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経営経験者からみた投資 第4回「投資対象企業をみる~経営者編(4)」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所の渋谷です。今回は、「スーパーエリート」の経歴を持つC社長について、書いてみたいと思います。

C社長は見るからに「切れ者」です。
ですからC社長と話している時や、特にビジネスでのミーティングの席で、少しでも筋が通らない事や、説得力に欠ける事を言ってしまうと、鋭くその点を指摘されてしまいます。
またその指摘の仕方が、冷たく言い放つ感じなので、C社長と話す時には非常に緊張します。

C社長は進学校として非常に有名な中学・高校を経て、国内最高とされる大学を卒業し、その後、米国のこれまた超有名大学院で経営学修士(MBA)を取得しました。そして世界でも有数の戦略系コンサルタント会社を何社か渡り歩いた後、ベンチャービジネスを起業しました。

またコンサルタントの時の年収は、やはり1億円プレーヤーだったそうです。以上のような絵に描いたような経歴と、優秀な頭脳が、C社長の持ち味だといえると思います。

ですからベンチャー起業のやり方も、普通の人には真似できない、「完璧」とも思えるほどのものでした。

C社長の起業当時、米国で、ある画期的と言われるビジネスモデルの会社が大ブレイクしていて、その会社は創業してすぐにNASDAQに上場し、そのビジネスモデルは日本でもあちこちで紹介されていました。また特に起業を目指す人たちの間では、かなり話題になっていました。

C社長はまず米国に飛んで、その話題になっていた会社の創業オーナーに、直接会いに行って交渉し、そのビジネスを「日本で展開する権利」を取得しました。既に米国で成功していたモデルだったので、日本で展開しても「成功は間違いない」と周囲の誰もが考えていたようです。

ですから、ライバルたちは「うわっ、やられた」と思ったでしょうし、C社長は「これでいただき」と思ったかもしれません。

それからC社長は並行して、資金調達をする訳ですが、ここでもその実力を発揮し、有名一部上場企業など数社から、合計50?60億円もの出資を、あっという間に集めてしまいます。これは当時、いくらIT起業ブームだったからといっても、まだ事業の形も何もない会社が、それだけの金額の出資を集めるというのは、例外的に規模の大きいものでした。

またそれらの出資した有力企業は、出資先であるC社長の会社のビジネス成功のために、強力にアライアンスを組み、様々な支援を行うであろうことは、当然想像できますよね。

そしてさらに、C社長は会社の役員・社員として、以前勤めていたコンサルタント会社の後輩たちや、その紹介などを中心に、優秀なエリート人材を約30名集めて揃え、そのベンチャービジネスをスタートしたのです。

そのように、誰が見ても成功間違いないといった雰囲気が漂っていましたし、その会社にはパブリシティの専門家もいましたので、マスコミへの露出も華やかで、日経新聞を中心に、一部上場の有名大企業と間違えるぐらい、ほぼ毎日のようにその会社の動きが報道されていました。

(ちなみに余談ですが、僕が起業したベンチャーでは、C社長の会社が提供するサービスのある部分を、全面的に請負う契約を取り付けていたので、「これでうちも、C社長とともに成功間違いなしだぁ?」なんて、能天気に思っていた訳です(笑)。)

しかし、現実は机上の理論通りには動かないものです。

当初の予想とは違って、C社長はその後かなり苦戦しているようで、思った通りに売り上げは上がらず、経費ばかりがかさみ、なかなか黒字化しない期間が続いたようです。

もちろん、手をこまねいている訳ではなく、経費削減のため、家賃の安い事務所に移ったり、売り上げの規模に応じて、人員を削減したりして、必死に経営努力をしてきているようです。

僕が知っている範囲では、最終的には10余名程度まで人員を削減したようですが、その中で、給料の高いコンサルタント出身のエリート社員がどんどんいなくなり、普通の社員中心になっていく点が、興味深いなと感じました。

くしくも、同じくコンサルタント出身の大前研一氏が、以下のように述べています。
「アカデミック・スマートではなく、ストリート・スマートでなくては駄目だ」
(大前氏は、C社長が同じコンサルタント会社で一緒に仕事をしたことのある、C社長の「先輩」であり、卒業した大学院も同じだそうです。)

これは要するに、ビジネスに限らず世の中はすべて、机上の論理だけで成り立っている訳ではない。常に予期せぬ事態が起こったり、時には危険にさらされることもある。そういった事に対応するために、何事も「現場経験」が必要であり、その現場経験を身に着けた上で、さらに、遭遇したことのない事態にも、果敢に対応できるのが「ストリート・スマート」であり、そうでなくてはビジネスの成功はおぼつかない、という意味です。

