板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By T.Shibuya  > 経営経験者からみた投資 第12回「経営者・投資家の適性(5)」~経営者の苦労(2)~

経営経験者からみた投資 第12回「経営者・投資家の適性(5)」~経営者の苦労(2)~


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

前回に引き続き、今回も経営者の苦労について書いていきたいと思います。
前回様々な苦労のうち、自分自身が実際に経験したのは、主に「資金繰り」と「人間関係」に大別できるとして、「資金繰り」について、身近な他の経営者の例も含めて書きました。

今回と次回は「人間関係」について、少し長くなるので2回に分けて書こうと思います。

僕が人間関係で最も大きな失敗と失望を感じたのが、共同経営者です。

僕がやっていたベンチャー企業は、後に副社長となった人間が元々設立した会社で、当初僕はその会社に、創業取締役兼出資者(兼共同経営者的な存在)として参加しました。

それから後に、別の大株主などの意向を受けて、僕が代表取締役を引き継ぐことになり、最初に設立した者は副社長となりました。

我々は、創業当時はお互いに能力を認め合い、人間的にも信頼し合っていました。
副社長は非常に勉強家で勤勉で、バイタリティにも溢れていて、起きている時間の殆どを仕事に費やす人間でしたし、人を説得する話術や交渉力も優れていて、ものすごい「営業力」というか「突破力」を持った人間でした。

反面彼は時間にルーズな面がありましたが、その短所を差し引いても、上記長所の方が遥かに勝っているように思えました。

設立当初の会社の運営が上手く回っていた(と思っていた)時期には、彼との間には問題も軋轢もなく、お互いに知恵を出し合ったり、刺激しあえる存在でしたし、ホンダやソニーの例を挙げて、「成功する会社は、共同経営者のコンビがうまく機能したケースが多い」などと、夢を語ったりしていました。

その後会社は順調に資金調達をし、役員・社員も徐々に増えてきます。

副社長は完全な営業型人間でしたし、僕もどちらかえいえば営業畑の人間なので、最初に管理系の優秀な人が必要だということで、過去にある会社の取締役としての上場実務経験を持った女性に「経理部長」として、そしてこれまた上場実務経験者で会計士の人に「総務部長」として入ってもらいました。(今だったら、事業が立ち上がってない段階でそうはしないと思いますが(笑))

それから暫くすると、その管理系の人たちによる副社長の評価が、僕の考える評価とかなり違っている点に気付きます。

管理系の二人はあまり積極的に、彼と直接話そうとせず、仕事上の用事があっても全て僕を経由して話そうとするので、何か変だと感じていました。
そのうちに経理部長の方が、副社長のことを「あの人はダメだ」とはっきり僕に言ってきました。

何がダメかというと、「時間」だけではなく「金」にも相当にルーズだというのです。

当時金の管理は彼女がしていましたから、当然金の事は僕よりもよく見えていた訳です。

彼女が言うには、副社長はコスト意識がなく、交通費や宿泊費などの金遣いが荒すぎるだけでなく、「重要な取引先の社長を接待した」としながらも、その形跡がないような不透明な領収書を持ちこんだりもしていたのです。

そして更にそれだけでなく極めつけは、自分が乗る営業車の調達時に、業者とつるんでキックバックまでさせていることも彼女が発見したのです。

そして経理部長は、あの人をクビにしない限り、この会社は(当時目標としていた)上場など、当然達成できないし、それなら自分の仕事もないので、自分が辞めると言い出したのです。

創業間もないその頃から、早速「人間関係」での苦労のスタートです(笑)。

経理部長は僕から見ても、少し神経質で細かすぎる部分は確かにありましたが、さすがに「キックバック」は看過できません。

共同経営者である副社長を信頼していただけに、かなりショックではありましたが、まだまだ会社には必要な人間だと考えていましたから、そう簡単に切る訳にもいきません。

僕としては、経理部長の方も(実は政治的な意味もあって)必要不可欠な人間と考えていましたから、なんとかその場を丸く治めるしかないと考えたので、それぞれと1対1で飲みながら、じっくりと今後について率直に話し合いました。

