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経営経験者からみた投資 第15回「経験知から学ぶ」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さんこんにちは、板倉雄一郎事務所の渋谷です。

最近、会社勤めをしていて近々独立起業したがっているある知人から、あるビジネスアイデアについて相談されました。

それに限らず、以前より友人・知人などからよく「面白いビジネスアイデアを考えたんだけど、どう思う?」と相談されることがあります。

僕自身は失敗も何度もしていますし、立派な会社を経営している訳でもないので、そう偉そうなことは言える立場ではありません。

しかしそれでも、相談を受ける多くの内容が、「多分だめだな」とか「思いつきレベルだな」とか、そう判断できるものばかりです。

というより、「それは15年ぐらい前に考えて、更に深く掘り下げて検討したけどだめだった」とか、「以前にやってみたけど、すぐに根本的欠陥が明らかになった」とか、それに近いものだったりします。
(もちろん、お前のやり方が悪かったんだろと言われれば、その可能性がないとは言いません)

それに対して、すごくビジネスセンスのある人というのも存在します。

内輪の話で恐縮ですが、当事務所代表の板倉さんは、それにあたると思います。

あるアイデアや閃きに対して、瞬時にそのビジネスモデルなり構造を理解し、ビジネスとしての成否の可能性や、その本質的根拠などを判断できてしまいます。

最初に書いたような、いわば素人の思いつきレベルのアイデアに対する評価を下すのは、比較的簡単ですが、上場企業などを投資対象としてみた場合の、ビジネスモデル、バリュードライバーの把握、何故その会社は儲かっているのか、今後どの部分に投資したり、力を入れるべきなのか・・・などを見抜くのは、一般の人にとって、そう容易ではありません。

さらに、ウォーレン・バフェット氏の取る行動の本質的意味などは、相当に奥が深く、説明を受けて初めて「はっ!」と気付く場合も多くあります。


これらの違いは、どこから来るのでしょうか。


僕は一言で言えば「積み重ね」だと思います。
もう少し付け加えれば、「思考と経験」の積み重ねだと思うのです。

(当然持って生まれた才能というのも重要な要素としてあると思いますが、スポーツや芸術の世界などと比較して、ビジネスや投資のセンスというのは、積み重ねによって磨ける可能性も大きいという前提で、この続きを書かせていただきます。)

僕の知る限り板倉さんのビジネスは、少年時代に海岸で蛤を取って、海の家で売るというものから始まり、高校時代のバンドのチケット売り、その後ゲーム会社を起業 ~ いくつかの起業を経て、ハイパーネットという本物のベンチャーを立ち上げたという風に、まずそのキャリアからして、普通の人とは違っています。

そしてその間、毎日のようにビジネスの事について深く思考し、試行錯誤し、大小様々な成功と失敗を積み重ねて経験されている訳です。

対して前出の僕の知人などは、これまでずっとサラリーマンで、これから起業したいという段階ですから、全くゼロに近い形からのスタートであり、ビジネスアイデアやビジネスセンスのレベルでは、当然ながら大きく遥かに劣っている訳です。


しかしそれでも本気で起業するのなら、勿論これから一生懸命勉強すればいい訳です。


では皆さんは、どのように勉強すればいいと考えますか。

起業やビジネスに関連する本を沢山読んだり、セミナーを受けたりして、他の人の知識や経験を吸収すれば良いでしょうか。確かにそれも大いに必要だとは思いますが、それだけでは不十分だと思います。

読んだり聞いたりした知識のみで、上手くいくビジネスなどまずないと思いませんか。

僕が必要だと考えるのは、やはり失敗も含む「実践経験」です。
起業してビジネスをするとしたら、これまで勤めていた会社の業界での「経験」を利用するのは、手っ取り早い一つの方法だと思います。

