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ITAKURASTYLE「ルックスルー」

あらためて説明するまでもありませんが、
「ルックスルー」という観方は、経済価値を評価する上で極めて重要です。

ルックスルーとは、
企業会計の分野では、株式持合いや相互取引などを相殺し、
実質的なグループ全体の会計を行う「連結会計」のように、
誰がどの程度の経済価値を保有しているかを、
間接的に保有する経済価値まで把握することによって、
実質的に保有する経済価値を「通算で」カウントする観方です。

ウォーレンバフェット氏は、
彼が経営するバークシャーハザウェイ社の実質的な価値を伝えるとき、
この「ルックスルー」という言葉を多用します。

この考え方は、実質経済価値を把握する上で非常に重要です。

たとえばシリーズ「自社株買いによる金庫株の取り扱い」・・・

自社株買いを行った結果、
企業は当該企業自身の株式を保有することになります。
この株式のことを俗に「金庫株」と表現します。
しかし「企業」という人間が存在するわけではありませんから、
この「金庫株」が「誰によって保有されているのか」という点を考えるとき、
ルックスルーの観方が必要になります。
「金庫株」は、企業の内部にあり、企業の内部にある経済価値の
最終的な権利保有者は当然ながら当該企業の「株主」です。
よって、ルックスルーに観れば、
「金庫株は、当該企業の株主によって間接的に保有される」となります。

だからどうしたって?(笑)
はい、以上から導くことができることは、いくつかあります。
たとえば、金庫株は、当該企業の取締役会の判断によって、
「そのまま保有する」こともできますし、「償却」することもできますが、
どちらにせよ、実質的保有者が当該企業の株主ですから、
償却しようが、そのまま保有しようが、
当該企業の株主価値に全く変動がないことがわかります。
このことから、さらに・・・
企業価値評価を行い、「一株あたり価値」を算出する時、
「株主価値=企業価値-有利子負債」によって算出された株主価値を、
当該企業の総発行済株式数で除することによって、
「一株あたり価値」を算出することができますが、
この算出を正確に行うためには、株主価値を除する分母には、
「総発行済株式数ー金庫株数」を使うことが妥当だ、となるわけです。

(「ストックオプション」については、
 それが「いつ」行使されるのか、
 また、すべて行使されるのかが不明なので、なんとも難しいですが、
 もし、近々行使されると判断した場合には、
 分子の株主価値に、
 「ストックオプション数*オプション行使価格(=流入キャッシュ)」を加え、
 分母にも、「ストックオプション数」を加えて算出するのが望ましいです。)

たとえばシリーズ「日本政府の借金地獄」・・・

いいかげんなメディアが、
「国家財政の危機だ」とか、
「国には莫大な借金がある」とか、
まったくもって、ルックスルーの観方が欠如した表現が行われています。
しかし、ここで重要なのは、
1、誰が債務者であるか
2、債務者が居る以上、債権者が居るわけですが、それは誰か?
を考えなければ、実質的経済価値を把握することはできません。
日本国債の場合、
その債務者(=国債発行者)は、日本政府であり、
その債権者(=国債保有者)は、その95%程度が、日本国民です。
ここでいう日本国民とは、
日本に暮す個人や、
株主や従業員や顧客や債権者の大多数が日本国民である企業を指します。
つまり、
税金を支払う主体が、税金を受け取る主体に対して、
国債という手段を通じて、お金を貸している、となるわけです。
その上、集めた税は、主に日本国内に還流されます。
すると、
「日本全体」をルックスルーすれば、
債権者も債務者も、同じ「日本国」の内部に存在することになり、
よく言われる「国家財政破綻=国債デフォルト」は、起こり得ないとなります。
しかし一方で、国債発行は、どの国においても、
通貨の増刷と本質的には同じですから、
インフレートを引き起こす要因になります。
(このインフレ分が、為替や物価などに、すでに反映されているのか、
 はたまた、今後反映されるのかは、わかりません。)
国家財政破綻どころか、日本国は、世界で有数の(トップかな)、
対外「債権」保有国ですから、まずまずもって国家財政破綻など、
起こりえるわけない、と理解できます。
(だからと言って、
 「プライマリーバランスをゼロ以上にする必要はない」
 と言っているわけではありませんからね。
 プライマリーバランスより、
 「無駄使い(=どんな価値創造にも貢献しない使い方)」を
 減らすことが大切です。)

たとえばシリーズ「企業の投資有価証券」・・・

企業価値評価を行うとき、当該企業が保有する「有価証券」を、
どのようにカウントするべきかで、悩むことがあります。
たとえば、その有価証券が、
取引を煩雑に且つ継続的に行なっている取引先の株式である場合、
それを、「余剰資産」としてカウントする場合もありますし、
「事業用資産」として捉え、「事業価値」の一部とし、
「余剰資産」としてカウントしない場合もあります。
これを厳密に評価するには、
取引関係について、ルックスルーする必要があります。
具体的なことを書くと、ややこしくなるので、この場では割愛します。
また、
まるで取引のない上場企業の株式を、投資目的「だけ」で保有する場合、
それを厳密に評価する場合には、保有する株式の「時価」を観るのではなく、
保有する株式の発行企業の企業価値評価を行い、
保有する株式の一株あたりの「価値」を算出し、カウントするべきです。
(投資目的「だけ」資産が、
 バランスシートの大部分を占めている場合(=たとえばバークシャー)
 でもなければ、面倒なので時価でカウントしてしまいますけれど)

以上のケースのように、ルックスルーという観方は、
誰がどの程度の本質的な価値を保有しているかを明確にすることができ、
誤った価値算定を防ぐことができます。

ルックスルーをするときも、やはり、
「誰の価格と、誰の価値の、どんな価格による交換(または保有)」であるかを、
突き止めることが、非常に大切です。

経済活動は、明らかに「人と人の取引」であり、
そこで取引される「価値」もまた、
「人」が創造したり付加価値を付けたりした価値なのです。
よって、
ルックスルーによって「誰」という主体を見極めることができなければ、
経済の本質を掴むことはできないのです。
「企業」とか、「法人」とか、「国家」などという「人間」は、
この世に存在しないのですから。

2006年9月28日 板倉雄一郎

PS:
たとえばシリーズ「男と女・・・経済循環」
(ストックではなくフローについてのルックスルー)

キャバクラ(←ここ何年も行ってない)に金を支払うのは、客の男。
キャバクラに金を支払う対価は、
当然ながらお店のホステスとのコミュニケーション。
よって、客の男が支払った価格の多くは、ホステスの給与となり、
その給与で、化粧品やブランド物をホステスは買ったりする。
すると、女性用ブランドを買っているのは、客の男なのか(笑)
いやいや、実はホステスは、ブランド物より、
ホストクラブに価格を支払っているとなれば、
ホストの収入は、キャバクラの客の男が支払っているというわけか(笑)
で、キャバクラの客の男はどんな仕事?
その男、ホストクラブとブランドショップを経営していたりして(笑)
以上、冗談です(笑)





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