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経営経験者からみた投資 第17回「株主総会レポート(日本電産)」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さんこんにちは。
板倉雄一郎事務所パートナーの渋谷です。

先週の火曜日(6月24日)に日本電産(6594)の株主総会出席のために、京都まで行ってまいりました。
今回は、いつもの「卒業生のその後」シリーズをお休みして、その株主総会について、レポートしたいと思います。

日本電産(6594)ついては、以前に「会社説明会レポート(日本電産)」でも紹介いたしました。

またその他にも、幾つかこのサイトのエッセイで、関連する話題について書かれていますので、宜しければご参照ください。

【参考エッセイ】
 ⇒IR物語 第34回「休みたければ辞めればよい?」
 ⇒ITAKURASTYLE 「スーパーマン経営者の問題」

 株主総会関連としては、以下のエッセイも参考になります。
 ⇒IR物語 第37回「株主総会の質疑応答を盛り上げる3つのコツ」

株主総会全体としては、またまた永守社長の独壇場という状況で、非常に切れ味鋭いプレゼンテーション及び質疑応答があり、参加していて楽しくなる総会でした。

総会内容がしっかりと充実しているだけでなく、ユーモアのセンスにも溢れ、ある意味エンターテイメントとしての要素も含まれていると感じました。

そのため、丁度その頃話題になっていたエイベックス・グループ・ホールディングス(7860)の株主総会なんかより、個人的には遥かに興味深く楽しいものでした。

ではその内容について、ご紹介していきたいと思います。

以前紹介した「会社説明会レポート(日本電産)」とある程度内容が重複する部分もあるので、今回新たに聞いた話で印象に残った話題について書かせていただきます。

(決算の具体的な数値などは割愛しますが、それらについては会社発表資料をご参照ください)

最初に印象に残った話は、原油などの資源高騰、環境問題を背景として、モーターの重要性は益々高まっているという話です。

以前、自動車の安全性、快適性、環境性能の追及のために、車載モーターの役割が非常に大きくなっていくため、今後自動車分野にフォーカスするという話がありました。

実際、現在の自動車には、約80~160個のモーターが使用されているらしいですが、これらには益々高機能・高性能化、省電力化、小型化が求められているようで、この分野で技術力を発揮することにより、大きなビジネスチャンスを見据えているという話でした。

今回さらに環境問題を背景として、自動車のみならず、鉄道や船舶、そして航空機の分野においても、同様のニーズが出てくるだろうと考えているという話がありました。

具体的なビジネスとしての進捗はどの程度かはわかりませんが、確かに「夢」のある話だなと思いました。

関連して家電製品の高機能化によっても、益々使用されるモーターの数が増えているようで、最近の洗濯機では15~18個のモーターが使用されており、エアコンでも「お掃除ロボット」などで使用数が増加しているという事でした。

ちなみに、ウォシュレットを製造している会社の方に最近教えていただいた話なのですが、ウォシュレットにも最大8個ものモーターが搭載されているそうです。

また、ここでも日本電産のモーターがしっかり使われていて、ウォシュレットのコンパクト化にも貢献しているようです。


質疑応答に入ると、益々永守社長の本領発揮となります。


まず、質問者の手が上がる限り、「最後の質問者」まで打ち切ることなく、質問に答えると公言し、実際にその通り実行していました。

基本的に「何を質問されても、全く問題ない」という自信に満ち溢れたスタンスであり、その自信は「真っ当に」かつ「精一杯」経営をしているという事実に裏打ちされているといつも感じます。

今回僕が印象に残った質疑応答は二つありました。

それは「日本の将来についてどう思うか」と「中国に(工場など)投資しているリスクをどう考えるか」という質問についてでした。

それらについて、永守社長ほどの経営者がどう考えているのか、個人的にも非常に興味のあるところですが、回答は概ね以下のようなものでした。

【日本の将来についてどう思うか?】
日本の将来については、あまり楽観視しておらず、将来を明るいものにするためには、条件がある。日本人は優秀で勤勉で、日本には世界に誇る技術力がある。
しかし、政治が良くない。この部分がネックとなれば、経済にも当然悪影響が出るため、それが改善されなければ、日本の将来は楽観できない。

確かにその通りですよね。
そのためには、国民一人一人が様々な分野のリテラシーをもっと高め、賢明になる必要があると改めて思いました。

【中国への投資リスクをどう考えるか?】
確かに中国には政治、経済他様々なリスクがあり、それは決して小さいものではない。しかしリスクを取るのが経営だ。リスクは中国にだけあるのではなく、米国にも日本にもリスクはある。それらを考慮した上で、できるだけリスクを分散させ、かつ期待リターンを最大化するのが経営者の仕事であり、常にそれらを意識して経営している。

とのことでした。

この回答についても「さすがだな~」と感心しました。


それと少し余談的になりますが、「下らない質問をウダウダとする質問者」への対応も、すごく面白かったです。

まずは、どこにでも出没する、お約束の「ミスター配当君」です(笑)。

すでに永守社長は今回の総会に限らず、「投資すべき資金需要がいくらでもあるため、配当については少し後回しでも我慢して欲しい。うちが多額の配当をするようになれば、それこそ成長が止まった証拠で、寧ろ悲しんで欲しい。」と公言しています。

それでもやはり「ミスター配当君」が出てきて、「配当が少ないから何とかしろ」と延々文句を言いました。

そこで永守社長は、再度、公言している配当政策に関して説明をするのですが、どうも理解できないのか、それともウダウダ言うのが目的なのか、ミスターはなかなか引き下がろうとしません。

そこで最後に永守社長は「そんなに配当が欲しければ、うちより配当利回りの高い会社はなんぼでも有りますわ!」とやんわりと一喝しました。

非常にすっきりとする瞬間でした(笑)。

また何の質問かは忘れましたが、再び何やらウダウダと訳の分からない質問(というより文句)を述べる株主が登場した時の事です。

永守社長が「○○さんは、大して(株数)持ってないのに、えらい文句ばっかり多いですなぁ!」と皮肉混じりの冗談を言いました。
(※株主番号から保有株式数が手元の端末に表示されていた模様です)

これにはその株主も顔を真っ赤にして、引き下がるしかありませんでした(笑)。

そういった調子で、非常に的確に、豪快に受け答えが続き、非常に気持ちのよい株主爽快でした(笑)。

2008年7月3日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!

P.S.
「休みたければ辞めればよい」発言をしたとして、断罪した朝日新聞の記事に対しても、揚げ足を取られて、発言の主旨を曲げられたと釈明されていました。

しかし上記で紹介した「大して持ってないのに・・・」も、朝日新聞にかかれば「保有株式数で差別され、質問を打ち切られた!」などと断罪されるのですかね(笑)?

※(注)なお、今回のエッセイで取り上げた企業について、板倉雄一郎事務所による売買を推奨するものではありません。





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