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買って、買って、買って、買いまくる!タイミングはいつなのか?

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

こんにちは。パートナーの渋谷です。

先日、久しぶりに朝まで生テレビを見ました。
僕にとって、この番組のイメージはこれまで、「やたらと声の大きい人たちが、その声の大きさにまかせて、訳のわからない議論を、延々と朝まで続ける」というものでした。

さらに司会者が、「司会者のくせに中立的な立場を放棄し、自らの考えや主張を声高に述べるとともに、議論を強引にそっちに誘導する」という部分もあり、あまり役に立たないと思っていたので、最近は全く見ていませんでした。

しかし今回は何故か、いつもと違った雰囲気の展開だったように思います。
今回のテーマは、「激論!世界金融危機とニッポン」でした。
そして普段は「?」と思える発言や「聞くに堪えない発言」をする(と個人的には思っている)パネリストも入っているのですが、全体的に皆、割に真っ当で「なるほど」と思える意見が多く、ある程度合意できるような議論の展開になっていました。

これまでこの番組を見ると、いつもイライラさせられ、最後には「やっぱり見なきゃ良かった」と思う事が多いのですが、全体の流れとして今回のように思ったのは初めてのことです。

また、かなり勉強になる部分もありました。

具体的には、1929年のニューヨーク市場大暴落(暗黒の木曜日;Black Thursday)に続く、「世界恐慌」前後の状況がどうであったとか、また、今回の金融危機の具体的中身について触れ、今後どのような要因により、どのような影響が出てくるシナリオがあるのかについての可能性など、自分がまだ知らなかった新たな知識を、得る事ができたりしました。

さすがに素晴らしい経歴をお持ちの方たちだな、と少し見直した部分もあります。

今回はおおむねそんな感じで、見て良かったと思ったのですが、しかしその中でも全く発言に説得力がない人たちもいて、それは与党、特に自民党の議員の人たちでした。

彼らは、小泉・竹中路線での「構造改革」や、グローバルスタンダードの名のもと、安易な「対米追従」による規制緩和とマーケット至上主義を推し進めた張本人です。その米国型スタンダードが崩壊し、グリーンスパン元FRB議長がそれを一部誤りだと認めた事もあり、その「失政」について、番組でも強く非難される立場にありました。
それに対して、非常に苦しい言い訳に終始するばかりでなく、大村秀章氏などは逆切れ状態で、詭弁(きべん)のような意味の無い発言を繰り返しており、この人に関してはいつも通りの“朝生のテイスト”を保っていてくれていました(笑)。

僕は民主党も他の野党も総合的には全く支持していませんが(かといって自民党も全面的に支持している訳でもない)、今回の議論は、それら野党の議員がマトモな事を言っていて、結構意外な感じがしました。

しかしその要因について後から考えてみると、スポーツなどと同じく「プレイヤー」と「評論家」という立場の違いがあるという気もしました。
それはつまり「言う」のは簡単だが、わかっていても「実行する」のは難しいという事でしょう。

この番組を見て結局、今回の金融危機が世界経済に与える影響の大きさと深刻さについて、さらに確信を持つとともに、ここで世界経済のみならず、世界のパワーバランスなどにおいても、何らかのパラダイムシフトが起こる予感も、さらに強くしました。
それらは、元々そう思っていた事ではありますが。


さて前置きが大変長くなりましたが、タイトルのフレーズは僕の言葉ではありません(笑)。

「買って、買って、買って、買って、買いまくる」と言っているのは、さわかみ投信の澤上社長です。

また少し余談になりますが、地元でのご近所付き合いをしている方の中に、銀行や証券といった金融関係の仕事をしている方が多くいます。

彼らと話をすると、ここのところ「投資信託」などのリスク金融商品を買った顧客から、この下げは「大丈夫か?」、「どうなってしまうのか?」といった悲鳴にも似た問い合わせが殺到しているそうです。

現状ただでさえ忙しいのに、クレームを含めたそういう問い合わせへの対応に、忙殺されているそうです。

そんな状況ですからファンド運営者で、かつ澤上社長のように、これまでも相当に強気な発言を繰り返してきた人は、本当に大変で、ストレスで参ってしまっているのではないかと、ひと事ながら心配に思ってしまいます。

しかし、澤上社長を直接知っているある人によると、「いや~、彼は全く気にしてないですよ。それでいちいち参ってしまうようだったら、ファンドなんて運営できませんよ。」との事です。なるほど、確かにそうかもしれません(笑)。

澤上社長がおっしゃるように、現状バリュエーションから見た株価は、これまでの常識からすると相当に割安になっているとも思えますし、そう考えて、いつ買いに出ようかと考えたり、又はいつ買えばいいのかと、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

先日の、吉原パートナーの今、あえてバリュエーションというエッセイにこう書かれていました。
「長期的に見ればこういう時こそバリュエーションの出番なのになぁ・・・と思います。」
とありますが、僕もこの考えに賛成です。

