板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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BTB 第5回「ストックオプション」

「ストックオプションは魔法の杖だ!」と言われた時期がありました。
確かに、
ストックオプションを付与される立場から観たり、
株主価値を無視した経営者から観れば(←そんなの経営者ではありませんが)、
ストックオプションは、魔法の杖でしょう。

ストックオプションとは、
「ストックオプションを付与された者が、ある一定期日まで、
 当初定められた(途中で変更される場合もありますが)行使価格で、
 同社の株式を取得できる権利のこと。
 よって、株価がどれほど高騰しても、当初定められた行使価格にて、
 株式を取得することができます。
 オプション行使期限内で、株価が行使価格を上回っていれば、
 オプション保有者は、権利を行使することによって、
 市場価格に比べ有利な価格で株式を取得することができます。
 その逆に、株価が行使価格を下回っていれば、
 (↑ つまり、オプション権利を行使するより、
      市場価格で株式を保有するほうが有利な場合)
 そのオプション権利を破棄するか、
 または行使しないという「選択」ができます。」

ストックオプションは、その権利保有者にとって、
株価が上昇すればするほど、(全く投資をしていないのに)、
多くのキャピタルゲインを得られる権利ですから、
通常、同社の従業員や経営者など、同社の企業価値の最大化に、大きく影響を及ぼすであろう者に対するインセンティブとして利用されます。
(↑ 要するに、馬の鼻先にニンジンをぶら下げて速く走らせるってことです)
その上、
思うように株価が上昇しなければ、権利を放棄するだけのことですから、
権利保有者にとって、非常に都合の良いシステムです。

以上から、ストックオプションの「効能」とは、
「企業価値の最大化」⇒「ストックオプション権利保有者の利益」
というリンケージによって、
「株主のリターン」≒「従業員や経営者のリターン」
という構図を作り出し、経営効率のアップを狙えるという点が上げられます。

ストックオプションの発行時には、実際のキャッシュアウトがほとんど伴わないので、
「ほとんどコストがかからない魔法の杖」と、お・も・わ・れ・て、いるわけです。

しかし、
「お金がどこからか自然に沸いてくる」わけありません。
ストックオプションの権利保有者が得をする分、
同社の既存株主が損をするのが、ストックオプションの正体です。

ストックオプションにおける価値と価格の交換を、既存株主の視点から観れば、
「将来のオプション権利行使による一株あたり価値の希薄化を差し出す代わりに、オプション権利保有者が株主価値の最大化のためにガンバルであろう価値を取得する」となるでしょう。

つまり、ストックオプションとは、既存株主から権利保有者へのギフトに他ならないのです。
ストックオプションという「馬にニンジン」が、功を奏すれば、
既存株主にとっても、オプション権利保有者にとっても、ハッピーな制度ですが、
そもそも、
ストックオプションを与えられていなくても、
従業員は労働力の対価として賃金を受け取っているわけですし、
経営者は経営手腕の対価として役員報酬を受け取っているわけですから、
その範囲の中で、最大の価値提供をしてしかるべきです。

「オプションをいただけないなら頑張らない」などという馬鹿者を、
雇用したり経営者に据えようとする行為は、大変馬鹿馬鹿しい事です。


さて、企業価値評価におけるストックオプションの取り扱いについてですが、
僕の場合、「硬めに見積もる」癖がありますので、
一株あたり価値の算出におけるストックオプションの取り扱いは、以下のようにしています・・・

一株あたり価値=
[株主価値+SO数*行使価格]/[総発行済株式数+SO数]

ただし、
SO数=ストックオプション数
株主価値=企業価値ー有利子負債
企業価値=事業価値+非事業用資産価値

つまり、
将来のストックオプション権利行使による一株あたり価値の希薄化を、
企業価値評価の時点で、予め織り込んでおく、というわけです。
もちろん、この算定方法は、かなり固めです。
なぜなら、
1、オプション権利が必ず行使されるとは限らない
2、行使されるとしてもその時期がわからない
からです。
しかし、個人投資家が、自身のために、評価を固めすることに、なんら問題はありませんから、
「もし、直ちに権利が行使されるとしたら」という固めの前提によって、
ストックオプション権利行使による、
キャッシュ流入(=SO数*行使価格)を株主価値に加える一方で、
株主価値を除する総発行済株式数に、SO数を加え、
一株あたりの価値を算出するというわけです。

しかし、そもそも、ストックオプションを大量に発行するような企業には、
あまり興味はありませんけれど。

2006年11月8日 板倉雄一郎