまり多くないのが現状です。なぜ?










す。

要するに、「もうどうにもなりましぇん!」という極めて財務状況の悪化した企業のための、ある種「救済処置」として、PIPEsがあるわけです。

つまり、「株主の皆さん、このままでは当社は倒産してしまいます。 倒産すれば、当社発行の株式は紙切れ同然になってしまいます。 皆さんが投資した株価より大幅に安い株価にて、リッチパーソンの第三者に新たに株式をお譲りすることは、既存株主の皆さんを既存すことになりますが、株式がただの紙切れになるより、「マシ」ですので、とにかくこの方法で資金を調達させてください。」ってわけです。

僕は、これらの手法は、とんでもない!と思いますが、一方で、 2004年12月の吉野家D&CのMSCB、最近の例では、三洋電機の優先株(引受は、ゴールドマンサックス、三井住友銀行、大和SMBC)などの場合、上記に書いたとおり「救済処置」としての意味合いが強く、市場でも大きな非難の的にはなっていません。よって、「違法な資金調達手法」として、これらを一切「やっちゃだめ!」とは言い切れないわけです。

が!ライブドアのMSCB(引受はリーマンブラザーズ)のように、経営者自らの「社会活動欲」のために、既存株主を毀損する資金調達手法の場合、「一体誰のための成長だよ!」といいたくなります。

資金調達と、たとえばM&Aを組み合わせれば、(非買収企業が黒字であれば)確かに、買収後の売上げや利益は増大します。しかし一方で、「一株あたり利益」や、「一株あたり価値」は、希薄化に伴い減少しますし、そもそも、特定の第三者に対して特別に安い株価で株式を譲るわけですから、既存株主にとって得なことなど何もありません。

MSCBそれだけでも、既存株主から見れば十分「ふざけんなよ!」ということなのですが、世の中には、もっと上手が居ます。たとえば、その有利な債券なり株式なりの引受が、発行会社の代表者個人だったとしたら・・・皆さんどう思いますか?「ふざけんな!」を通り越していますよね(笑)(これ、グッドウィルという会社が行ったとんでもない手法ですが、グッドウィルの場合、介護問題に焦点が集まり、この問題についてはほとんど話題にすらなっていません。)そういえば、MSCBを一旦は発行して、直後にコールオプションを利用して「引っ込めた」GMOという会社もあります。

だったらフツーに銀行融資を受ければよかったのに(笑)と思います。きっと当該企業のCEO、CFOの財務オペレーションに関する知識が不足していたうえに、引受証券会社にそそのかされたのでしょう。
(この引受証券は、MSCBのことを、MPOとか言って市場をごまかそうとしているようですが(笑)、市場をごまかして損をするのは、証券会社自身ではないでしょうか)いつも書いていることですが、「違法じゃないから(違法じゃなさそうだから)OK」などという経営判断をするような経営者は、投資家にとって、いただけない、ということです。

皆様も、投資対象企業の過去の財務オペレーションを「しっかり分析」して、財務オペレーションの視点から、経営者の人と成りを分析してみることをお勧めします。僕は、経営危機でもないのに、既存株主を毀損するPIPEsを過去に一度でも行ったことのある企業は、どれほど業績が良くても、投資の対象としないように心がけています。

株式投資とは、つまるところ、投資家の資産を投資対象企業の経営者に「委ねる」行為だと思います。誰に委ねるか、それは非常に大切なことですよね。注意: PIPEsのすべてが、既存株主を毀損するとは限りません。

当該企業の発行する資料を、しっかり読み込み、理解した上で投資判断をするようにお勧めします。(なお、MSCBの場合、発行会社の資料には、「転換価格下方修正条項付き転換社債」などとは記載されず、単に「新株予約権付社債」としか記載されませんので、内容をしっかり読み込む必要があります。また、優先株など種類株を発行している場合、種類株は企業価値の配分を受けるにもかかわらず、流通株式数にはカウントされませんので、こちらの場合も、当該企業発行の有価証券報告書をしっかり読み込む必要があります。普通株式時価総額だけを見て、「割安だ!」と思ったら、大量の優先株を発行していた、なんてこともありますからね。)

2007年10月31日 板倉雄一郎





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