板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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実践バリュエーション 第2回「現金・現金同等物」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆様こんにちは。パートナーのうなずき王子です。

「実践バリュエーション」第2回です。
このエッセイでは、実際に自分でバリュエーションを行う際に
つまずく点、ミスをしやすい点、または、今までのセミナーで特に多くの
ご質問を頂いた点を中心に、実際の企業のデータを交えながら、
書いていきたいと思っています。

今回は、これまたよくご質問を頂く「現金・現金同等物」
を取り上げてみましょう。

ご存知の通り、企業価値は以下の関係式で表されます。

企業価値
=株主価値+債権者価値(有利子負債の価値)
=事業価値+非事業価値(非事業用資産の価値)

上記の式から、

株主価値
=事業価値+非事業価値?債権者価値

となります。

非事業価値とは何かというと、文字通り、事業に使われていない資産の
価値です。具体的には、余剰現金、遊休地、非事業用の投資有価証券など
ですね。

余剰現金を計算するにあたって必要となるのが、現金・現金同等物です。

では、現金・現金同等物はどのようにして計算すればよいのでしょうか?

具体的に、大正製薬(4535)の有価証券報告書(以下、有報)を
見てみましょう。

有報1ページの【主要な経営指標等の推移】の中に「現金及び現金同等物
の期末残高」があります。平成18年3月期の数字は、92,195百万円と
なっています。

これは、キャッシュフロー計算書(以下、CF計算書)の「現金及び
現金同等物の期末残高」から抜粋された数字です。しかし、
バリュエーションする際には、これを使うことをお勧めしません。

理由を説明するにあたって、企業会計審議会が策定した「連結キャッシュ・
フロー計算書等の作成基準」を見てみましょう。

----------------------(引用開始) ----------------------

第二  作成基準

一  資金の範囲

 連結キャッシュ・フロー計算書が対象とする資金の範囲は、現金及び
現金同等物とする。

1  現金とは、手許現金及び要求払預金をいう。(注1)


2  現金同等物とは、容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について
僅少なリスクしか負わない短期投資をいう。(注2)


(注1)要求払預金について

 要求払預金には、例えば、当座預金、普通預金、通知預金が含まれる。

(注2)現金同等物について

 現金同等物には、例えば、取得日から満期日又は償還日までの期間が
3か月以内の短期投資である定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・
ペーパー、売戻し条件付現先、公社債投資信託が含まれる。

----------------------(引用終了) ----------------------


要約すると、CF計算書の現金・現金同等物とは、現金、預金、3ヶ月以内
の短期投資ですね。ですので、3ヶ月を超える現金・現金同等物は
含まれていないことになります。

一方、貸借対照表(以下、BS)における流動資産の現金・現金同等物に
該当する各項目(現金、預金、有価証券、短期貸付金、預け金、
コマーシャル・ペーパーなど)は、1年以内に入金、もしくは
現金化されるものです。(1年基準)


よって、CF計算書の現金・現金同等物を使用すると、BSの各項目を
足し上げて計算した場合より、過小評価されてしまいます。


先ほどの大正製薬の有報51ページを見ると、その差に関して、注記が
あります。


----------------------(引用開始) ----------------------


現金及び現金同等物の期末残高と連結貸借対照表に掲記されている
科目の金額との関係

現金及び預金勘定 155,205百万円
有価証券勘定 3,492百万円
小計 158,697百万円
預入期間が3ヶ月を超える定期預金 △63,170百万円
償還期間が3ヶ月を超える債券等 △3,331百万円
現金及び現金同等物期末残高 92,195百万円


----------------------(引用終了) ----------------------


BSの流動資産の現金及び預金と有価証券を合計して計算される
現金・現金同等物は、158,697百万円です。
しかし、その中には、3ヶ月を超える預金・投資が含まれているため、
その分を差し引くと、92,195百万円となります。(=CF計算書の現金・
現金同等物)

すなわち、CF計算書の現金・現金同等物は、BSから計算される
現金・現金同等物と比較して、28% (=1?92,195/158,697)も
小さくなっています。


他の企業についても、どの程度差があるのか調べてみましょう。

金融業を除いて、データが取得できた3,563社について調べてみました。

CF計算書の現金・現金同等物は、BSから計算される現金・現金同等物と
比較して、最高で、97%も小さくなっていました。

3,563社を平均すると、8.6%小さくなっていました。

会社によっては、結構な差があるので、バリュエーションする際には、
気をつける必要がありますね。


以上、バリュエーションに用いる現金・現金同等物について
ご理解頂けましたでしょうか?

結論は、「BSの流動資産の項目から、現金・現金同等物を計算する。」
です。

2006年11月9日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

次回パートナーエッセイは、11月11日(土)に、Ohashi氏が担当します。

実践バリュエーション 第1回 「減価償却費」