副社長には今回だけは目をつぶるから、二度としないようにと約束してもらい、経理部長には、その結果も踏まえて、今後ともなんとか上手くやってくれるように説得しました。

そして、一旦はその場は丸く収まったように見えました。

実は今から考えれば、既にそのスタート時点で泥舟だった訳ですが、当時会社は「初速の勢いで飛び出したばかりのボール」のような状況だったので、泥舟だとは全く思いもよりませんでした。

次に副社長の以前からの知り合いで、優秀な営業力と実績を持つという「営業部長」を採用することになるのですが、この人物についての苦労は後半の次回で書こうと思います。

そしてその後もこの副社長とは、なんだかんだと社内で揉め事や軋轢がありましたが、なんとか苦労しながらも、うまくやろうと努力していました。

しかしある時「こいつと組んだのは失敗だった」と、決定的に思える事がありました。

いよいよこのままでは会社の先行きがヤバイなという状況になった頃です。

株主でもあり、指導を仰いでいた、ある上場企業の先輩経営者を交えて、役員など幹部全員でミーティングをしたことがありました。

そこでその先輩経営者は、株主の立場の意見として、役員全員に対して「お前ら、役員ならば会社の経営に責任を取れ」と迫りました。

そして具体的には、経営がきちんと軌道に乗るまで、全員無給とまではいわないが、生活がぎりぎりできる程度の最低限の報酬に抑えた上、それぞれの全財産を追加出資して退路を断ち、命懸けで経営を立て直せという要求でした。

僕はその時点で既に全財産を出資しており、筆頭株主でしたが、さらに自分自身の役員報酬を全くのゼロにして難局を乗り切ろうと考え、その決意をその場で皆に示しました。

さあ次は副社長の決意を聞く番ですが、当然僕と同じように、決意を示してくれるものだと信じていました。

ところが驚いたことに、彼は会社を「辞める」と言い出したのです。
そしてなんだかんだと、最もらしい理由をいくつも言って繕ってはいましたが、株主から出された厳しい要求に対して逃げ出したのは、誰からみても明らかでした。

共同創業者であり、他の役員、社員を僕とともに巻き込んだ責任ある立場の人間が、誰よりも真っ先に責任を放棄して逃げ出したのには、驚きとともに、呆れてしまいましたし、その場にいた人たちだけでなく、後に話を聞いたその他の関係者たちも同じ思いだったようです。

結局僕自身に「人を見る目」がなかったのが、根本的な原因だったと思います。

その他にも人間関係では色々と苦労するのですが、人を見て採用したり、組んだりする上で、いつもその人のいい部分しか見えず、裏側の短所や腹黒い部分を見落とす傾向にあり、随分と世間知らずだったと思います。

その後の副社長は、別の何社かの会社で「他人の金を使って一攫千金を狙う」そして「ヤバくなったらさっさと逃げる」というパターンを定番の得意技として、それを何度か繰り返しているそうです(笑)。
※僕の評価ではなく、第三者が僕に解説してくれた彼への評価です。

さらに、実は僕と組む前にいた会社でも同様のパターンだったのだそうです。

共同経営者については、上手くいっている間はいいのですが、一歩間違うと悪い方向に作用したり、関係がこじれて物別れになったりする話もよく聞きますので、気をつけた方がいいと思います。

それと、自分一人で責任や重圧を背負いたくないとか、どちらかまたは双方が相手に対して、内心では頼ろうとしている気持ちがある場合は、特に注意が必要だと思います。
2007年12月6日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!
経営経験者からみた投資 第11回「経営者・投資家の適性(4)」~経営者の苦労(1)~

PS)
次回も「人間関係」による苦労の続きです。

PS2)
またまた「社長失格」の話になりますが、人にまつわる苦労話や、裏切りなどの話も随所出てきますので、読んでない人は是非お読み下さい!。

PS3)
起業家を目指す方にも、当事務所の合宿セミナーは最適です。
僕も起業する前にこのセミナーを受けられていたら、どれだれ苦労が少なかったかと思います。





エッセイカテゴリ

By T.Shibuyaインデックス