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ITAKURASTYLE「ニュースアップデート」

 
本日のエッセイは、最近気になる経済ニュースについて、僕なりの「見方」を。

<(米)Yahoo!とその恋人たち>

Yahoo!を取り巻く環境は、このところ膠着(こうちゃく)状態が続いています。

Yahoo!のCEOであるジェリー・ヤンは、同社の業績に対して悲観的なアナウンスをしていましたが、Microsoft(MS)からの買収提案を受けると一転、(過去、数か月の平均株価より高い買収価格をMSが提示したにもかかわらず)、「(買収価格が)安すぎる!」と主張。

(MSによる買収に経済的合理性を感じる)Yahoo!株主からは、訴訟が発生する可能性が高まっています。

また、この買収提案に便乗する形で、News Corp、SoftBank、Googleなどの存在も浮き彫りになりました。

一方、ネットビジネスに挑戦するも成果を上げられていないMSは、Yahoo!に限らず、ネットで成功を収めているSNSなどにも触手を伸ばしています。

このように「企業を一つの人格とみなした状況判断」ですら、複雑さが増している状況ですが、「それぞれの企業の利害関係者まで意思を分解すると」、さらに複雑さが増します。
(↑ いつも書いているように、「Yahoo!」と一言で表現しても、それには、経営者、従業員、株主など、様々な立場の利害関係者が存在し、それぞれの利害関係者の意見は、企業単位で「一枚岩」ではないわけですから複雑です。)

よって、すべての利害関係者の立場を考慮した「このケースの分析」は、極めて難しいので、ここでは、(僕が株主である)GoogleのCEO(エリック・シュミット氏)の立場で、このケースを「ゲーム理論風」に考えてみたいと思います。

Google(←の利害関係者の中でも、同社投資家から観た企業価値の最大化がミッションであるところのエリック・シュミットの立場・・・以下Googleの立場)で観た場合・・・。

1、MSの提示する「MSにとって妥当な価格」によるYahoo!買収は、検索エンジンという分野における競合性が増す可能性が高いので、実現してほしくない。

2、言い換えれば、ネット分野進出に焦るMSが、MSにとって「妥当な価格をはるかに上回る価格」でYahoo!を買収することになれば、買収後の新MSの事業活動における柔軟性がある程度抑制され、尚かつ、MSの一株あたりの価値が下落する可能性が高いので、Googleにとって、1より都合が良い。

3、GoogleによるYahoo!買収については、資金量の豊富なMSとの「買収合戦」に発展する可能性があり、その場合、買収を成功させるためには「かなりのプレミアム」を覚悟しなければならないが、そもそも検索エンジンシェアNo.1かつ成長中のGoogleにとって、ネット分野で出遅れたMSが提示する「相当なプレミアム価格」以上のプレミアムを支払うことは合理的ではない。

4、MS以外の「ネットに精通していない」求愛者によるYahoo!買収であれば、さほど脅威にはならない。

などが考えられます。

そこで、以上の状況を踏まえ、このケースでのGoogleにとって・・・

1、「最良のシナリオ」とは?

2、最良のシナリオに向かわせるための手段とは?

について、「ゲーム理論風」に考えてみるのが面白いと思います。



















す。

さて、読者の皆様のシナリオは、どのようなシナリオでしょうか?

もちろん、すべての当事者の事情を把握できるわけではないですし、メディアや当事者が発表する情報がすべての情報とは限りませんから、「これが答えだ!」という明確な正解があるわけではありませんので、以下はあくまで僕の私見です・・・。

僕がエリック・シュミット氏の立場だった場合、最良のシナリオとは。

「ジェリー・ヤン氏の独りよがりとも捉(とら)えられる意思決定の結果、
 Yahoo!が内部崩壊し、競合の一つが消えてなくなるか、
 その過程で『(その価値に対し)極めて格安の価格』で買収するシナリオ」

です。
また、そのシナリオの実現の可能性を高めるために、

「Yahoo!に対する『提携打診』を行い、ジェリー・ヤン氏がMSによる買収に抵抗するコストのかからない力添え」を行うことです。

ジェリー・ヤン氏が、Googleからの提携提案によって、MSからの買収提案を受け入れない可能性が高まり、その結果、Yahoo!の株主からの訴訟などが相次げば、Googleにとって最良のシナリオに近づけるというわけです。

あれ?(エリック・シュミット氏がどのようなシナリオに基づいて意思決定しているかは定かではありませんが)、事実、Googleは、少なくとも表面的には、このような行動をしています。

