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ITAKURASTYLE「堀会長への手紙」

前略 株式会社ドリームインキュベータ 代表取締役会長 堀紘一様

「朝まで生テレビ!」や「サンデープロジェクト」、そして、
提言誌「VOICE」の対談などで、ご一緒させていただき、
ありがとうございます。

本日は、御社の「極少数株主」として、
御社の「配当政策」について意見をお伝えしたく、以下に記します。

意見:
「ソニーやホンダを100社育てる!」という「夢」を掲げるなら、
配当を止め、次なるインキュベート予定ベンチャーへの再投資による複利効果によって、御社株主価値の最大化を。

<以下詳細>

平成19年3月22日に御社より発表された業績修正について、
その理由が、御社発表の通り、

新興市場の株価低迷が続いており、中期的な株主利益の成長を重視し、今期の営業投資有価証券の売却は大幅に減少し、それに伴い全体の売上・利益も大幅な修正となりました。
であるなら、この業績「下方」修正については、
「期ずれ」ということで了解いたします。
しかしながら、

来期は、期初から営業投資有価証券含み益(2007年3月21日現在:約9.4億円)を抱えてのスタートであり、加えてIPOは今期からのずれ込み分も見込まれることから、力強い成長を見込んでおります。この成長力を勘案し、期末の1株あたり配当予想を、3000円に(上方)修正します。
という「配当政策」については、
「御社の『夢』に共感し、
 長期で御社を応援しながらキャピタルゲインを得ようとする株主」
から見て合理的ではありません。

御社ポートフォリオの利益確定によって得られる現金は、
配当による御社株主に対する「(課税される)現金還元」ではなく、
次のインキュベート先ベンチャーへの投資原資とすることが、
御社の株主価値の最大化において合理的であるはずです。
これによって御社株主は、御社への投資における
「(利益確定までは一切課税されない)複利効果」を得ることができます。

ハーバードビジネススクール卒MBA、元BCG代表の堀会長に対して、
このようなことを記述するのは、
まさに「釈迦に説法」であることを承知していますが、
配当とは、株主に帰属するキャッシュを、
株主自身が投資対象企業から取り崩す行為に他なりません。
(配当直前株主価値=配当額+配当直後株主価値)
よって、
「(御社の資本コストを上回る利回りが得られる)再投資対象」がある限り、
配当によって株主に現金還元することより、
一旦内部留保し、インキュベート予定ベンチャーに再投資することが、
「株主にとって」合理的です。

御社の場合、
一株3000円の配当は、株主に対する約3億円の現金還元となります。
この額は、スタートアップベンチャーに投資するには十分な額です。
また、
堀会長自身は、配当によって、およそ5000万円の現金を、
「自らが経営し、筆頭株主である『成長期』の企業」から引き出し、
自らの懐、および国庫へ収めることになります。
これは、堀会長自身が、
同社の活動による資金運用機会を損失することに他なりません。

もし、「増配」を決定した理由が、
1、(資本コストを上回る利回りが得られる)再投資対象が見つからない、
または、
2、非合理的な株価対策(=「配当利回り」だけに飛びつく投資家を誘う)
であるとするなら、
御社株式の長期保有を予定する僕にとって大変残念なことです。
また、
(資本コストを上回る利回りが得られる)再投資対象が見つからず、
余剰現金を抱えることになる場合、
御社の成長が抑制されるということを意味しますが、その場合でも、
御社経営陣が現在の御社の株価が「大幅な割安」であると考えるなら、
配当ではなく「自己株取得」が合理的なのは言うまでもありません。

将来有望なベンチャーを見つけることが難しいのは十分承知しています。
(毎期、余剰現金が積み上がっていることも承知しています。)
しかし、
「ソニーやホンダを100社育てる!」という「夢」を掲げるなら、
育てるべきベンチャーの発掘(=御社ビジネスモデルにおける仕入)、
および、
「MDP」人材の調達と育成(=御社ビジネスモデルにおける生産力)に、
積極的に資金を投じるべきです。
または、
IPOを果たした御社のポートフォリオが、
IPO後も、御社のコンサルティングを受けることによって、
「時間経過と共に株主価値を増大させうる企業」だとすれば、
ポートフォリオの利益確定などせず、
保有し続けるという手もあります。
この場合、御社の余剰現金は、
現在のビジネスモデルほど積み上がらなくなると同時に、
「会計上の利益」は、現在のビジネスモデルより減少しますが、
御社の内在価値は時間経過よって増大します。
(会計上の利益に目を奪われる投資家に媚びる必要は無いと考えます)

インキュベーションにおいても、
御社自身の財務オペレーションにおいても、
御社の掲げる「夢」を基盤に、
首尾一貫した経営を行っていただきたいと切に願います。

御社のビジネスモデルは、
『機を捉える』のではなく、
『機を生み出す』ことであると、僕は理解しています。

短期的な株価対策、株主総会対策を目的にした、
非合理的なオペレーションを行えば、
目先の金に目の眩んだ自称投資家を株主として呼び込み、
それ以降、彼らに媚びる経営を続けることになり、
結果として企業価値を破壊してしまいます。

以上、「極少数株主なのに生意気な株主」より、
御社の配当政策(特に増配)に対する意見を述べさせていただきました。

御社の経営に関し、僕が協力できることがあれば、
微力ながら、やらせていただきたいと思います。

PS:
御社の協力の下、御社に関する内容を記述した書籍
「青春支援企業」山田精機著(プレジデント社)を拝読させていただき、
「ソニーやホンダを100社育てる!」
という夢を持つ御社のファンになりました。
さらに、プレジデント社からの依頼を受け、
同書籍の新聞広告に「推薦文」も書かせていただきました。
「ベンチャーの夢の実現」と同時に、
御社株主にも「夢」と「現実的なキャピタルゲインを」
と願うばかりです。

少なくとも僕は、配当を受け取るために、
御社への(わずかな額ですが)投資を行っているのではありません。

草々

2007年4月8日 板倉雄一郎

配当と企業価値に関する説明が必要な読者へのPS:
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