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ITAKURASTYLE「スーパーマン経営者の問題」

先週末の日曜日は、合宿セミナー卒業生によって構成される当事務所プレミアクラブ(有料)の「(毎月恒例)オンラインバリュエーション大会」でした。
評価対象企業は、先日のパートナーエッセイでも取り上げた「日本電産」。

今回は、プレミア会員の中からお二人の方に同社のバリュエーションを行っていただき、その後、オンラインにて様々な議論がされました。
今回は、これまで以上に活発な議論がされ、僕自身も大変勉強になり、とても楽しかったです。
やはり、
1、一つのテーマについて、
2、全く別の職種や経歴や嗜好の持ち主が、
3、一定の知識を共有したうえで、
議論するのって、「本当の議論」になりえます。
「朝までなんとか!」みたいな「めちゃくちゃ水掛け論」を売りにするテレビ番組に感じるような「変なストレス」もなく、議論そのものに集中できて大変有意義な時間です。

今回の議論の「一つの」テーマは、

「スーパーマン経営者によって経営される企業のバリュエーションの難しさ」

でした。

ご存知の方も多いとは思いますが、日本電産の永守重信社長は、いわゆるカリスマ経営者として有名です。
そこいらの「余ったお金を短期運用するファンド」なんかのヘタクソな企業買収とは違い、経営を熟知している者による非常に上手な、企業買収⇒再建⇒グループ企業化、という手法を継続的に成功させている企業です。
その結果、この10年間の企業価値の増大振りは、他を圧倒します。

しかし!
永守重信社長は、既に63歳。
後10年は現役でその手腕を振るうとは思いますが、10年目以降の「投資家に帰属するキャッシュフロー」もカウントすべき企業価値評価を行う上では、

「後継者って居るの?」とか、
「現在の経営手法をいつまで継続できるの?」とかいう問題を解決しなければならないわけです。
つまり、日本電産に限らず、いわゆるスーパーマン経営者によって企業価値を急速に増大させている企業の企業価値評価って難しいという議論になるわけです。

この問題、確かに難しい。
けれど、解決の方法はあります・・・

以下、オンラインバリュエーション大会の後に、プレミア会員メーリングリスト上で、今回日本電産の企業価値評価を行っていただいたプレミア会員の方などと僕のやり取りの一部を掲載します・・・

===プレミア会員の発言①===

(前略)

私が日本電産に感じた違和感もそこにあったのだと思います。
「永守さんは、自分に意見する自分にはない魅力、経営観を持つ後継者」を育ててきたのか。
 
MAで事業拡大するのも大切ですが、そろそろ、自分の身の引き際を考えて後継者を意識するようになったら、私はこの会社の株を買ってもいいと思いますね。

(後略)

===プレミア会員の発言②===

(前略)

将来キャッシュフローの源泉は、そのビジネスモデルや
その他、セミナーで受けた解説なのだとは思うのですが、
経営者の資質がとても大部分を占めているよう気がして・・・。

(後略)

===僕の意見===

まったくその通りですが、経営者の資質が企業価値に与える程度には、ビジネスモデルや事業ステージによって違いがありますよね。
いわゆる支配的なブランド商品を持っている企業(←たとえばコカコーラだとか)や、いわゆる料金所的ビジネスモデルの企業(←たとえばモノラインだとか)の場合と、(前者)
「現在の成長手法」を行っている限りの日本電産や、ソフトバンクなどの場合(後者)では、経営者の資質が企業価値に与える影響には違いがありますよね。

どちらに投資家として参加するか・・・これは投資家それぞれの好み(←リスク許容度)に依存するのではないかと思います。
たとえば、バフェットは明らかに前者が好きですよね。
前者のような企業の場合、緩やかに増加する一株あたりの配当を目当てに、何かの拍子で一時的に株価が下落したときに投資し、長期投資するのが合理的だと思いますし、
後者のような企業の場合、勢いのある期間にキャピタルゲインを目当てに、中期投資するのが合理的だと思います。

以上をベースに、今回の日本電産とスーパーマンとの関係をバリュエーションに織り込む一つの方法としては、
①スーパーマンが現役である「MAによる成長期間」と、
②スーパーマンが退任し、「フツーに成長する期間」とに分けて、
①では、投資CFが大きいおかげでFCFは大して生まないが、その先のFCFの増大に貢献する期間、②では、MAなどによるドラスティックな企業価値成長は無いが、①での戦略のおかげで、緩やかに成長するFCFが見込まれるというような期間別の分析も可能かと思います。
株価が大きく値上がりするのは(≒企業価値が大きくなるのは)、①の時期で、実際のFCFが発生し、それが配当などによって株主還元されるのが②の時期になると思います。
たとえば、マイクロソフトがその典型的な例ですよね。
2000年までは、一切の配当を行っていませんでしたが、一方で企業価値は増大し続け、その後は、企業価値は一定だけれど、その分多額の配当や自社株買いによる株主還元を行っているというわけです。

まとめると、スーパーマンが現役で現在の成長戦略をとるであろう期間を詳細分析期間として、その後スーパーマンが退任した後は、スーパーマンが築いた企業グループを、フツーに成長させる継続価値計算によって算出する、とするのが合理的だと思います。

===以上===

要するに、企業の成長ステージに合致した経営手腕を持つ経営者に「バトンタッチ」することが、企業を継続的に維持成長させる上で大切なことだ、というわけです。

つまり、スーパーマン経営者によって経営される企業の場合の課題は、
「同じ手法を継承する後継者の存在」ではなく、
「企業の成長ステージに合わせて自らバトンを渡す時期を認知し実行できるか」
なのだと思います。

しかしそれが実行されるかどうかは、正直言って「わかりません」。
ならば、そのような企業の評価は不可能なのかといえばそうではありません。
それらの「リスク」を、企業価値評価に織り込めばよいわけです。
僕の場合なら、それらのリスクを、自分自身の期待収益率を上昇させることによって織り込みます。
この方法は、世間一般の企業価値評価における株主資本コスト(Ke)をCAPMで測定するような方法では不可能ですが、株主資本コスト=投資家にとっての期待収益率、であることに着目した「自分勝手割引率」によって企業価値評価に織り込むことが可能です。

結局のところ、それが投資である以上、「他人がどう思うか」より、「自分がどう感じるか」を優先することを忘れてはならないと思います。
だって、自分のお金の運用なのですから。
自分が正しければ、市場価格は、ある一定の期間を経て、自分の価値に裁定され、十分な利回りとなって返ってきます。
自分が間違っていれば・・・損します(笑)
投資ってのは、そういうものです。

読者の皆様も、「一定の知識を共有した仲間との議論」に参加してみませんか?
企業価値評価に関する「基礎知識」なんて、集中して講義を受ければたった2日間で学習できます。
大切なことは、その基礎を個別企業の価値評価を通じて、「自分のものにしてゆくこと」です。
迷ってないで、さっさとセミナーを「卒業」して、もっと現実的で、実践的な議論や投資や経営に役立てましょう!

(↑っていうセミナーの宣伝で締めくくりだったりします(笑))

2008年4月1日 板倉雄一郎

PS:
4月1日ですが、本文の内容は冗談を書いたわけではありません。

PS^2:
現在の政治の状況は、一見、「与党対野党」に見えますが、本当は、「政治家対官僚」なんですよね。
それに気がついているのは、官僚で、それに気がついていない(か、または気がついていても合理的な行動ができていない)のが、政治家なのだと思います。
そこに、現在の政治の混乱の原因があるのだと思います。





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