板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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BTB 第6回「有利子負債の増減(再び)」

企業に対する投資家には2種類あります。
一つはハイリスク・ハイリターンの株主、
そしてもう一つは(株主に比べれば)ローリスク・ローリターンの債権者です。
有利子負債の増加とは、資金調達をする一方で、
企業の投資家に帰属するキャッシュフロー(以下フリーキャッシュフロー)を分かち合う相手の一方・・・債権者の取り分が増加するということを意味し、また有利子負債の減少とは、営業活動や財務活動によって調達した資金を、債権者に返済すことにより、債権者の将来の取り分が減少するということになります。

以上から有利子負債の増減は、すなわち企業のフリーキャッシュフローを分かち合う一方の取り分を増減させるということに他なりません。
有利子負債の減少は、「せっかく手元にある現金」を放出することによって行われるので、新規の投資対象を見つけられる企業にとっては、投資機会の損失という側面がある一方、将来のフリーキャッシュフローの分け前において、株主の取り分が多くなるということになります。
また、有利子負債の増加とは、すなわち自己資本に対するレバレッジ効果を得るということにもなります。
一般的に、有利子負債の資本コストより株主資本コストの方が、
リスクが高い分、「有利子負債コスト<株主資本コスト」となります。
企業業績の変動の影響を受けるのは、債権者ではなく株主であるというわけですね。

このメカニズムを「静的」に捉えて、
「ならば有利子負債の比率が高ければ=レバレッジが高ければ、
 企業のWACCを低下させることが出来る」と安易に考えてはいけません。
そもそも資本レバレッジが増せば増すほど、
株主の受ける業績変動の影響が大きくなるわけですから、
同時に株主資本コストは上昇する傾向にあります。(参考MM理論)
以上から、業績変動が比較的小さい企業の場合、
資本レバレッジを利かせることによって、
株主のリスク=リターンを向上させることが合理的であり、
その逆に業績変動の比較的大きな企業の場合、資本レバレッジを抑え、
株主のリスク=リターンを過大にしないような適正資本バランスが必要になるというわけです。

以上から、資本構成における有利子負債の比率、
つまり資本レバレッジの高低によって、
一概に「どちらが良い」ということではないことがお分かりいただけると思います。

2006年11月27日 板倉雄一郎