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経営経験者からみた投資 第9回「経営者・投資家の適性(3)」~何故起業するのか~


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

本日のエッセイは前回書いた、経営経験者からみた投資 第8回「経営者・投資家の適性(2)」~何故起業するのか~の続きとなります。

前回、よくある起業の理由として以下を挙げ、3つめまでの解説をしました。

 1.よく分からないが、とにかく起業したい。
 2.自己実現のため。
 3.短期間で大金を手にしたいから。
 4.上場企業の経営者という「名誉」が欲しい。
 5.自分の得意分野で、世の中に貢献したい(できそうだ)から。
 6.とにかくその仕事が大好きで仕方ないから。
 7.ある分野で世の中を良くしたい、社会貢献したいという「強い思い」がある。

今回は、4以下についての解説をしてみたいと思います。

まず4に関してですが、これも解説するまでもなく、真っ当な理由ではないですよね。

そもそも企業というのは、経営者や起業家の「名誉」のためのものではありません。
こういった、間違った目的で起業したとしても、多分成功はしないでしょうし、万一何かのはずみで偶然成功したとしても、その経営者本人のみならず、その会社に関係するステークホルダーみんなを不幸にするだけだと思います。

※参考:DeepKISS 第66号「企業価値(図解)」(企業とは何か)

それとこの話に関しては、板倉さんの「このエッセイ(最後の項目<お金の欲>部分の記述)」にヒントがあると思いますので、引用させてもらいます。
----------------------------引用ここから-------------------------------------
「金が欲しい!」と金を直接求めるのではなく、「自分に価値を見出してくれる人が欲しい!」と欲の方向を変えることが結果的にお金につながると思います。

この方法は、一見、「遠回り」に見えるかもしれませんが、実は最短距離なのです。
稼いで増やしたお金を使って求めるのは、フェラーリを買うにせよ、豪邸を買うにせよ、投資家として有名になるにせよ、結局のところ「社会における自分の価値」ではないでしょうか。

だったら最初から、お金を経由せず、社会から自分自身の価値を認めてもらう努力をするべきだと思います。
----------------------------引用ここまで-------------------------------------
つまり、「名誉」というのは(本来自らが求めて得るものなのかどうかは別として、もし本当にその人が求めているものが「名誉」であるとすれば)、何も「起業」や「上場」や「お金」を経由することなく、直接的に、「人から尊敬される行動」を毎日毎日きちんと取っていれば、自然と得られるものではないでしょうか。

さて、いよいよ「真っ当な動機」の領域に入ってきます。

5~7が起業の動機、目的であると心の底から言える場合は、
これまで書いた1~4と比較して、起業家として成功したり、
幸せになる可能性はぐっと高まると思います。

しかしそれで成功が約束される訳ではないですし、いくつか考慮しないとならない点もあります。

まず5の「自分の得意分野で、世の中に貢献したい(できそうだ)から。」に関してです。

これは「得意な分野」と「世の中・社会のニーズ」がうまく合致すれば、成功する可能性が高いですよね。ニーズのボリュームにもよって、そのビジネスの規模に差はあると思いますが、規模を別にすれば、継続的に事業として続く可能性は高いと思います。

しかし、本人は得意分野を活かし、かつ、世の役に立つと考えているモノやサービスでも、実際には世の中が特に必要としていないというケースも多々あるので、注意が必要です。

典型的な例として、技術偏重型の経営者が、絶大なる自信を持って世に送り出したモノが、世に受け入れられず、さっぱり売れないという話はよく聞きますよね。
マーケティングの拙さが原因のケースもありますが、まず考えるべきは、その商品なりサービスがマスターベーションになっていないかだと思います。

次に6の「とにかくその仕事が大好きで仕方ないから。」に関してです。

これも5と同様、その好きなことが世の中のニーズを満たすことであれば、ビジネスとして上手くいく可能性はありますが、逆に世の中に必要とされていないことであれば、そうもいかないですね。

ただ、大好きなことを仕事として追い求められるという点では、少なくとも本人は幸せでしょうし、継続できる可能性は高くなるでしょうね。

このパターンで大成功した例として、僕がまず思い浮かべるのは、本田宗一郎氏です。

彼は三度の飯より「機械」や「技術」がとにかく大好きで、それを寝食忘れて徹底的に追い求め、追求していった結果、大成功した例だと思います。

もちろん、それが世の中が強く必要としていたものであったし、宗一郎氏も「世の人が喜ぶいいモノを作りたい」という、強烈な使命感があったからというのも、当然ながら成功の要因だと思います。

他にこの例としては、芸術家や音楽家などにも沢山例がありますよね。

では最後に、7の「ある分野で世の中を良くしたい、社会貢献したいという「強い思い」がある。」はどうでしょうか。

これは本気でそう考えていれば、起業するための立派な動機、目的となりますし、この考え方がしっかりしていれば「理念」と呼べるかもしれませんね。

しかし起業の動機が、表面上これであっても、落とし穴もあるのです。
というのも、起業する人は大抵このような動機を挙げて、立派な理念を掲げます。
しかし、それに対して一体どこまで「本気」であるかが問われるのです。

何を隠そう、僕がベンチャーを起業したときに、今から考えれば無意識のうちに、その落とし穴にはまっていたのです。

僕が起業した時は、自分が属していたある業界の古き悪しき体質・流通構造を破壊して、業界として儲けるのではなく、もっと一般顧客の皆さんに利益を還元しようというテーマを持ち、「流通革命」を標榜して、ベンチャーを始めたつもりでした。

確かにその心意気は嘘ではなかったと思いますが、その思いがどれだけ強烈であるか、どんな苦労を乗り越えてでもやり遂げる気があるのかによって、その成否は変わってくるのです。

その時は意識していませんでしたが、今から考えれば自分の思いの中に、実は既存の流通構造の中で成功している人たちへの嫉妬があったりしたのも事実ですし、その思いへの強さが足りなかったのも明らかです。

つまり自分の動機は真っ当だと思っていたのですが、それでもまだまだ足りないものがあったという事です。

また逆に、そういう真っ当な動機が「本物」であれば、副次的なものとして「お金も儲けたい」というのが含まれていても、それは否定されるものではないと思います。

色々と起業の動機として必要なことを書いてきましたが、起業して会社を経営するというのは、苦労も多く、リスクも大きく、簡単なものではないです。

だからこそその動機、目的、(すなわちしっかりとした理念)が非常に大切であり、それが自信をもって「本物」であると言えるかどうか、起業を志す人は今一度考えてみる必要があると思います。

しかしその上で、どうしてもやりたいと決断するのであれば、全力でチャレンジすれば良いと思いますし、もし仮に失敗したとしても、そこから得られ「生の教訓」は、何者にも替えがたい貴重な経験となるはずです。

2007年10月25日  T.Shibuya
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