例えば同じ「取引先」、「顧客」、「流通や製造現場」、「マーケティング現場」など、全ての場面が、これまで経験したことのあるものであれば理想的ですが、それは現実的には難しいので、できるだけ多くの場面を事前準備として経験しておき、足りない部分はその後の試行錯誤によって補うべきではないでしょうか。

上記の話についてわかりやすい例を挙げれば、ラーメン屋を始めようと思えば、どこかのラーメン屋で何年か修行を積むべきですし、自動車ディーラー出身者が中古車屋を始めた場合、比較的失敗するケースが少ないという事です。

「経験を積む」ことの重要性を書きましたが、よく考えてみれば当然のことですよね。

例えばどんな職業でもいいのですが、「皆さんの現在の仕事を、全く経験のない素人に、明日から問題なく引き継いでもらうために、その全てのノウハウを1冊の本にまとめて下さい」と言われたら、それは可能でしょうか。

多分可能な方は皆無ですよね。

それなのに「○億円儲かる」という類の本や情報を、それを読んだだけで実際にそうなれるかもしれない、と思って買う人がいたとすれば、本当に単純ですよね(笑)。
(当然ここの読者にはいないと思います。)

僕は一冊の本に盛り込める(純粋な)情報量は限られていると考えています。コンピューターの世界でもテキストのデータ量はたかが知れていますよね。
テキストに対して、画像、そしてさらに動画ともなると、飛躍的にデータ量が大きくなる訳ですが、人間の経験というものは、動画と比較してもさらに膨大な情報量を持っている筈だと考えています。
何故なら、視覚・聴覚だけでなく、五感全てを総動員してその場面を認識しているからです。

ここで、「じゃあ本一冊よりも遥かに情報量の少ないこのエッセイで、どれだけの情報を伝達できるんだ?」といった突っ込みもあるかも知れませんね。

これについて補足すると、確かに書いている僕自身が経験したような事を、全く経験したことがない人がこの文章を読んだとしても、殆ど伝えられるものは無いと思います。

しかし、多少状況は違えど、近いような経験なり思考をした事がある人にとっては、文章がきっかけになり、自分の過去の体験がフラッシュバックされるため、より多くの事柄を伝達できると思うのですが、これはあくまで読む人の「経験」に裏付けされたものだと考えます。

少し話がそれるかもしれませんが、一例を挙げると、生まれてからこれまで地震を一度も経験した事の無い人が、地震の恐怖について書かれた文章を読んだとしても、あまり実感が湧いてこないと思うのです。

しかし僕自身も含めて、阪神大震災を経験した人が同じ文章を読んだ場合に感じる恐怖の生々しさは、全く違ったものになるでしょう。
さらに文章ではなく、実際に震度1程度の軽さであろうと地震を感じれば、格段にそのリアリティが増し、五感すべてでその時の恐怖を思い出すという状況になります。

色々と経験から得られる情報の「質」と「量」の重要性について書いてきましたが、投資活動においても事情は全く同じだと思います。

当事務所の合宿セミナーでは、知識のための知識や、机上の空論を排除し、できるだけ「実践を重視」するようなカリキュラムを組んでいます。
しかし、実践ではなく高々2日間のセミナーである以上、それには当然限界があります。

ですから、セミナーを受けたからといって、翌日から投資活動でバンバン儲かるようになるなんて事はありません。

賢明な方はお分かりだと思いますが、セミナーの位置づけは「実践」をスタートするためのほんの第一歩であり、そこから我々事務所のスタッフや、同じセミナーを受講した仲間たちとともに、試行錯誤を繰り返しながら実践を経験し、歩んで行っていただくために必要な知識を得ていただくためのものです。
もちろん、ともに歩んでいただくために必要なプログラムについては、しっかりと用意いたしております。

それらについて、理解いただいている方に是非ご参加いただきたいと考え、お待ちしております。

(参考エッセイ)
バフェット氏の行動分析と(PS部分)勘について
勘と理屈

2008年2月26日  T.Shibuya
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