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BTB 第1回「有利子負債の増減」

やっと始まりました、「Back To The Basic」です。

「あらゆる経済的取引は、誰かの価格と、他の誰かの価値との交換である。」

こんな視点で、企業や個人の経済的取引を解説したいと思います。

第一回は、表題のとおり『有利子負債の増減』についてです・・・。

とある企業が、
利率1.5%、5年満期の社債を過去に発行していたとします。

どんな業種、業態、成長ステージにこの企業が属して居ようとも、
こんな「債権(またはそれを証券化した債券・・・以下債権で統一)」を、
この企業の株主が欲しがるでしょうか?

リスクフリーと言われる日本国債の現在の利回りはおよそ1.7%~1.8%です。

よって、
明らかにリスクプレミアムのある「個別企業」の社債の利率が1.5%であれば、
多くの投資家は、「そんなもの要らない」と思うでしょう。

もちろん、当該企業の株主も同様に思うはずです。

だとすれば、
当該企業の株主は、
そんな「価格に対して価値の低い債権」を買うことを避けて当然です。

企業が、「有利子負債を返済する」と言うことは、すなわち、
「当該企業の株主が、額面でその債権を買い取る」と言うことを意味しますが、
その債権が魅力的ではない(=価値に対して価格が高い)と思うのであれば、
その債権を買い取らないほうが良い(=有利子負債の返済をしない方が良い)
となるはずです。

よって、
その債権を買い取らず(=返済せず)、
誰か他人(=債権者)が保有したまま(=満期まで返済せず)、
放置することが合理的であると考えられます。

一方で、
ある程度経済的信用の高い企業が、
「(それなりのリスクプレミアムの付いた)金利の有利子負債」
を抱えていたとすれば、その債権は、債権者にとって割と魅力的です。

当然ながら、当該企業の株主にとっても、その債権は魅力的です。

よって、当該企業の株主も「その債権が欲しい」と思うわけです。

有利子負債を抱える企業の株主が、
当該企業の債権に魅力を感じるのであれば、
その債権を株主が「買い取る」のが合理的ですが、
「当該企業の株主が、当該企業の債権を買い取る」という行為は、
すなわち、「当該企業の有利子負債を返済する」ということになります。

つまり、
有利子負債の減少(=有利子負債の返済)とは、
当該企業の株主が、現在の債権者から、債権を買い取ることを意味し、
有利子負債の増加(=新規に有利子負債を抱える)とは、
当該企業の株主が、当該企業に対する債権を、
第三者(=新たな債権者)に売るということを意味します。

よって、
「債権価格に対する債権価値が高ければ」
(=リスクに対してリターンが十分に高ければ)、
当該企業の株主は、
その債権を手に入れれば(=返済すれば)良いわけですし、
その逆であれば、
そんな債権を手に入れなければ(=返済しなければ)良い、となります。

「債権の価値と価格」およびその「取引」の本質に着目すれば、
(株主にとって)有利子負債を返済すべきか否かは、
割と簡単に判断できる、というわけです。

以上のように、有利子負債の増減であっても、
その取引は、明らかに「誰かの価値と他の誰かの価格の交換」であることが、
お分かりいただけると思いますし、
有利子負債の増減でさえ「価値と価格の取引」であることを認識すれば、
必ずしも「無借金経営が是」という事ではないことも、
お分かりいただけるのではないかと思います。

ファイナンス理論的には、「最適D/E比率」を探るということになり、
その本質的目的は、「資本調達コストの低減」にあります。

参考エッセイ:
 DeepKISS 第54号「最適D/E比率
 ITAKURASTYLE「資本コストは支払い金利だけじゃないのよ」

以上の「企業の有利子負債の増減」は、個人の場合にも全く同様に適用できます。
個人の抱える有利子負債が、その債権者にとって魅力的であれば、
その分、その個人(=企業で比ゆすれば株主)が損をしているわけですから、
可能な限り早期に返済(=個人が債権を買い取ること)が合理的ですし、
その逆もまた真なりです。

2006年10月10日 板倉雄一郎