板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「インフレと為替と金利」


読者の皆さん、近頃インフレを感じることはありませんか?
少なくとも僕は、インフレを感じます。
エネルギー価格は言うまでもなく、
(↑ というか、それがインフレの原因の一つではありますが)
交通費、宿泊費、飲食費など、もろもろの価格が上昇していると、
少なくとも僕は感じます。
インフレを僕なりに表現すれば、
「通貨の価値が、通貨と交換できる実物に対し相対的に下落し、
 通貨と交換できる実物が少なくなる事」
 (↑ 1円あたりで手に入れることのできる実物が減る)
となります。
たとえば、
中央銀行が紙幣を闇雲に印刷し、市中に流通させれば、
通貨1単位あたりの価値は下落し、インフレになります。
( 企業の株式に置き換えれば、
 株式分割によって流通株式数が増え、
 一株あたりの株主価値の減少によって、
 一株あたりの株価が下落することと同じようなことです。
 また、
 過去の、ブラジルのハイパーインフレーションの原因は、
 首都ブラジリアの建設のための支払いを、
 紙幣の増刷によって賄った結果でした。)
たとえば、
金利を低く誘導すれば、
「お金借りてもコストが安いじゃん!」ということになり、
お金を借りてモノを買う行為が増えるためインフレになります。
その上、
金利の低い国の通貨を借りて、
金利の高い国の通貨に転換して運用するだけで、
(その期間に為替レートが大幅に変わらなければ)
稼ぐことができるわけです。
投資家が、いわゆる「円キャリー」を行おうとするメカニズムです。
ある国がインフレになれば、
その国の通貨とモノの交換レートが変わるだけではなく、
その国の通貨と他の国の通貨との交換レートも変わります。
(いや、為替レートが変わるから、輸入されたモノと通貨の交換レートが変わるともいえます。)
ある国の通貨の価値が下落すれば、
他の国の通貨に対して相対的に価値が減少しますから、
インフレになった国の通貨は、他の国の通貨に対して安くなるわけです。
現在の日本円がユーロやドルに対して安いことのメカニズムです。
現在の日本のインフレと円安の原因は、
「金利が低すぎること」による通貨そのものの価値下落と、
上記のいわゆる「円キャリー」のための「円売り」によるものです。
「なら、さっさと金利を上げれば、
 円キャリーは減るし、金がジャブジャブじゃなくなるから、
 インフレを抑制できるじゃないか」
と早合点はいけません。
確かにメカニズムとしてはその通りなのですが、
金利調整によってインフレを抑制するためには、
「どこまでインフレが浸透しているか」を見極める必要があるのです。
もし、
ある日突然、日本「全体」が瞬時にして10倍インフレになるとしたら、
パンの価格が100円から1000円になり、
ガソリン代がリッター140円から1400円になったりする一方で、
月給も50万円から500万円になり、
日経平均は、18万円になり、
為替も、対ドルで120円が1200円になるだけですから、
実は何の問題もないのです。
しかし現実にはこのようなことにはなりません。
「マテリアル」と呼ばれる原材料やエネルギー資源のような経済の「上流」からインフレは始まり、企業活動を通じて徐々に価格転嫁されてゆくわけですから、その過程で、一部はお金がジャブジャブ、他はお金がない、といった歪が生じるのです。
たとえば、
エネルギー資源の価格が上昇することによって、石油元売や電力会社は、原材料の価格上昇分を直ちに販売価格に転嫁します。
すると、電力やガソリンなどの価格が上昇します。
しかし、この段階では、(石油元売は儲かりますが)その従業員の給与でさえ、上昇するわけではありません。
また、電力やガソリンを原材料とした事業者が、コスト上昇分を商品販売価格に転嫁すれば、需要が低下してしまいますから、直ちに価格転嫁をすることができません。
よって、
「一部は金がジャブジャブ、その他は金がない」という歪が起こります。
インフレがある程度進み、その段階で落ち着く期間が長ければ、以上の歪は、企業活動や消費活動によって徐々に均され、まともな経済環境になるわけですが、インフレートしている最中は、このような歪があちらこちらで発生するわけです。
