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ITAKURASTYLE「サンデープロジェクト2006/07/16」

サンデープロジェクトに出演してきました。
テーマは、「オリックス宮内会長の功罪」。

宮内義彦氏は、金融業と分類される事業なら、およそなんでもやっているオリックスの代表取締役会長を勤めながら、一方で、経済政策において内閣総理大臣に対し意見を述べる「規制改革・民間開放推進会議」の議長という立場でもあることから、様々な功罪が指摘されている人物です。

このところ、村上ファンドの資金調達をオリックスが行っていたことをきっかけに、上記の「功罪」が取りざたされるようになり、サンデープロジェクトでも取り上げることになったわけです。

番組での議論のメンバーは、同局の「朝まで生テレビ」などでご一緒させていただいたことのある「いつもの顔ぶれ(笑)」。
(僕から観れば)それぞれの出演者は、宮内氏との「関係」のある・なしによる「ポジショントーク」であったことは否めませんが、末席の僕は、(少なくとも現時点では)宮内氏との関係の無いポジションであることをお断りしておきます。
(ただし、僕が会長を務めるVC・ベンチャーマトリックス社の一つの投資先企業には、当社と同比率でオリックスキャピタルも出資している点、および、僕が10年ほど前まで経営していたハイパーネットにオリックスキャピタルが出資していたという関係があることも同時にお断りしておきます。)

番組では、ちょっとした「議論」が展開され、僕が主張を述べる機会が限定されてしまったので、この場で、番組で主張していたこと、及び、主張したかったこと、について書かせていただきます。

規制緩和そのものに対し、僕は賛成です。
なぜなら、様々な「規制」のおかげで、大して価値を提供していないのにもかかわらず、「規制そのものを利用する事」によって(=立場を利用することによって)便益を得る者が居るからです。
たとえば、銀行をはじめとする「護送された金融業」などがそれにあたり、彼らは単に資金の「調達と運用のスプレッド」による利益を「横並び戦略」によって得ているに過ぎず、「信用に裏づけられた付加価値サービス」を実現しているとは、到底思えないからです。
(↑ 金融すべてを虚業だと主張しているわけではありません。資本主義経済の下、金融はきわめて重要な役割を持っています。)
規制緩和により、本質的な価値を社会に対して提供している者が、それなりの利益を得ることのほうが、規制によって「甘い汁」を吸う者を野放しにすることより、遥かにマシだと思います。

同時に、いわゆる「金融業」の場合、規制や金利政策が、その業績に及ぼす影響が大きく、したがって、金融業であるオリックスの代表取締役が、国家政策に意見を述べる立場を同時に持てば、「利益誘導ではないか」という意見が出るわけです。

しかし、だからと言って、「自己の利益のためだけに国家政策を誘導した」とは思いません。
確かに、金融業オリックスの立場が優位になる規制緩和政策は、いくつもありました。
これらは、宮内氏の「ズルさ」というより、彼の「賢さ」によるところだと思います。

オリックスの行う事業の一つに、医療保険に関連した「医師の格付け」なるものがあります。
保険商品を売るオリックスにとっても、医療を受ける被保険者にとっても、極めてリーズナブルな商品だと思います。
また、(あまり売れていないようですが)「保険は掛け捨てが一番!」とのCMによって、掛け捨て保険を販売しています。
「おりおば」でも触れていますが、一部外資保険会社が売りにする「ボーナスつき保険」より遥かに真っ当な商品です。
(オリックスも、外資ですが)
その他、「新車男」というキャッチフレーズによる消費者向け自動車リース事業も皆さんご存知ですよね。
以上に限らず、僕自身がオリックスの有価証券報告書をつぶさに見る限り、法人向けにも、消費者向けにも、彼らが「インチキ事業」をやっている形跡はありません。

ただし! 「村上ファンドの資金調達」は、まずかった。と思います。
「宮内氏が居たからこそ村上ファンドが成り立った」、などという「因果の逆転論理」には、賛成しかねますが、村上ファンドが「単なるグリーンメーラー」であることに気が付いた時点で、その取引を中止すべきだったと思います。
そもそも、村上ファンドの活動と、その結果である「利回り」を見れば、「事業としても決して成功だったとはいえない」わけです。
世間の不評を買うリスクに対して、そのリターンは明らかに低かった、といえるでしょう。
つまり、村上ファンドへの関わりは、オリックスにとって得策ではなかったが、、村上ファンドの「罪=企業価値破壊」のすべての原因を宮内氏の責に帰するのは無理があり、村上ファンドのケースは、あくまで村上氏の「罪」でしょう。

