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ITAKURASTYLE「事業提案とファイナンス」

昨日、ある事業を、ある大企業にプレゼンしました。
ある事業の「技術と運用ノウハウ」を持つベンチャーのお手伝いです。

僕はこの事業を最初に紹介されたとき、
「うん、いい!
  このベンチャーにとっても、提案先の大企業にとっても、
  提案先大企業の顧客にとっても、十分な価値がある」
そう思い、早速、事業の数値的なシミュレーションを作らせ、
そのシミュレーションにアドバイスを加え、そいて、
「提案先におけるこの事業の現在価値」を算出して、
提案書類に加させ、その上でのプレゼンでした。

結果は「上々」。
100億円前後の事業規模を考えれば、先方のテーブルに乗っただけで、
初回のプレゼン成果としては、大成功といえるでしょう。
(事業規模=提案先企業におけるこの事業の割引現在価値)
(また、僕は、提案先上場企業の株式を保有していませんし、
 この商談が成立する事を確認した段階でのこの企業への投資は、
 インサイダー取引に該当しますので、行いません。)

何かの事業を提案するとき、必ず悩むのは、
「それを一体いくらで(=どれほどの価格で)提供するか」という点です。
多くの事業者は、ここで悩みます。
提案者のかかるコストから、提案価格を算出したり、
提案者の利益や売り上げ目標から、提案価格を算出したり、
で、最後は「えいやぁ!」で、キリのいい数字にしたり、
つまりは、
「提案者の都合」によって、価格がはじき出される傾向があります。

しかし、ファイナンスを駆使すれば、何も悩む必要は無いのです。

ある意味、提案者が自らの商品にどんな価格を付けようが、
それは提案者の勝手です。
しかし、その取引が成立するためには、
被提案者が「支払う価格 < 受け取る事業価値」と思わなければ、
取引は成立しません。
逆に言えば、
被提案者が「支払う価格 < 受け取る事業価値」
と思える範囲の価格であれば、
(ファイナンス的には、被提案者にっとて「NPV > 0」であれば)
被提案者の「企業価値」が増大するわけですから、
「少なくとも」ファイナンス的には、この取引は成立するはずです。

今回の被提案者は、幸い上場企業ですから、
彼らの「資本コスト(=WACC)」は、容易に算出することができました。
その上で、
今回の事業の被提案者にとってのフリーキャッシュフロー(FCF)を、
少なくとも10年分ほど算出し、被提案者の資本コストによって、
この事業の割引現在価値(被提案者にとってのPV)を求めます。
その結果得られた割引現在価値の範囲に提案価格を設定すれば、
「新規事業の被提案者における割引現在価値」 > 「提案価格」
という状態になります。(「NPV > 0」 になります。)
この範囲であれば、被提案者はこの事業を実施することによって、
被提案者の「企業価値」が増大します。
シミュレーションデータに「現実性」があるという確認さえ得られれば、
被提案者は、この提案を実施しない手はありません。

一方、提案者にとっても、以上で算出された提案価格が、
「商品にかかるコスト」 < 「提案価格」
であることを満足できれば、両者の取引は成立することになります。

しつこいようですが、経営とは、
提案者にとっても、被提案者にとっても、
「企業価値の最大化」に他ならないからです。

以上の結果、
「被提案者のこの事業の現在価値」>「提案価格」>「提案者のコスト」
という状態をすっきり設定することができた、というわけです。

「力技の営業」だとか、「足で回る営業」だとか、
はたまた、
「プレゼンシートのできばえで価格を吊り上げる」とか、
そんな事業活動は、イケテナイと思います。
提案者にとっても、被提案者にとっても、
リーズナブル(=合理的)な取引であることが、取引成立の要です。

ファイナンスの知識は、プレゼンや営業活動においても、
十分に効果を発揮するわけです。
そうでなければ、ファイナンスの知識なんて、何の意味もありません。

ファイナンスの知識によって、事業の現在価値を算出できれば、
「買うわけない価格」をひたすら提案することによる時間ロスもなくなるし、
もっと高い価格を提示できるほどの価値があるのに、
みすみす安い価格を提示して、利益機会を逃すこともなくなるわけです。

この先の(おそらく)長ぁ~い交渉においても、
常に両者にとってリーズナブルなアドバイスを続けます。
さて、結果はどうなるか?
こればかりは、話を進めてみなければわかりません。
とても楽しみです。

ちなみに、以上の「価値と価格」の考え方は、
企業買収においても、
株式投資においても、
普段の生活においても、
そして、
当事務所のセミナー受講に関する皆さんの意思決定においても、
それが経済活動である以上、
全く同じロジックで、その是非を判断できるわけです。
経済価値の算出方法は、この世に「たった一つ」しかありません。
その知識を持っているのと、持っていないのとでは、
「その人の現在価値」にえらい違いが生じます。

結局のところ、持てる「知識」が、その人の明暗を分けるのです。

2006年9月22日 板倉雄一郎

PS:
合宿セミナーの価格と、2日間の貴重な時間は、
皆さんの将来に対する皆さん自身の「投資」です。
セミナーで得られる知識によって、
皆さんの将来キャッシュフロー増加分の割引現在価値が、
25万円以下だ、なんてことは、あるわけありません。
もちろん、
セミナー受講において、
皆さんがしっかり集中して価値を持ち帰っていただければ、
という条件が付きますが。

とは書いたものの、合宿セミナー10月開催分は、
締め切り予定日前ですが、すでに満員御礼です。
が、本日の夕方ごろまでで募集を行います。





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