裏を返せば、(Googleのいち極少数株主である僕の立場では)、エリック・シュミット氏は、極めて合理的な意思決定を行っている、と僕は思います。

読者の皆さんの想定シナリオはいかがでしょうか?
このケース、今後も様々な意味で、企業のM&Aに関する知恵を得られるケースで注目したいと思います。

技術革新と競争の激しいIT分野は、新しい技術やビジネスモデルによって、業界再編が急速に進む分野ですから、「いつ何が起こるかわからない」という「楽しさ」がある一方で、投資家としては極めてリスクの高い分野です。

「賢明なる投資家」としては、避けて通るべき業界ではありますが、「面白い分野」でもあります。

 
<日本におけるCO2排出権取引実現案について>

この件、様々なメディアで取り上げられていますが、ほぼすべての「案」が、「どのように『規制』するか」という、何といいますか「官製」の考え方に支配されていると思います。

僕の私的意見は、

ITAKURASTYLE 「カーボンダイエットシステムの提案」

にて記述したとおり、

「企業という枠組みに対する規制ではなく、実際に温暖化ガスを排出するすべての人間が、インセンティブによって動く仕組み」が必要であると考えます。

(もちろん、企業という枠組みに対するインセンティブが伴う仕組みも含みます。)

どんな仕組みであれ、その仕組みが効果的に稼動するためには、その仕組みに参加する人間ひとり一人が、何らかのインセンティブを感じ続けることが必要だと思います。

単なる「規制」では、「仕方なく」参加する人間で構成されるシステムになってしまいますし、理屈では理解できても実感として認識しにくい「地球温暖化を防ぐというインセンティブ」をどれほど訴えても、参加者の意識が劇的に前向きになることは難しいと思います。

現実には、参加者の「劇的な意識変化」がなければ、京都議定書の目標達成は難しいと思います。

 
<外資規制>

外資規制について、「しっかり考え直しましょう」活動が始まっています。

これまでのエッセイをお読みの方は、僕の考えがお分かりと思いますが、ここで一度整理してみたいと思います。

1、民間企業における本質的な買収防衛策は、定款に買収防衛策を書き込むことではなく、資本効率の高い経営を行い続けること。

極端な例ですが、バークシャー・ハザウェイを、その株主が納得する価格にて買収し、バフェット氏以上の資本効率を実現しようとする投資家、僕はいないと思います。

2、そもそも国家の安全保障の上で、直接影響のある企業を上場させるべきではない。

日本で暮らす一人の人間としての僕は、「外資規制論」を度外視しても、電力卸である電源開発(Jパワー)の株主が、日本で暮らす人間ではない(=日本の電力供給の影響を直接受けない人間)株主によって支配されることを懸念します。

その一方で、「じゃあ、何で上場したのよ?」という疑問も浮かびます。

上場させたとしても、(個人の起業家が、そうであるように)せめてスーパー・メジャーシェア(←67%のシェア)を確保して上場するべきだと思います。

3、とはいえ、買収防衛策は必要。

これ、理由は極めて簡単です。
いわゆる「欧米か!」にくくられる国々も、日本と同等かそれ以上に厳しい外資規制を持っていますし、その規制が実際に発動されなくとも、その規制の存在が、買収者に対しする相当な買収抑制効果を働かせています。

「なぜ日本だけ文句を言われるの?」

という思いがあります。

「外国人投資家の日本への関心は、欧米や中国、ロシアなど新興国より低い」

などといった意見は、意見としてしっかり捉(とら)える必要がありますが、こういった意見のとらえ方が悲観的になり過ぎないように注意すべきだと思います。

なぜなら、彼ら外国人投資家は、それでも日本株がその価値に対して安ければ、しっかり買いに入るからです。

彼らが賢ければ賢いほど、日本の外資規制に文句を言いつつも、メイク・マネーの視点で合理的な投資先があれば、しっかり買うわけですから。

しかし、外資規制に対する「論理的で合理的な規制理由の明確化」は、必要ですよね。

 本当に賢い投資家が懸念しているのは、「規制そのもの」ではなく、
 「規制の根拠が曖昧(あいまい)であること」なのだと思います。

(外国人に限らず)投資家が、自らの投資戦略を練る時、その戦略の実現が、日本の曖昧(あいまい)な規制によって、当初は実現可能だったはずなのに、途中で「ダメ出し」され、投資戦略が完了できない可能性を、最も恐れているのではないでしょうか。

規制の良しあし、といった議論では、何も解決できないでしょう。


 
以上、本日のエッセイは、気になるニュースについて私見を述べさせていただきました。

まだまだ気になるニュースはたくさんあるのですが、次回以降に。

2008年5月19日 板倉雄一郎

PS:
昨日は、セミナー卒業生とのBBQでした。
天気も良く、とっても気持ちよかったのですが、おかげで今日は、アルコールを飲んでいるわけでもないのに、まるで酔っ払いのような「顔色」です。
(笑・・・ヒリヒリします)

これからの数か月、アウトドアを満喫したいと思います。





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