板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「リスク&リターン」

ハイリスク・ハイリターン
ハイリスク・ローリターン
ローリスク・ローリターン
ローリスク・ハイリターン

以上の、どれがいいですか?
「ローリスク・ハイリターン」がいいですよね。
間違っても、「ハイリスク・ローリターン」はいやですよね。
当たり前です。

普段、私たちは、
ファイナンスの世界にて、「完全効率市場」を前提に、
マーケットメカニズムや価値算定の理論を、
構築したり理解したりしています。

価値ある投資対象が、
その価値から大幅に乖離する価格で取引されることを除外し、
すべての市場参加者が真っ当な価値算定を行い、
その結果として、
価値と均衡する価格での取引が行われることを前提にして、
「基礎理論」を学びます。
なぜなら、そのように条件を限定しなければ、
理論を構築することも理解することも、極めて難しくなってしまうからです。

しかし、現実の市場では、
1、投資家によって知りえる情報に違いが生じる
2、投資家によって持てる知識に違いがある。
3、仮に、1、2が同等であったとしても、人によって将来の見方が異なる。
などの原因によって「完全効率市場」は実現されていません。
おそらく、100年経っても、「完全」な市場は形成されないでしょう。
しかし、資産形成においては、その現実こそ、
投資パフォーマンスを分ける根源的原因です。

「完全効率市場」では、リスクとリターンは、常に同等で、裏腹です。
年率50%のリターンが期待できる投資対象より、
年率100%のリターンが期待できる対象のほうが、
当然ながらリスクは大きいわけです。
表現を変えれば、
「リスクに応じたリターンが期待できる価格での取引が行われる」
ということになります。
しかし、現実の市場は「完全効率」とは、まるで、かけ離れています。

ある投資対象に対して、市場全体が「大きなリスク」を感じ取れば、
その対象から将来生み出されるキャッシュフローを、
現時点で小さく見積もることになります。

たとえば・・・
1年後に100万円を受け取れる権利に対して、
その実現性が極めて低い(=リスキーだ)と市場の多くが感じ取り、
年率50%程度の「リスク認識」が一般化したとすれば、
この権利の取引価格は、67万円(=100万円/(1+50%))程度となります。
このとき、ある賢明な投資家が、その権利が実現される可能性について、
しつこく調べ、その投資家の知識と経験に基づき価値評価を行った結果、
市場が言うほどリスキーではないく、
せいぜい10%程度のリスクしか感じないとなれば、
その投資家にとって、この権利の妥当な価格は、91万円ほどになります。
その価値評価に「自身を持つ」事ができれば、
「今日の時点で91万円ほどの価値がある権利が、
 わずか67万円という価格で、自分に対して提示されている」
となるわけです。
このとき、この賢明な投資家は、
「リスク(=10%)」 < 「リターン(=50%)」
という、「ローリスク・ハイリターン」の投資機会に恵まれるわけです。

価値創造とは直接関係の無い広義での「裁定取引」ではありますが、
せっかく市場が(自分が思うより)安く譲ってくれるのですから、
そのチャンスを生かさない手はありません。
時間経過による価値創造の恩恵は、
以上のような「価値 > 価格」の裁定チャンスを得た上でも、
(投資対象が価値創造を行けば)しっかり享受されるわけですから。

つまり、
「市場の価値算定と、自分の価値算定のギャップ」にこそ、
投資利回りを増大させるチャンスが潜んでいるというわけです。

ウォーレンバフェット氏は、こんなことを言っています・・・

「自分が投資する企業に対する自分自身のリスク認識は、
 せいぜいリスクフリーレート(←長期国債利回り)程度だ。」

つまり、国債程度のリスクしか感じないという投資対象にしか、
そもそも投資しようとは思わない、ということです。
その上で、彼は、場合によっては何年でも、
「リスク」 < 「リターン」
が実現される(=市場が安値を付ける)のを待ち、
そのチャンスが到来すれば、多額の投資を実施します。
その結果、
数十年間に渡って、年率30%以上の平均利回りを実現しています。

以上は、「当たり前」といえば「当たり前」です。
しかし、以上の「当たり前」を現実にするためには、
自分の価値評価に「自信を持つ」事が大切です。
自分以外の多くの市場参加者が、
「リスキーだ!」と言っているにもかかわらず、
自分だけは、「大丈夫だ!」と確信を持てなければならないわけですから、
それは並大抵の「自信」ではありません。
しかし、「間違っているのは市場の方だ」と自信を持つことができれば、
その投資家のリターンは、リスクを上回る結果になります。

投資におけるリスクとは、本来投資家自身の中にあるものです。
したがって、
投資対象の価値とは、やはり投資家自身の中にあるものです。
その自信を得るために、知識と経験が欠かせません。
知識を磨き、その知識が正しいことを(または間違っていることを)、
時間経過による「経験」の中から知るしかありません。

多くの市場参加者が、多くの生活者が、
自らの価値算定をしっかり行うことを通じて、
「完全効率市場」とはいかないまでも、
「最適配分社会」に近づくことができるはずです。
そのとき、世の中から裁定のチャンスが(今よりは)減り、
「やっぱ価値を生み出さないと豊かにはなれないな」
という社会が実現できると、思うわけです。

僕は、
世の中に「裁定のチャンス」を伝えることによって、
世の中から「裁定のチャンス」をなくそうとしているわけです。
一見矛盾するようですが、僕の中では、理に適っているのです。

2006年9月19日 板倉雄一郎

PS:
自分自身を信じるのではなく、
(または、信じられる自分に自分を育てるのではなく)、
「占い」や、
「みんながいいって言うから」などの「他人依存」の人は、
投資には向いていない、わけです。
というより、そのような方は、「搾取される側」から抜け出せないわけです。

PS^2:
先週末(2006年9月16日~17日)は、75日ぶりの合宿セミナーでした。
受講生30名+再受講生66名+パートナー+協力企業≒100名!
過去最多人数での合宿セミナーは、開催のブランクも手伝って、
ものすごい熱気と興奮に包まれていました。

今回の受講生の顔ぶれの特徴は、
金融機関に勤務する方の比率が3割程度と多かったことです。
また、これまで同様、海外(ロンドン)から参加された方もいらっしゃいました。
この方も、やはり某世界的巨大金融機関(ってバレバレ)の方でした。
しかし一方で、まるで金融とは無縁の方々もたくさんいらっしゃいました。
当事務所のセミナーの特徴は、
これらの知識や仕事のバックグラウンドがまるで違う方々が、
渾然一体となって、講義を受け、質問をし、納得し、理解を深めている
ということでしょう。
企業や経済とは、私たちの日々に密着している「仕組み」です。
したがって、「上級者向けのセミナー」なら価値はあっても、
「専門家向けのセミナー」なんて、それ自体に価値が無いとさえ思います。

 





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