本日の朝の経済番組(?とはいえない内容ばかりの番組ですが)で、“テクニカルアナリスト”と称する方が、「自社株買いによって得られた株式をどうするかによって一株あたりの利益が変わる」と、へーきで、間違いを発言していました(笑…いわゆる専門家とは“専門以外のことはわからない”という意味ですね)
金庫株の消却とは、「単なる法的手続き」なのであって、それによる企業価値、株主価値の変動は“全くありません”。
単なる法的手続きによって、「一株あたりの利益」だとか、「時価総額」だとかが変化すると考えるほうが「おかしい」って、直感的にわからないものなのでしょうか。
このサイトの読者であれば、そんな間違いにはスグに気が付くと思いますが、念のため…。
一株当たり利益の算出において、「金庫株数」を調整していない一株当たり利益や、時価総額には、「何の意味もない」わけです。
正しい一株当たり利益(EPS:Earings Per Share)の正しい算出方法は、
EPS = 当期利益 /(総発行済み株式数 - 金庫株数)
となりますし、
正しい時価総額 = 株価 ×(総発行済み株式数 - 金庫株数)
です。
したがって、金庫株数調整を行っていない「間違った一株当たり利益」は、
確かに「金庫株償却」によって高まりますが、それって「間違った計算式」の結果に過ぎず、何の意味もないわけです。
なぜなら、しつこいようですが、金庫株というのは、企業という器を媒介にして、間接的に「自己口以外の人間株主」によって保有されるわけですから、金庫株が消却されようがされなかろうが「人間株主」にとっての「一株当たり利益」には、なんの変化もありません。
詳しくは、
パートナーエッセイ 第19回 「よくある勘違い」
BTB 第2回「自社株買い」
また、過去のエッセイのPS部分で書いたことを、再掲載いたします・・・
トヨタ自動車の「自社株買い」と「金庫株の消却」が発表され報道されました。
が、ネット上のブロガーや、一部の経済紙では、間違った知識の下に書かれた文 章がたくさんありました。
それは、「金庫株の消却によって資本効率が向上する!」と言った内容です。はっきり書いておきますが、金庫株を消却しようがしなかろうが、一株辺りの価値にも、資本効率にも「全く何の影響も無い」のです。
自社株買い(=自己株取得)は、その条件が満たされれば、資本効率も向上し、且つ、一株辺りの価値も増大します。
(条件・・・大幅な割安の状態での自社株買い)
しかし、自社株買いによって取得した金庫株は、企業という器を経由して間接的に一般株主に帰属しますから、それを償却しようがしなかろうが、一株辺りの価値には全く変動がありません。
おそらく、大株主リストに「自己口」が記載されていると、「その金庫株が市場で放出されて希薄化を起こすやもしれん」という誤った認識の下、金庫株の消却が一株辺りの価値を増大させると思い込んでいる人が多いのだと思います。
しかし、金庫株を市場で放出する行為は、法的に、新株発行(←つまり増資)とほとんど同じ手続きが必要ですから、金庫株といえども、簡単に市場に放出することはできないのです。
したがって、
企業価値評価において、一株当たり価値を算出する場合にも・・・。一株辺り価値 = 株主価値 / (総発行済み株式数 - 金庫株数)
によって正確に求められます。
(ただし、株主価値 = 企業価値 - 有利子負債(←債権者価値)
企業価値 = DCF法による事業価値 + 非事業用資産価値)
ちなみに、日本のYahoo!ファイナンスなどの「時価総額」の表記は、以上の金庫株数の調整を行っておらず、単に、総発行済み株式数 × 株価 によって算出されているので、注意が必要です。
さらにちなみに、米国での時価総額の定義は、しっかり・・・
「shares outstanding」 = 「all issued shares」-「any treasury stock 」
とされていて、時価総額(Market capitalization)についても、
「the share price」×「the number of shares outstanding」
とされています。
以上です。
とにかく、「専門誌に書かれているから本当のことだ」とか、「専門家が言っているのだから本当のことだ」とかいった考え方や、捉え方は危険です。
『自分で考える』。
これが一番真っ当です。
2008年3月18日 板倉雄一郎
PS:
企業の財務オペレーションと企業価値の相対的関係についてちゃんと解説している書籍などがありません。本当に、このあたりの間違いが多いです。
でも、この5月に僕が200分も財務オペレーションと企業価値の相対的関係について図解入りで喋り捲るDVDが発売されますので、お楽しみに。