板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「ベンチャー精神」

ベンチャーを創業するにあたり、大きく分類して二通りのアイデアがあると思います。

一つは、「既存の社会システムの中で、新たな『料金所』を作る」というアイデア。
(↑ 以下、「新規料金所パターン」)

もう一つは、「既存の社会リソースを前提に、新たな価値を作る」というアイデア。
(↑ 以下、「価値創造パターン」)

過去の例で説明すると・・・

たとえば、ソフトバンクは、持てる経営資源を高回転させることによってリスクテイクし、急速な業績拡大に挑むという(僕なりの)ベンチャーの定義に当てはまる企業ですが、その一つの事業であるソフトバンクモバイルは、「顧客にとっての価格優位性」という価値は提供しているものの、従来の携帯キャリアが提供していたサービスと比較しザックリ表現すれば、「特に新しいものは無い」、と思います。
その点で、ソフトバンクの場合、「新規料金所パターン」のベンチャーに分類されます。

たとえば、僕がハイパーネットという企業を通じて試みたネット広告事業は、一見、「価値創造パターン」に分類される感じがしますが、「広告の仕方をマスからワン2ワンに変化させる」という点では、「新規料金所パターン」に分類されます。
(もちろん、「日本発のITビジネス」という料金所以外の挑戦はありましたが)

たとえば、アップル(「コンピュータ」という単語は社名から外されました)社は、創業期から明らかにベンチャーの定義に当てはまる企業ですが、従来から存在している社会システムの中で新たな料金所を作るという新規料金所パターンのアプローチではなく、「それまでに無かったマーケットを自らの手で生み出す」という「価値創造パターン」に分類されると思います。

アップルの創業期では、Apple II によって、「パーソナルコンピュータ」という新たなマーケットを生み出し、その後のMachintosh では、GUI(Graphical User Interface)という新しい機能や、インテリアとしても十分耐えうるスタイリングという付加価値を社会に提案し、最近では、iPod や iPhoneなどを通じて、「新たな生活スタイル」を社会に提案しています。

つまりアップルは、「(機能だけではなく)新しい生活スタイル」に価格を支払う人間を創造したという点において、「価値創造パターン」の事業を展開し続けているのだと思います。

(他にもたくさん分類可能なベンチャーは存在しますが、割愛します。)

「新規料金所パターン」は、比較的リスクが小さく、事業として成り立つ可能性を比較的容易に探ることができますが、「価値創造パターン」は、比較的リスクが大きく、事業として成り立つ可能性を推し測るのは極めて難しいと言えます。

なぜなら、「新規料金所パターン」の場合、マーケットサイズは既存ですし、プレイヤーの優位性も既存ですから、ある程度事業としての可能性を理屈と数字で予測可能なのに対し、「価値創造パターン」は、「現在は存在しないマーケットを新たに生み出す」わけですから、過去のデータをいくらひっくり返したところで、それが事業として成立するかどうかは、「やってみなければわからない」わけですから。

お金「が」目的だ、という場合、「新規料金所パターン」を選択することが合理的だと思います。
お金「も」目的だ、が、そればかりではない、という場合、「価値創造パターン」を選択することを排除すべきではないと思います。

 

僕は今、板倉雄一郎事務所の活動の一環として、二つの事業をスタートさせようとしています。

一つは、「新規料金所パターン > 価値創造パターン」として、現在の事務所活動の延長上の事業。
(↑ こちらはこのサイトを通じて、2008年中にリリースできるのではないかと思います。)

もう一つは、「価値創造パターン > 新規料金所パターン」として、現在の事務所活動とは離れた別の企業体としての事業。
(↑ こちらは事業化できるかどうか未定。)

前者の事業については、説明も簡単ですし、事業化の可能性についても割と容易に推測できます。
しかし、後者の「新たなマーケットを創造する事業」については、そもそも従来のマーケットが現時点では存在しないわけですから、事業化については、最終的に「やってみなければわからない」という結論が実は最も合理的です。

前者の事業は、すでに事業化に向けてプロジェクトが進んでいるのですが、後者の事業については、事業化の前に様々な人の意見を聞く段階です。

否定的な意見の多くは、「マーケットサイズが不明だ」や、「前例が無い」や、「当該ビジネスモデル上の原資が継続的に得られるかどうか疑問だ」や、「事業が成功したとしても参入壁が低い」など、要するに、

「今、そこにマーケットが無い」

という意見の場合が多いです。

しかし、そもそも「自らの事業活動によって新たなマーケットを創造する」という理念の下にスタートさせようとする事業ですから、そんな指摘をいただいても、(指摘いただくこと自体には感謝しますが)、なんの参考にもならないわけです。

人は、「(過去のデータから)検証可能な未来」に縋る傾向があります。

しかしそういった考えは、「ベンチャー精神」とは全く別物です。

「チャレンジすること自体に価値がある(=リスクは高いが絶対に不可能とは言えない事業)」と思える事業であれば、再びチャレンジしてみようと思っています。
そう思える仲間とともに。

ただし、「今度は!」、その事業の性格(←リスクが高い)に合致した経営資源(←生活に経済的に余裕のある人材、イクイティーなどリスクマネー)をベースにした経営を行おうと思います。

不確実性の高まる世界であるからこそ、衰退する日本という未来が現実的になろうとする今だからこそ、「夢」を実現しようとする「ベンチャー精神」が求められるのではないかと思います。

2008年6月16日 板倉雄一郎





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