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経営経験者からみた投資 第14回「経営者・投資家の適性(7)」~経営者と投資家の違い~


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

これまでのエッセイで、自分の「投資」、「経営」両方の経験をもとに、色々と書いてきましたが、今回、「経営者と投資家の違い」についてです。

(ここでいう「経営者」とは、サラリーマン社長や役員ではなく、主に「起業家」や「創業経営者」のことを指しています)

両者は企業の運営や発展、それに価値創造に深く関わるという点で、共通点も非常に多いですよね。

では、違いは一体なんでしょうか。

色々な角度から、様々な違いが考えられるとは思いますが、ここでは僕が両方経験して感じた事をもとに、仕事として選ぶ場合の立場から書いてみます。

僕が最も大きく感じる違いは「リスク」だと思います。

それは一言で言えば、
「一般的に経営者(起業家)はハイリスク・ハイリターン、投資家はリスクの調整が可能である」と言えると思うのです。

皆さんすぐに想像がつくとは思いますが、まず経営者(起業家)の一般的なリスクについて書いてみましょう。

まず上場を目指すようなベンチャーの場合、どこかの時点で少なくとも「億」単位の資金を、DebtであれEquityであれ調達するのが普通です。

もし創業者に預金などの自己資金があれば、全額会社に突っ込むのは当たり前ですし、借入をするなら個人保証をし、自宅などの不動産があれば担保に入れることになります。

それで尚且つ事業というのは、成功する確率がそれほど高くないです。

ベンチャーともなると、さらに成功する確率は相当に低くなるばかりではなく、「運」や「タイミング」などの、経営者の実力以外の要因に大きく左右される要素も相当にあります。

例えばMBAで経営学を学んだとしても、成功が約束される訳ではもちろんないですし、それどころか、成功確率を上げる上で殆ど役に立たないとすら思います。

事業(特にベンチャー)を成功させるために「こうやれば絶対OK」という定石や鉄則などはなく、必ず成功する保証を得て始めることなど不可能であり、かつ失敗する可能性の方が遥かに大きいのです。
(ちなみに僕が考えるに、成功確率を最も高くする唯一の方法は「何度失敗を繰り返しても、その失敗からきちんと学び、成功するまでチャレンジを何度でも繰り返す」ことだと思います。)

そして失敗すれば財産を全て失うぐらいはまだいい方で、借金が返せなければ自己破産に追い込まれたり、さらにひどい場合には一家離散や、命を失うケースだってありえます。
(このあたりの具体例は「社長失格」や、僕の過去のエッセイでもいくつかご参照いただけます)

しかし反面、成功して目論見通りに事業が拡大すれば、相当に大きなリターンを得られる可能性があるのも事実です。

創業した会社を上場させたり、中堅以上の企業に成長させたりすると、自分や家族が一生十分に食っていけるだけの財産ばかりでなく、その何十倍もの財産を築くケースだって珍しくはありません。

上記の話を総合すれば、成功確率が低く失敗すれば悲惨だけれども、成功すれば相当に大きなリターンも見込めるということで「ハイリスク・ハイリターン」という訳です。

主にベンチャー起業の話を中心に書きましたが、家族経営などのもっと小規模の事業(例えばパン屋やコンビニ経営、飲食店経営など)も、程度の差こそあれ事情は同じようなものだと思います。

小規模であっても何かのお店を出そうとすると、通常は数千万円単位の資金が必要になりますし、成功の確率も低いが、上手くいけば大きく儲かる場合もあるという点で、同様だと思います。

次に投資家の場合を考えてみましょう。

リスクの調整が可能と先に書きましたがまさにその通りで、投資する単位を調整することによって、簡単にリスクの調整が可能となります。

さらにここで言う調整には2つの意味合いがあり、一つは自分の資産額や希望リターンなどに応じて、最適な「規模」や「単位」の投資対象を選択することができるという点、もう一つは簡単にレバレッジをかけるための仕組みが整備されているという点です。
(確かに経営においても、借り入れなどによるレバレッジは可能ですが、特別な手続きなくより手軽に使えるという意味です。)

具体的には、手持ちの余裕資金が殆どない人が、数千円~数万円単位の株式銘柄に投資することも可能ですし、一般的なベンチャー起業などより遥かに大きな「何兆円」もの資産を持つ人が、その規模で投資することも可能です。

さらに株式投資の場合信用取引、通貨や商品の場合は証拠金取引により、最大では100倍以上ものレバレッジをかけた投資が可能となります(その場合もはや投機というべきでしょうが)。

そしてそれぞれの投資家が取ったリスクに応じて、リターンがもたらされる可能性があるということであり、ここまでの話が経営者と投資家の「リスク」から見た違いです。

そして僕がもう一つ大きな違いを感じるのが「自由度」です。

これは「経営者は個人としての大部分のリソースを経営に注ぎ込む必要がある」のに対して、「投資家は注ぎ込むリソースを調整できる=自由度が高い」ということです。

まあこれも当然といえば当然ですよね。
たとえ比較的小規模な家族経営であったとしても、その経営者が「今日は疲れているからお店は休みにしよう!」なんてしょっちゅうやってたら、お客の信用も失うし、とたんに店は潰れてしまいますよね。

さらに社員を何人も抱えた企業では(よほど安定して回っている大企業などを別にすれば)、経営者自身が毎日昼夜を問わず、先頭切って働いたり、指示を出したりしないと会社は回っていかないですし、社員も付いてこないですよね。

一般的には規模の大小を問わず、経営者というのは世の中の誰よりも働かなくてはならない職業であり、仕事以外の自由な時間なんてないか、非常に少ない場合が殆どだと思います。

それに対して投資家の方はどうでしょうか。

投資スタイルや投資銘柄数などにもよりますが、比較的自由度が高いというか、かなり調整可能だとは思いませんか。

毎日場中はモニターと睨めっこをしているデイトレードや、何百銘柄にも投資をしていて、日々その保有銘柄の決算発表や、IRニュースに釘付けにならなければいけない、などの例外はあるとしても、バリュー投資家のように「投機」でなく本来の「投資」をしている人ほど、そう多くの時間を費やす必要がないため、自由な時間というのが取りやすいと思います。

しかしこれらに関しては「投資」や「企業経営」の本質が何かを考えれば、当然のことですね。

つまり「投資家」が資金を拠出して「経営者」に預け、それを経営者や従業員が事業に投資したり働いたりして価値創造を行い、その結果もたらされたリターンのうち、他の全てのステークホルダーへの配分後の分け前を、投資家に還元するというのが「企業の仕組み」です。

その仕組みからすれば、投資家のお金は働きますが、投資家自身が働くというシステムにはなっていないからです。

2008年1月29日  T.Shibuya
ご意見・ご感想、お待ちしています!

PS)
当事務所の企業価値評価セミナーでは、「経営者」、「投資家」双方が理解すべき「企業の仕組み」、「ファイナンス」、「資金調達サイドの財務オペレーション」などについて学んでいただけます。

PS2)
このエッセイの内容は一般的な話について書いていますので、一切例外がないという訳ではありません。





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