そういえば、以前僕のエッセイでご紹介したA社長は、本人曰く、「三流大学中退」だそうですが、C社長は、A社長に色々と相談して、経営改善のアドバイスを受けておられたようです。

また、これまでにこういう出来事もありました。

C社長はコンサルタント出身ですから、会社やビジネスの全体像を大きく絵に描いて、それらをダイナミックに再構築するシナリオを作成するのは、得意中の得意です。
その得意技を活かして、一時、ある資金が豊富な会社に、小規模な上場会社を買収させ、C社長の会社をその上場会社の傘下に収めると同時に、その上場会社の社長の座についたことがありました。

しかし、その資本提携は上手くいかず、今では関係を解消して元の未上場ベンチャーの社長に戻ったようで、これは結局、ビジネスは「パズルではない」ということだと思います。

これまでの話で、たとえ「経営学修士」であっても、またコンサルタントとして一流であっても、それがすなわち経営者の資質を全て満たしているかといえば、そうとは限らないとお分かりいただけたと思います。

しかし、重要なのはこの先ですので、もう少しお付き合い下さい。

「石の上にも3年」とか、「継続は力なり」という諺があります。
僕がベンチャーをやっていた頃のベンチャー仲間の会社で、その頃から4?5年経って、上場する会社が何社か出てきています。

大抵(諺の)3年は過ぎていますが、彼らはビジネスが全くダメだった苦しい時期を耐え、地道な経営努力をこつこつと重ね、それを我慢強く継続することによって、会社を現在の状況まで持ってきたのだと思います。
(注:もちろん上場がゴールだと言っている訳ではありません。)
当時の状況を知っている僕としては、彼らはどれだけ苦労しただろうかが想像できますし、その苦労に伴って、彼らは日々経営者として、成長してきているんだろうなと思います。

C社長も、ある時点からエリートとしてのプライドを捨てて、泥臭く、地道な努力をされているようで、日々経営者としての実践を経験し、大きく成長されていることと思います。

ですから僕は、C社長はいずれ「上場企業経営者」として表舞台に出てくると思いますし、その後も経営者として立派に社会貢献されるであろうと、心から期待し、応援しています。

以前のエッセイで、経営者に必要な資質を持つ人として以下のように書きました。

『「壮絶な苦難の連続」を、「強い意志」を持って、へこたれず、諦めずに、乗り切れる能力を持った人。』

今回も同様の結論になったようですね(笑)。

2007年7月19日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!
経営経験者からみた投資 第1回「投資対象企業をみる?経営者編(1)」
経営経験者からみた投資 第2回「投資対象企業をみる?経営者編(2)
経営経験者からみた投資 第3回「投資対象企業をみる?経営者編(3)

PS)
ちなみにこの話と、直接的に関係するかどうかはわかりませんが、あるアンケートの結果を、参考までにご紹介します。

高額所得者(高額納税者)に「経済的に成功するための要因」として、重要と考えられる項目をいくつか提示し、回答者に「重要と考える」項目を選択してもらうというものです。
※回答者の多くは上場・未上場を問わず、企業経営者ではありますが、医師などのその他の職業の人も相当数混じっています。
それによると、重要とされた項目は、
1位 肉体的・精神的に健康である
2位 自分の職業を愛している
3位 正直な人柄
逆に、重要でないとされた項目は、
1位 一流大学に行く
2位 器用さ、要領のよさ
3位 知能指数が高い・優秀な頭脳をもつ
だそうです。
出展:日本のお金持ち研究 橘木俊詔(著),森剛志(著) 日本経済新聞社 (2005/03) P164より

PS2)
そういえばドリームインキュベータの堀会長もコンサルタント出身ですが、株主総会の時、「コンサルタントをやってといた時代と比較して、経営者になってから、その苦労は何倍にも増えた」と言っておられました。

また、いつかは忘れましたが、「こんなにシンドイものだと最初からわかってたら、やってなかったと思う」とも、言われてたのを記憶しています。

PS3)
当事務所の合宿セミナーは、経営学修士(MBA)取得にかかる費用、時間と比較して、遥かに短時間かつ安価で、効率よく、そして "実践的に" (←ここが重要!)、「経済」、「経営」、「投資」について、学べる場だと思います。

特にその中でも、経営者による「正しい財務オペレーション」を学ぶことは、経営者のみならず、投資家として経営者を判断するのにも非常に有効です。

これまでMBAホルダーの方も、多数受講されていますが、受講後に「MBAで大金と時間をかけて、学んだことは一体何だったんだ?」というご感想もいただいています。
ご興味のある方のご参加を、心よりお待ちしております。

(合宿セミナーの日程)
7月28日?29日:東京(開催の概要・申し込みはこちら)
9月22日?23日:大阪(開催の概要・申し込みはこちら)





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