板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By T.Shibuya  > 経営経験者からみた投資 第2回「投資対象企業をみる~経営者編(2)」

経営経験者からみた投資 第2回「投資対象企業をみる~経営者編(2)」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。前回に引き続き、
経営経験者からみた投資 第2回 「投資対象企業をみる?経営者編(2)」
をお届けしたいと思います。

前回予告しました通り、今回は僕が直接知ってる経営者についての具体的な例を挙げて、解説してみたいと思います。

今回書かせていただく方は、「ある業界分野」において、日本初の上場企業となった会社の創業経営者の方です(この後はA社長と表現します)。

A社長は、世間的に見れば「ボンボン」と言われるバックグランドをお持ちで、祖父が某政令指定都市の市長、お父さんが、某東証一部上場企業の社長(別の会社です)をされていた方で、いわるゆ地元の名士の出身であり、一族で土地などの資産も多く持っておられます。

印象的には「ぶっきらぼう」で、とっつきにくく、口が悪いというか、正直というか・・・
ある時、その会社の監査を担当する会計士さんに対して、「あんた、ホントに頭悪いねぇ!」とストレートに言ってました。その会計士さんは、普段そんな事を言われる経験は多分ないでしょうから、非常に驚いたような様子でした。

しかし、実は人間的には非常に暖かく、面倒見が良く、懐の深い方です。
これは、多分僕が感じるに「持っている人」の余裕というか、才能も、資産も、多くの面において、普通の人より満たされているがゆえに、金にガツガツせず、「持たざる人」を支援し、分け与える度量を持っておられるのだと思います。

例えば、僕がベンチャーをやっていた頃、日々発生する様々な問題に振り回され、どうしても行き詰ってしまう事が多々ありました。

そのような時、「悪いなぁ」とは思いつつも、A社長に電話すると、「面倒くせぇな?」と言いながらも、必ず相談に応じてくれて、先輩としてのアドバイスを、真剣にしていただきました。

そういう時は、決まって夜中でした。
なぜなら多忙な方なので、夜中しか時間が取れず、寝る時間を割いて対応してくれていたという事です。

そうやって相談に来る者には、会社の一社員の「会社を辞めたい」というような相談も多くありましたが、そのような相談にも、時間を割いて応じておられたようです。
(現在では従業員数が2000人を超えていますので、無理かもしれませんが、当時はまだだいぶ少なかったから、可能だったのかもしれません)
それは経営者の時間の使い方としては、少し疑問の余地はありますが、人間的に見れば、「この人になら付いて行きたい」と思わせるのに、十分だと思います。

次に、このA社長に関する衝撃的なエピソードを紹介します。
ある時期、会社の経営が思わしくなく、かなり傾いた時期があったそうです。その時に、親戚中の「土地・屋敷」を、持ち主の断りなく、勝手に書類を作成して担保に入れ、銀行から大金を借り入れたそうです。
(これ自体、非合理的な行為である点を否定しません)

そして、いよいよ相当に危機的状況に陥った際、自分に多額の生命保険を掛けて、最悪の場合はその保険金によって、借金を返そうと考えたそうです。(もちろん本人から聞いた話ではなく、秘書からこっそり教えてもらった話です)

その後、それこそ「必死の努力」によって、保険金を使うことは回避できたようですが、この話を聞いた時に、「僕には絶対無理だ」と悟りました。
上記は特殊な例かもしれませんし、そこまでやる必要があるかどうかは別として、「経営者」としての責任を果たすには、相当な覚悟が必要だという事です。

そのように、人間としても経営者としても魅力的なA社長ですが、欠点がない訳ではありません。(ファイナンスオペレーションについてセミナーで学んだ、「今」だからこそ言えるのですが・・・)

A社長は、叩き上げの創業社長ですから、ビジネススクールを出た訳でも、財務オペレーションを学んだ経験がある訳でもありません。

ですから、財務オペレーション的に見た場合、全て正しいオペレーションをしている訳ではないですし、明らかに企業価値を破壊するようなオペレーションをしてしまっている「過去」もあります。

ここらへんについては、凄く難しいところで、立場的に僕から提言できる状況も、その機会もないですから、何ともしがたいのですが、もし何かの機会があれば、「やんわりと」かつ「自信を持って」提言するつもりではいます。
ただそうすると、
「現場やってないお前に、頭でっかちの理論言われたくないよ!」と返されそうな気もしますが(笑)。でも逆に「勘が鋭く」、「素直」な方なので、
「わかった、続きをもっと聞かせろ!」となるかも知れません。

それで結論として、そういう経営者の経営する会社は、投資対象になるのでしょうか?
結論からすると、一般的にはNOだと思います。
これはセミナーで板倉さんもいつも言っていますが、投資対象として経営者を見る場合、有価証券報告書などで、「経営者としてのオペレーション」が正しいかどうかを見るのであって、「経営者のプライベート」などがどうであれ、通常はそれを垣間見ることができないからです。

しかしもし皆様の身近で、経営者の「人となり」を深く知る機会があり、その魅力が、欠点を補って余りあると考える場合、「応援する対象」として投資するのは、個人的にはあってもよいのではないかと考えています。

A社長に対しては、以前相当お世話になったというバイアスもかかっているかもしれませんが、僕自身はA社長の会社に「損得抜き」、「純粋な応援」として、投資しています。

またある日気付けば、「財務オペレーション」をマスターしている可能性だってあると考えています。

第3回目は、元外資系投資銀行勤務で、「スーパートレーダー」だったという経歴を持つB社長について、書いてみたいと思います。

2007年6月21日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!

「パートナーエッセイ 経営経験者からみた投資 第1回 「投資対象企業をみる?経営者編(1)」

PS)
ちなみにA社長は、現役レーサーとしてあるカテゴリーの国内レースに、毎年参戦しています。そのクルマと体制はというと、資金力と豊富なボランティア・メカニックにモノを言わせて、ほぼ「ワークス体制」です。
ここでも人間的魅力と、経営者としてのリスク管理で判断が分かれますね(笑)

PS2)
そういえば、1995年7月の日経ビジネスに、トヨタの奥田元会長(当時は副社長)の談話が出ていました。要約するとこんな話です。
「愛車のアリストで高速道路を走る時、必ず右側の追越車線で『アクセル全開』が基本。遅い車が前にいると、パッシングの連続で押しのける。スピードは麻薬。自社のテストコースでは時速200Km以上で走ることがよくある。普通の道路上の走行は苦痛で、トロトロ走る役員車に乗っているとイライラするため、思わず運転手を怒鳴ってしまうこともある。」そうです。
奥田元会長がコレですから、A社長も全然OKですね(笑)

PS3)
またまたそういえば、「社長失格」の中にも、似たような描写があった気がするのですが、気のせいですかね?(笑)





エッセイカテゴリ

By T.Shibuyaインデックス