過去にも関連したエッセイを書きましたが、
BTBとして、「価値と価格の交換」に基づき、書いてみますね。
自社株買いとは・・・
「
自社株買いに応じて株式を手放す既存株主の株主価値を、
自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が、
企業という器を通じて、時価で買い受ける行為。
したがって、株主価値に対して割安な時価総額の時点での自社株買いは、
自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が得をし、
その分自社株買いに応じて株式を手放す既存株主が損をする。
また、株主価値に対して割高な時価総額の時点での自社株買いは、
自社株買いに応じて株式を手放す既存株主が得をし、
その分自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が損をする。
さらに、
自社株買いによって得られた「金庫株」を、
燃やしても燃やさなくても、当該企業の株主価値には変動が無い。
なぜなら、「金庫株」は、
そもそも既存株主が間接的に保有しているに過ぎないから。
」(以上、KISS 第126号「学習の方法(自社株買い)」より)
以上をもうちょっと詳しく解説します。
自社株買いの原資は、当該企業の余剰資金です。
この余剰資金で市場から当該企業自身の株式を買うわけですから、
キャッシュの側面だけ見れば、当該企業の余剰現金は企業外に放出されます。
当該企業の余剰現金は、当該企業の「企業価値」の一部ですから、
キャッシュ放出分、企業価値は減少します。
一方で、
市場価格で当該企業の株式を、既存株主が手に入れるわけですから、
もし、
「市場価格(=株価)=一株あたり株主価値」であるとすれば、
「失うキャッシュ=手に入れる株主価値」となり、
一株あたりの価値に変動は無く、したがって市場がそこそこ効率的であれば、
株価に変動はありません。
当該企業が時間経過と共に株主価値を増大させるであろう企業の場合、
自社株買いに応じてキャッシュをいただく代わりに株主価値を失う(元)株主が、
「当該企業に対する」運用機会を損失するに過ぎません。
もし、
「市場価格(=株価)>一株あたり株主価値」であるとすれば、
自社株買いに応じず「残る株主」にとって観れば、
「失うキャッシュ>手に入れる株主価値」となり、
一株あたりの価値は減少し、したがって市場がそこそこ効率的であれば、
株価は下落します。
(が、一時的には、「自社株買い=株価上昇」と、
無条件に思い込んでいる投資家が数多く存在するので、
株価は、この場合でも「一時的に」上昇する傾向があります。)
もし、
「市場価格(=株価)<一株あたり株主価値」であるとすれば、
自社株買いに応じず「残る株主」にとって観れば、
「失うキャッシュ<手に入れる株主価値」となり、
一株あたりの価値は増大し、したがって市場がそこそこ効率的であれば、
株価は上昇します。
以上から、経営陣が自社株買いを行うべき合理的条件とは、
「市場価格(=株価)=<一株あたり株主価値」のときに、
当該企業の将来キャッシュフローに無関係な「余剰現金」によって、
実施されるべきオペレーションということになります。
上記の、「市場価格=<一株当たり株主価値」には、
「<」ではなく、「=<」を使っていることに着目してください。
つまり、
「市場価格=一株あたり価値」の場合にも、自社株買いは合理的という意味です。
なぜなら、
原資が余剰現金である(=再投資対象が見つからない)場合、
そんな資金は、さっさと株主に返還すべきですが、
もし「配当」によってそれが行われた場合、
「すべての既存株主に対して配当に課税」されてしまいますが、
自社株買いであれば、
「自社株買いに応じてキャッシュを受け取る(元)株主」においても、
「残る株主」にとっても、
自社株買い実施時点での、もしくは将来のある時点での、
キャピタルゲイン課税で済みますので、
自社株買いの方が、(政府の懐)以外にとって合理的というわけです。
もし、
「配当」に課税されないとすれば、企業が余剰現金を株主に還元する方法として、
「配当」もアリだとは思いますけれど。
つまり、
普段の生活から、企業のオペレーション、そして国家財政に至るまで、
「買い物」も、「M&A」も、「税減税」も、
「オペレーションの名前」=「(誰かにとって)都合が良い(または悪い)」
という図式は成立せず、
あくまで、
「誰のどんな価値と、誰のどんな価格の交換であるか」を突き止めなければ、
「誰にとって得で、誰にとって損なのか」は、“わからない”です。
この連載の要は、あらゆる経済的取引を、
「価値と価格の交換に落とし込みながら理解する」です。
皆さんも、身の回りのありとあらゆる経済的取引について、
「価値と価格の交換」に着目して、考える癖を付けると良いと思います。
2006年10月16日 板倉雄一郎
PS:
今週より、火曜日、木曜日、土曜日は、僕がエッセイをお休みして、
当事務所の優秀なパートナーによるパートナーエッセイを連載します。
明日は第一回です。
よろしくお願いいたします。