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ITAKURASTYLE「王子、北越TOBを断念」

皆さんご存知のとおり、王子製紙による北越製紙の公開買い付けは、
その目標が達成できないことを理由に王子製紙が(とりあえず)断念しました。
事の成り行きは、たくさん報道されていますから、
皆さんも、よくご存知かと思います。

ライブドアにや楽天など新興企業による買収行為との最も大きな違いは、
「株主にその判断を委ねた企業買収」だったことです。
王子製紙側の、
TOBという買収方法もしかり、
買収後の事業展開の具体的な提示しかり、
また、北越側の、
企業価値、ひいては株主価値の増減を根拠とした、
同社株主に対する説明しかり、
買収の成否、是非、合理性はともかく、
両者が「株主が企業買収の合理性を判断するための情報」を、
積極的に公開したという点において、
新興企業のそれに比べ、透明性が高く、
そして株主の存在が重視された企業買収劇だった、と思います。
(「だった」という過去形の表現をこの段階で使うのには、
 少し抵抗がありますが)

株主を重視した経営・・・
これは突き詰めれば、「株主の判断に委ねる」ということであり、
株主が判断するためには、当該企業からの「情報開示」が欠かせません。
この買収劇を見ている限り、
新興企業による「乱暴な企業買収」に比べ、
「気持ち悪さ」はあまり感じませんでした。

いずれにせよ、今後、企業買収は活発になるでしょう。
そのとき、最終意思決定者である株主が、
しっかりその合理性を見極め、株式の売買という手段によって、
株主の意思を明確に表明することが大切です。
上場企業の経営者の数は、せいぜい数万人ですが、
上場企業の株主の数は、経営者の数の比ではありません。
結局のところ、
株主の企業価値に関するリテラシーの如何によって、
企業価値は左右されます。
今後益々、「投資家教育」の重要性は増すことでしょう。

さて、
企業買収とは「直接の」関係はありませんが、ミクシィが上場します。
調達資金の使途に関して、その多くは「未定」だそうです。
そもそも彼らのビジネスモデルからして、
「資金調達の意味=資本増強による業績加速」は、
あまり期待できないと思っている僕としては、
何でまた、
「使い道の決まっていない資金」=「しばらく寝かせる資金」を、
高い資本コストを支払ってまで集める必要があるの?
と、疑問に思います。
(引き受け証券会社の手数料稼ぎでしょうか?)
資金を寝かせておけば、投下資本利益率は自ずと低下します。
その非効率さを吸収するのは、間違いなく株主です。
しかしその非効率さを実現するのもまた、株主の選択によるものです。

気前のよい投資家(?)のおかげで、
しばらくはIPOバブルが続くのでしょう。

1000億円(公募価格*総発行済株式数)という価格で、
ミクシィの、
「投資家に帰属する将来のキャッシュフロー(および余剰現金)」を、
買うことが妥当かどうか・・・
株式投資とは、こういう視点で考えるべきです。

えっ? 1000億円も持っていないって?
だからこそ株式は、多数に分割されているのです。
たった一株の取引であっても、その本質は、
「あなたによる企業買収」に他なりません。

2006年8月30日 板倉雄一郎





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