板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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実践バリュエーション 第3回「少数株主持分」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)


皆様こんにちは。パートナーの高村です。

「実践バリュエーション」第3回です。
このエッセイでは、実際に自分でバリュエーションを行う際に
つまずく点、ミスをしやすい点、または、今までのセミナーで特に多くの
ご質問を頂いた点を中心に、実際の企業のデータを交えながら、
書いていきたいと思っています。

今回は、「少数株主持分」を取り上げてみましょう。

少数株主持分とは、ある会社Aの子会社に出資している株主の中で、
親会社(=会社A=大株主)以外の株主(=少数株主)の持分のこと
です。

例えば、NTTについて考えてみましょう。NTTの子会社にNTTドコモが
あります。NTTは、2006年3月末時点で、NTTドコモの59%の株式を
保有する大株主です。よって、NTTドコモの財務諸表は、NTTの
財務諸表に連結されます。

残りの41%は、432,992名の株主によって保有されています。
彼らのNTTドコモの持分が、連結されたNTTの貸借対照表(以下、BS)の
右側に少数株主持分として表示され、またNTTの損益計算書の純利益の
直前で、少数株主損益として、調整されます。


新聞等で既にご存知だと思いますが、2006年5月の会社法施行に伴い、
BSの資本の部の表示方法が一部変更され、少数株主持分の表示も変更
されています。

従来は、BSの右側は、負債の部、少数株主持分、資本の部と大きく3つに
分けて表示されていました。

<従来の表示形式によるBSの例>

新しい表示形式では、負債の部と純資産の部と大きく2つに分けて表示
され、少数株主持分は、純資産の部に含まれることになりました。

<新しい表示形式によるBSの例>

少数株主持分が純資産の部に含まれることによって、どの程度影響が
あるのか、実際の数字を使ってみてみましょう。

従来の表示形式で、少数株主持分と資本の部のデータが取得できた
3,896社について調べてみました。

少数株主持分がない会社が約半分の1,804社もあったせいか、平均すると、
少数株主持分は、資本の部の約3%程度しかないことがわかりました。
しかし、最大で少数株主持分が資本の部の1.5倍!になっている会社も
ありました。

情報通信セクターに属するこの会社の実際の数字を見てみましょう。

<従来の表示形式によるBS(2006年3月末の本決算、単位:百万円)>

少数株主持分 51,810百万円が、資本の部の合計34,543百万円の
約1.5倍になっています。

<新しい表示形式によるBS(2006年9月末の中間決算、単位:百万円)>

連結子会社の増資によって、少数株主持分が51,810百万円から
83,922百万円に大きく増加しているので、単純比較はできませんが、
資本の部34,543百万円が、純資産の部118,505百万円と約3倍に
なっています。

よって、バリュエーションを行う際、または、純資産の数字を使って
ROE等の財務指標を計算する際には、注意する必要があります。

資本の部の代わりに、純資産の部を用いると大きく違った計算結果に
なる会社もあります。


金融庁・東京証券取引所は、新しい表示形式において、株主資本と
評価・換算差額等の和を自己資本と呼び、これを使用することを
義務付けました。これは従来の表示形式における、資本の部に対応します。

自己資本
=株主資本+評価・換算差額等
≒(従来の表示形式の)資本の部

過去との連続性を見るためには、この自己資本を使う必要があります。

上記の会社の場合、

自己資本(2006年9月末)
=株主資本+評価・換算差額等
=35,968+(?1,387)=34,581百万円
となり、従来の表示形式の2006年3月末の資本の部34,543百万円と
連続性が保てます。

以上、新しい表示形式における少数株主持分の取り扱いについて
ご理解頂けましたでしょうか?

結論は、「新しい表示形式では、少数株主持分は、純資産の部に含まれるが、
従来の表示形式で、資本の部に対応する数値は、自己資本(=株主資本+評価・換算差額等)を用いて、計算しましょう。」
です。

2006年11月23日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

次回パートナーエッセイは、11月25日(土)に、Ohashi氏が担当します。

実践バリュエーション 第2回 「現金・現金同等物」

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   皆様の参加を心よりお待ちしております。