(以上のマクロ経済は、あらゆることが相互に影響しあい、かつ時間経過も考慮する必要があるので、マクロ経済のメカニズムをシーケンシャルな文章で説明するのはとっても難しいことです。以上の説明には、僕自身も満足していません=頭の中にあるメカニズムを十分に文章として表現できていません。)
インフレもなくデフレもない安定した通貨価値を維持することは、経済活動において極めて重要なことですし、各国の中央銀行はそれを目的に金利調整を行うわけです。
金利調整を行う中央銀行の悩みは、
1、どのあたりの物価水準を基準にしてインフレとみなし、
  どの程度の金利調整をするかという判断基準が難しいこと
2、インフレは急には止まらない
  (↑ インフレが進んでからブレーキ踏んでも遅い)
  しかし、
  金利調整というブレーキを踏むのが早すぎれば、
  せっかくの経済成長を振り出しに戻してしまうジレンマ
です。
一部の上流経済だけに着目し、金利調整をすれば、未だデフレ下にある下流経済は、資本コスト上昇による打撃を受けてしまいますし、下流経済が成長をはじめるまで金利調整を遅らせれば、上流経済は、過熱し、上流と下流の歪はますます大きくなってしまうというわけです。
そして、経済は実験が不可能ですし、あらゆる条件が似たようなケースを過去から探しだすことも不可能ですから、金利調整は、とんでもなく難しいことなのです。
しかし、冒頭で書いたように、少なくとも僕が接する経済の範囲では、インフレは間違いなく進んでいます。
円安です。
商品マーケットを海外に置く(=外貨を稼ぐ)企業の株価は上昇しています。
その上、電子マネーやプリペイドシステムの普及によって、「実質インフレ圧力」も増加しています。
BIS(国際決済銀行)も、中国元と日本円の安さにいちゃもんをつけています。
世界経済にレバレッジをかけている大きな原因は、他でもなく中国と日本です。
大方の見方より早い段階で、日銀による金利調整が行われるのではないかと、少なくとも僕は思います。
2007年6月27日 板倉雄一郎
PS:
「金利を上昇させれば、貯蓄者が得をする」とか、
「金利を低く誘導したおかげで、貯蓄者が損をした」とか、
経済の「一部」しか見ていないマヌケな「自称」経済学者が居ます。
金利が上昇すれば、貯蓄によるリターンは増加しますが、
一方で、企業の資本コストが上昇し、
企業はいずれコスト上昇分を商品価格に転嫁します。
価格の上昇した商品を買うのは、やはり貯蓄をしている消費者ですから、金利上昇によって、貯蓄のリターンは増えるが、商品価格が上昇する、ということになります。
また、
金利が低いがために、貯蓄によるリターンは小さいですが、
一方で、企業の資本コストも安いので、商品価格が安いわけです。
価格が低い商品を買うのは、やはり貯蓄をしている消費者ですから、金利が低いことによって、貯蓄のリターンは小さいが、商品か価格も安い、ということになります。
ある人間の、一側面における損得だけを取り上げた議論には何の価値もありません。
あらゆる人や企業の、あらゆる側面の「バランス」によって経済は成り立っています。
PS^2:
ということで、次回以降のセミナー価格は、少々値上げします。
実際、セミナー会場の会場費、宿泊費など、僕達板倉雄一郎事務所の「原価」が値上がりしているからです。
その上、株式投資とは、そもそも経済の「先取り」ですから、株式投資に役立つ知識を伝えるセミナー価格がインフレの先取りをすることは合理的だと思っています。
(資産運用の最大の敵はインフレであり、
インフレを最も効率的に吸収できるのは、
コスト上昇を価格に転嫁できる企業の株式に投資することです。)
もし、値上げによって需要が減ることがあれば、「しかたない」とあきらめます(笑)
同じセミナー内容で、価格を下げることだけは、絶対にしません。
これは、たとえインフレでなくとも、過去に受講された方を毀損したくないからです。
過去にセミナーを受講いただいた方々のおかげで、これまでセミナー活動を継続できたわけです。
どうかご理解ください。





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