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ITAKURASTYLE「電子マネーに関する頭の体操」

電子マネーが脚光を浴びています。
Edy(=これ、Euro Doller Yenの略なの知ってましたか?)に、
Suicaに、Pasmoに、QuickPayに・・・・
最近たくさんの「電子マネー」が普及し始めました。

これらのシステムは、
「プリペイド」と「クレジット(またはポストペイ)」に分類することができます。
それぞれの「お金の流れ」について考えて見ましょう。

「プリペイド」システムの場合・・・

消費者が、プリペイドの電子マネーにディポジットする行為は、
消費者の現金と運営事業者の発行する電子マネーを交換する行為です。
一度でも利用したことのある方は、このシステムを利用する上で、消費者が「一切のサービスコストを(直接的には)支払わなくてもいい」ことに気がつきますよね。
いわゆる「(直接的な)手数料」が全くかからない。
ではどうして、消費者はサービスコストを支払わなくてもいいのでしょうか?










す。

これは簡単ですよね。
プリペイド電子マネーの運営者は、消費者に「ポイント」を提供するだけで、現金を集めることができるわけですから、運営事業者は、その現金を、
「消費者が電子マネーと何かの商品を引き換えるまでの間
 (=消費者が電子マネーで何かを買うまでの間)
 (≒運営事業者が消費者の購買に応じて
    現金を商品販売業者に支払うまでの間)」
集めた資金を、「運用することができる」からです。

ファイナンス的に解釈すれば、
運営事業者は「直接的な資本調達コストを負担しなくてもいい」という利点があるということになります。
運営事業者にとって、消費者と販売店に対し、電子マネーによる決済サービスを実現するためのコストが、間接的な資金調達コストになっているということになるわけです。

以上をまとめると・・・
消費者は、電子マネーに現金をディポジットすることによって、
購買における利便性を得ることができるが、
(極めて小さな額ではありますが)現金の運用機会を損失する。
消費者が運用機会を損失する一方で、
運営事業者は、消費者から集めた現金の運用機会を得る。
しかし、間接的な資本調達コストとして電子マネーの運営コストが必要になる」
ということになります。
つまり、
消費者は、「利便性」と引き換えに「運用機会損失」というコストを支払うわけです。
まあ簡単な話、いわゆる「ポイントシステム」と同じって事です。
(巷では、このシステムによって集められたYENが、「YENキャリー投機」の原資であるという話もありますが、この点に関しては、もっと詳しく調べてから、後に独立したエッセーとして書きたいと思います。)

とても賢い「お金の集め方」ですね。
これらから消費者として得られる示唆は、
「面倒だからと、ディポジットを必要以上に積まない事」ですね。
この行為によって、運営事業者にとって賢い方法であるはずのプリペイドシステムは、消費者にとって有利なシステムとなりえます。

「クレジット(またはポストペイ)」の場合・・・

こちらも、消費者が「直接的な」サービスコストを支払う必要がありません。
では、どうして(直接的な)サービスコストを支払わなくていいのでしょうか?










す。

こちらはちょっと難しいかもです。
消費者の購買によって生じる販売店に対する現金の支払いは、一定期間、運営事業者が負担することになります。
なのに消費者がその期間の資本コストを支払わなくてもいいのは、「商品購入価格にクレジット金利が上乗せされているから」です。
知らず知らずの内に、消費者は運営事業者(=主にクレジットカードのサービス事業者もしくはそれらと提携している運営事業者)に対し、それなりの資本コスト(=金利)を支払っていることになるわけです。
要するに、「クレジットカードの仕組み」と同じです。

これらから消費者として得られる示唆は、
「現金で買っても、ポストペイで買っても金額が変わらないのであれば、
 可能な限り利用すべき」ということになります。
(一部、ガソリンスタンドのように、現金割引がある場合を除く)
この行為によって、消費者は、(わずかな金額ではありますが)支払う資本コスト(=商品価格に上乗せされているポストペイ事業者への手数料)に見合った、現金の運用機会を得ることができるわけです。

以上のプリペイド、ポストペイの仕組みにおいて重要なことは、
消費者が「直接的な」コストを支払わなくてもいいという「マジックに気がつくこと」です。

フリーペーパーの場合も、消費者は直接コストを支払う必要が無いが、消費者がフリーペーパーに掲載された商品を購入するときに、その商品価格に含まれた「フリーペーパーへの広告費」を間接的に支払っているわけですし、
TV番組の場合も、
ダイレクトメールの場合も、
「豪華なショールーム」や「豪華な販促パーティー」も、
そのコストは、間接的にではありますが、結局のところ消費者が支払っているわけです。

「だからどうしろ」については、消費者それぞれが考え行動すればよいのですが、その行動の判断において、
「得られる価値(=消費者にとっての便益)が、(直接間接を問わず)そのコストに見合っているか否か」を常に考え、行動することが、賢い消費者ということになるわけです。
つまり、「仕組みに対する理解」が、皆さんの「お財布」を守る術である、ということです。

ちなみに、「プリペイドシステム(=量販店のポイントシステムと本質は同じ)」における、消費者の最大のリスクは、ポイントを発行する事業者の「ポイント引き当て不足」です。
事実、ある量販店は、積み上がったポイントに対する「引当金不足」によって、倒産しかかった例もあります。
もし、プリペイドシステムの運営事業者が、集めた現金の運用に失敗し、多大な損失を蒙った場合、その影響はポイントを買った(=現金をディポジットした)消費者にも及びます。
この点、しっかりリスクとして認識すべきことですね。
まあ、今のところ、そんなリスクが大して大きくなさそうな「割りと真っ当な企業」がプリペイドの運営事業者の場合が多いですが、この先、「真っ当でない運営事業者」が、プリペイドの「うまみ」を知って、参入してくる可能性もありますから、「その現金をどんな事業者が預かるのか」については、十分に考慮する必要があると思います。

「何も失わずに、何かを得ることなどできないのです。」
何かを得るとき、その引き換えに、何を失っているのか、について常に考える癖をつけることが、賢い投資家、賢い消費者への第一歩です。

以上、電子マネーに関する「頭の体操」でした。

とは言え、プリペイドシステムの運営者にとっての「最大のうまみ」は、
「いつまで経っても使われないポイント」です。
ほら、使うあてのない「テレカ(←これって死語?)」を持っていたりしませんか?
それって、テレカの運営事業者NTTにとっては、
「消費者からいただいちゃった金」なのです。

2007年3月30日 板倉雄一郎

PS:
週末から週明けにかけて、「真っ当な株式投資を書いた理由」の連載を続けます。





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