(もし、村上ファンドのインチキ活動を村上氏以外の誰かの責に帰するとすれば、それは宮内氏ではなく、村上ファンドに「群がった投機家」ですし、ライブドアの場合も、同社経営陣以外の誰かに責を帰するとすれば、一株あたり100円程度の価値しかない株式に、800円という価格を付けてしまう「価値のわからない対象に金を支払う群がり系の投機家」です。村上氏においても、堀江君においても、自己の利益のために「群がり系投資家」を利用した、に過ぎませんし、価値のわからない対象に投棄して損失した者は、自業自得に過ぎません。)

以上、オリックスの代表取締役会長としての宮内氏に対する僕の意見です。
以下、「規制改革・民間開放推進会議」の議長としての宮内氏に対する意見です。

規制改革も、民間開放も、それ自体には大賛成です。
しかし、規制改革に伴う「新たなルール」は、同時に作るべきです。
たとえば、
アメリカは、日本に比べ一般的に規制がゆるい、と思われていますが、そんなことは全くありません。
民間が行うことのできる事業の範囲も日本に比べれば広く、また、金融における規制は確かに少ないわけです。
しかし一方で、SEC(=証券取引等監視委員会)の権限や、反トラスト法(=日本でいう公正取引法)の施法は、日本に比べ極めて強力です。
マイクロソフトでさえ、反トラスト法によって懲罰を受けることがあるわけです。
規制を改革するなら、また、民間に開放するなら、予め「起こりうる事態」を想定し、それなりのルールを「同時に作らなければならない」ということを、「規制改革・民間開放推進会議」の議長としての宮内氏は、あまり意識していない、と僕は思います。
この点、「問題が起こってからでないとルールは作れない」という主張が一部ありますが、僕は賛同できません。
なぜなら、アメリカという「ケース」が既にあるからです。

最後に、「規制改革・民間開放推進会議」の議長という立場と、規制改革または緩和の影響をもろに受ける金融業オリックスの代表取締役の両方の「立場」を持つことについての是非についてです。
これは、基本的に「よろしくない」と思います。
だからと言って、国家政策に携わる者は、学者と官僚にやらせる、という意見には反対です。
なぜなら、彼らは「現場」を知らない「AVを1000本観ただけでセックスの議論をする童貞」だと思うからです。
では、どうするか?
最も理想的な方法は、
「経験のある者が現場から足を洗って国家政策にあたる」でしょう。
しかし、これはあくまで「理想論」です。
なぜなら、自己の利益と直接関係の無い立場の者が、切った張ったの国家政策について、真剣に取り組むことは、およそ現実的では無いからです。
「まるで関連した立場を持たない者」には、そもそも政策議論など出来ないわけです。
「僕は正義感に満ち溢れている」と訴え、手を挙げたところで、「規制改革・民間開放推進会議」のメンバーになれるわけではありません。
政治の世界は、「バランス・オブ・パワー」によって成り立っていますから。

結論:「すべてはバランス」

詳しくは、DeepKISSの「最終回」にて書く予定ですが、
すべては「バランス」です。
事象を全くデジタルに、
「右か左か」、「是か非か」、「今か未来か」、「社会貢献か利益か」
と分ける議論は意味を持ちません。
「自由か規制か」ということについても、バランスですし、
「利害のあるなし」についても、バランスです。
どちらかが絶対に良いとか悪いとか、世の中そんなにカンタンではありません。
妥当な「バランスを探し続けること」が、社会秩序を維持するための唯一現実的な方法です。
そして、「ある時点での妥当なバランス」は、そのバランスが実現できた時点で、さらに新たなバランスを探すことが求められるわけです。
よって、「常に議論できる社会」こそ、現実を理想に近づけるための現実的な方法でしょう。

大衆メディアで、国家政策について議論できる社会、を、いつまでも継続できれば幸いだと思います。

2006年7月18日 板倉雄一郎

PS:
これを機会に、オリックスの有価証券報告書を読んでみることをお勧めします。
僕は、大衆メディアへの出演でも、議論や主張の対象について、それなりに調べてから望みます。
まして、ご自身の資産運用に関わることなら、しつこく調べて当然だと思います。
話は、突然株式投資になりますが・・・
株式投資を「博打」にするか「投資」にするかは、参加者の姿勢次第です。

PS^2:
読者の皆様から、ITAKURASTYLE「潮時」に関して、たくさんのメールを頂いています。
一つ一つに返信を書く予定ですが、あまりにもたくさんのメールなので、返信が遅れることをご了承ください。

断っておきますが、このサイトを閉鎖するとか、エッセーを全く書かないということではありません。
新規事業に対する僕の時間配分を増やし、エッセーやセミナーについては、その手段を少し変える、ということです。
今後ともよろしくお願いいたします。





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