板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「法人税の負担者」

昨日(2006年10月10日)夕方からTVを観ながら、
「なんだそれ!」と、表現のイイカゲンさに一人でブツブツ。

爆笑問題が司会を務める番組を観ていました。
番組の中では、「税」に関する過去の政策について、

「消費税など庶民への増税の一方で、
    企業からの税である法人減税がされているのが問題だ」
と、わざわざ図解されて表現されていました。
ホント、大衆メディア(特にテレビ)は、終わってます。

この表現の前半「庶民への増税」には、
「庶民」という「人」が使われていますが、
後半には「企業」という「仕組み」が使われていて、「人」がはっきりしません。

そもそも、「企業」」などという「人」は、この世に存在しません。
企業とは、顧客、従業員、取引先、債権者、株主などの人の集団です。
よって、「法人税」は、これらの利害関係者から徴収することになります。

法人税率を上昇させれば、経営者は当然ながら、
投資家に帰属するキャッシュフローを減らさないようにするために、
(=投資家から観た企業価値を減少させないようにするために)
給与の上昇を抑えたり、
取引先への支払いを減らしたり、
顧客へ販売する価格を上昇させたり、するわけです。
経営者が企業の継続性を慎重に考えれば、
投資家以外の利害関係者にだけ税負担を負わせるわけにはいきませんから、
投資家に帰属するキャッシュフローも減少するでしょう。

法人税率のアップは、誰に負担が生じるか、簡単にわかるでしょう。

多くの生活者が、
1、いずれかの「企業の商品を購入」し(=企業の顧客)
2、いずれかの「企業に従事」し(=企業の従業員)
3、いずれかの「企業に資金を提供」し
(↑=銀行預金が間接的に企業に融資されることにより債権者であったり、
    はたまた個人によっては株主であったり)
4、いずれかの「企業の取引先の企業に従事」(=企業の取引先)
しながら生活している以上、法人税率のアップは、
「消費税と同様に」広く生活者への負担となるわけです。

以上のことをまったく無視し、
「企業」と「庶民」を、全く別の「人間」と捉え、
「消費税アップによって増えた税収は○○○兆円、
    法人減税による税収減が○○○兆円だった」
などと、全く比較の意味のない比較、を表現していたりするわけです。
これじゃまるで、法人税を減税せずに据え置いていれば、
消費税アップが必要なかった、のような表現です。

お話にならないですね。
こういう番組と、わけがわかっていない出演者が、
大衆をミスリードしてゆくわけです。

経済活動は、常に「ルックスルー」した上で評価しなければなりません。

義務教育の現場で、
「子供にお金の話をするなんて良くないことだわ」
なんていうバカ者がたくさん居ることが、そもそもの原因でしょう。
お金の話をしようがしまいが、お金と経済に関わらなければ生活できないわけです。
「お金と経済の仕組み」を義務教育の段階で伝えないからこそ、
「お金にガツガツするバカ」を生み出すのでしょう。

たとえば、
「税は、こっちから取らずに、あっちから取れ」と言ったところで、
その「あっち」にも自分の立場があったりするものなのです。
また、
企業の利害関係者の中で、「株主の側面」しか知らない者が、
「企業は株主のものだ!」などと公の場で発言するバカを生み出すのです。

経済は、常に循環しています。
一つの側面の「瞬間」を議論したところで、何の意味もないのです。
その「循環」を小さいころから教える必要があるのです。

2006年10月11日 板倉雄一郎

PS:
NHKの番組では、新生安倍内閣に関するアンケート調査に関する内容。
「評価する」、と、「評価しない」という分類で表現されてしました。
NHKに限らず、この表現を使うメディアは多いのですが、
そもそも、
「評価する」とは、「対象の良し悪しを見極める」という意味で、
「評価しない」とは、「対象の良し悪しを見極めない」という意味だと、
少なくとも僕は思っています。
彼らが使う「評価する」は、「(対象の価値を)高く評価する」の意味で、
彼らが使う「評価しない」は、
「(対象の価値を)低く評価する」の意味でしょうけれど、ならば、
「賛成する」、と、「賛成しない」とか、
そういう表現のほうが正しいと思います。
「評価する」結果、良し悪しがわかるのであり、
「評価しない」とは、「まるで興味がない」の意味合いのほうが強いと思います。
だって、
「企業価値評価」とは、当該企業の価値を評価するのであって、
「企業の価値を高く評価する」という意味ではありませんからね。





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