もっと言うと、「こういう時にバリュエーションをしっかりやって、長期的に投資すべき会社をしっかり見極めておかずに、いつバリュエーションやるの?」とさえ思います。

投資すべきタイミングは、「今」なのかもしれないし、「三年後」かもしれないし、ひょっとしたらもっと先かもしれません。
もし仮にそれが「今」だった場合は、「さてこれからじっくりバリュエーションをしてみて、いい会社を探そう」なんて考えていたら、明らかに手遅れになる可能性だってあるのです(仮定の話ですが)。

「底」を見極めて買いたいと考える人は多いかもしれませんが、「底で買う」というのは、神様でもない限りほぼ不可能だと思いますし、バフェット氏でも難しいはずです。

なぜなら、皆がそう考えている状況で、皆が底だと認識すれば、その時点で底では買えない状況になってしまっています。

ここで一つ極端な例ではありますが、僕自身が最近「底値買い」を狙って、見事に失敗したケースを紹介します(長期保有目的というより、ある程度ハイリスク・ハイリターンと割り切った対象銘柄のケースです)。

その対象銘柄は、何日か連続でストップ安を繰り返し、相当に下がってきたため、目をつけてウォッチしていました。そしてある日の引け間際の気配が(これを含め以下全ての数値について正確ではなく記憶による概数です)こんな感じでした。

50,000円 売り 25,000単位
50,000円 買い    700単位
(50,000円は当日のストップ安価格)

この日50,000円で買える状況でしたが、明日もストップ安の45,000円で買えるはずだと思い、買い注文は入れませんでした。


翌日の市場開始前の気配は、やはり予想通り以下のようなものでした。

45,000円 売り 22,000単位
45,000円 買い    700単位
(45,000円は当日のストップ安価格)

これを見ると、今日もストップ安比例配分で、明日も多分ストップ安だろうから、高くても明日のストップ安(41,000円)よりは安く買えそうだと考え、この時は、念のため45,000円での買い注文を入れはしましたが、引け間際に同様の状況なら、注文を取り消そうと考えていました。

そして次に気付いた時、その銘柄は49,100円で寄り付いており、その次の瞬間に「買い気配」に転じたようで、その後しばらく売買成立しないまま、55,000円のストップ高買い気配に張り付いてしまいました。

つまり、昨日の段階では50,000円で売ってくれる人がいくらでもいる状態だったのが、もっと安く買えるとタカをくくっている間に、今日は既に10%も高い55,000円でも買えるかどうかすら分からない状態になってしまった訳です。

この例からすれば、大量の注文を出し入れして相場操縦でもしない限り、普通の人にとって、底で買う(天井で売る)のが、いかに困難な事かおわかりいただけると思います。

まあこれは極端な例としても、中長期的な相場トレンドの変更も、事態が変化するスピードが「速いか遅いか」の違いはあれど、本質的には同様の事がおこるのです。
ですから、投資においての買い時がいつなのかを見極めるのは、非常に困難であるといえます。


では、どうすればいいのでしょうか。


大きく分ければ3つぐらいの方法があると思います。

1つ目は、ある程度のパフォーマンスを犠牲にしてでも、明らかな上昇トレンドを確認してから買うというやり方。

まあそう思って買った途端、それは実は短期トレンドの天井で、その後の含み損に耐え切れず、損失を出してしまうパターンも大いにあるため、そう上手くいくとは限りませんが。

2つ目は、アンテナを高く張り巡らせとにかく状況を敏感に察知して感じ取る方法。
これはバリュエーションをしっかりやって、投資対象企業に狙いをつけておくのは当然ですが、それに加えてマクロ経済状況の把握と判断、為替・金利などの各種経済指標、さらには社会全体のムードなどを敏感に感じ取った上で、それをバリュエーションにも反映しつつ、可能な限り底に近いところで買おうと努力する事。
ただこの方法は、相当な勉強と日々の努力を必要としますね。

そして3つ目は、特に底を狙うのでなく、自分が設定する「期待収益率」に見合うと判断した段階で、欲しい企業を長期保有前提で、自分を信じて買うという方法。

これも、その先にさらに底があった場合、含み損を抱える事になりますから、その時に自分のバリュエーションを信じて、どこまで信念を貫けるかが重要になってきますね。(ちなみにバフェット氏は、「必ずしも底値で買う必要は無い。自分の評価の中で十分に安ければ買い」と表現しています)

あとは、それ以外に資金管理的なテクニックとして、一度に全ての資金を投入するのではなく、最初は一部の資金で買い、少しずつ何度かに分けて買う方法。またその際、さらに下がった時により多くの資金を投入できるよう、計画的しておくという方法を、上記3つと組み合わせていくというやり方もありますね。

いずれにしても、今後の投資活動における「より高いパフォーマンス」を目指そうとする場合、今だからこそバリュエーションをしっかりやっておき、どの企業が投資すべき企業であるかを見極めておいて、いつでも対応できるように準備しておく事が非常に重要だと思います。


ご意見ご感想、お待ちしています!

2008年10月30日  T.Shibuya





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