板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「順張りの功罪」

世界中の「利回りを求めお金」が、新興国の株式⇒コモディティー⇒資源国の通貨や株式、そして今後は食糧関連や環境技術関連へと、次々と標的をシフトしながら「イナゴの群れ」のように徘徊しています。

いったん標的にされ、短いブームが去った後は、まるでイナゴの群れが去った後のように、少なくとも価格は、まるで価値がなくなったかのような状況になります。

「イナゴの群れ」に比ゆすると確かに分かりやすいのですが、イナゴの群れの場合、そこに本当に「現物の獲物」が存在する場合にのみ食い散らかすことができるのに対し、「お金」は、仮に現物の価値がなかったとしても、現実の価値が価格が示すほどでは無かったとしても、お金自身が価格を吊り上げ、その後、お金が逃げ出す過程で、逃げ遅れた権利保有者が損失を被ることになります。

これらバブル形成と崩壊の繰り返しの一つの原因は、「順張り投機」にあると思います。

僕の投資スタイルは、これまでもこれからも、

『価値/価格比較型』(=つまり“割安”または“逆張り”)

ですが、モノは試しと、短い期間ではありますが、「順張り投機」を試してみました。

ある産油国を顧客とする事業を行う企業は、僕がザックリ評価したところ、既に大幅な「割高」でした。しかし敢えて「価格推移」を頼りに、短期を前提にした投機をしてみました。もちろん、投機金額は、最低限。あくまで市場にポジションを取りながらの「学習」程度の行為だからです。

その後、一旦は株価が下落し、若干の評価損を抱えましたが、その後再び株価は上昇をはじめ、現在では若干の評価益となっています。

問題は、この先です。

そもそも価値以上の価格を支払って手に入れた権利(であることを認識したうえでの投機)なわけですから、「いつ化けの皮が剥がれるのか」を「価格推移」や「ニュースフロー」をウォッチし続け、トレンドが変化すると予測すれば、直ちに利益確定の注文を出す環境にいなければなりません。

そもそも価値以上の価格を支払って手に入れた権利ですから、評価損が現実損になる可能性は非常に高いわけです。
したがって、これまでの価値に対する投資では感じることができなかった「評価損へのおびえ」も現実になります。

そもそも価値以上の価格を支払って手に入れた権利ですから、自分の大切な資産を極めて高いリスクに晒していることが気になり、それが頭から離れません。したがって他の仕事に集中することができません。

一週間もそんな状況を続けていると、自分の行為の目的(←順張りの経験)、および、そもそも投機資金がわずかであることを忘れている自分に気がつきます。

二週間もそんな状況を続けていると、「なんでこんな博打に大切な時間を奪われなければならないんだぁ?」と自分の行為に疑問が沸いてきます。

で、わずかな利益を手にして、短い期間の順張りをクローズしました。

費やした労力と時間は、得られた経験とわずかな利益に比して大きかったですし、なにより「全く誰のためにもなっていない(=単なるゼロサム)」という後味の悪さが残りました。

確かに利益については、投機額が大きければ大きくなったでしょう。しかし、相場が逆を向いていたら、損失も拡大することになりますから、費やす精神的負担は、投機額が大きくなればなるほど、大きくなったでしょう。

少なくとも僕には向いていない投機手法であることは、(最初からわかっていましたが)、十分認識することができました。

「(短絡的な)順張り」は、確かにエントリーが容易です。
その過程において本質的な価値把握の必要ありませんから、まさに「美人投票」(←本当に美人だと思う人に投票するのではなく、多くの参加者が美人だろうと思うであろう人に投票するという意)です。

僕は、自分が本当に「美人だ」と思わない人に大切な資産を差し出すなんてできないというわけです。

さて、美人投票による投機と、本当に美人だと思う人の人気が一時的に下がったタイミングでの投資と、どちらの方が儲けられるのでしょうか?

僕は、美人投票によってリターンを得ることができる場合もあると思いますが、結果的に高くつくと思います。

2008年7月4日 板倉雄一郎

PS:
「ITAKURASTYLE」は、そのエントリー数が膨大になったため、今回で終了です。
7月7日以降は、エッセイカテゴリを、「ITAKURA's EYE」に変更して、エッセイ執筆を続けます。
特に内容に変化があるわけではありませんが、今後ともよろしくお願いいたします。

PS^2:
先日、あるお食事会の会場として使ったお店が非常に良かったので、お伝えします。

京鼎樓 恵比寿本店(ジンディンロウ エビスホンテン)

このお店、美味しい上に格安です。

特に、この店の売りである「小龍包」は絶品です。
是非お試しください。





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