板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By T.Shibuya  > 経営経験者からみた投資 第7回「経営者・投資家の適性(1)」

経営経験者からみた投資 第7回「経営者・投資家の適性(1)」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

前回の僕のエッセイのPS部分で、
> 「(どういう人が経営者向きで、どういう人がそうでないかは、また別の
> 機会に書きたいと思います。)」
と書きましたので、今回はその話を書こうと思います。

特に経営者や起業家には非常に高度な適性・能力が要求されると思うのですが、今回は初回ということで、かなり基本的な部分から書いていきたいと思います。

本題に入る前に少し余談なのですが、僕が住んでいる近辺には、レストランやブティックなどが結構沢山あります。
どの店の内装・外装とも、結構綺麗にしていて、思わず入りたくなるような店ばかりです。

しかし、お店の数自体が多いからかもしれませんが、入れ替わりが非常に激しいように感じます。
先日あちらで新しいお店がオープンしたかと思えば、今度はこちらでオープンといった具合で、次々に新しい店が誕生します。
これは裏を返せば、消えていく店も新しくオープンする店の数と同じぐらい、多いということです。

学生時代にもこの地域によく遊びに来ていました。
その当時はあまり気付かなかったのですが、幾つかの「商売」や「経営」などを経験した最近では色々と気付くことがあります。

例えば、オープンしたての店に行ってみて、「この店は半年ぐらいしか持たないだろうな」とか、「この店は長く続きそうだな」とか、そういうことが勘(というより実際は頭の中で無意識のうちに、収支の計算を行っている感覚)で大体わかるのです。

そういったお店に限らず、色々な中小企業を見たり、「こういう会社を経営しています」という人の話を聞いたりした際に、「経営が苦しそうだな」とか、「経営者が必死で働いてるのに、儲かってなさそうだな」と感じることが、多々あります。(というより、上手く経営できていると感じる方が稀です。)

これは上場企業の財務データを見て、経営状況を判断するのとはまた少し違ったものです。

ここから本題に入りたいと思います。

経営者として成功するための、絶対に必要な適性の一つに「金銭感覚」というのがあると思います。

ここで言う「金銭感覚」というのは、「ファイナンシャル・リテラシー」というレベルのものではなく、もっともっと、より基本的なものです。

例えば、次のような人がいたとしましょう。
・給料日前は大抵お金が苦しい。
・収入の割には、貯金が少ないほうだ。または全くない。
・家計は配偶者など、自分以外が握っている。
このような人は、経営者・投資家には全く向かないと思いますので、まず、「おりおば」をお読みすることをお奨めします。

次に、このように考える人はどうでしょうか。
・事業を行う上で、少なくとも人並みの事務所は必須である。
・信用されるために、できれば個人事業より会社組織の方がいい。
・借入などの資金調達を考えると、資本金は可能な限り大きい方がいい。
例外的なケースはあるにしても、上記のように考える人は、あまり経営センスがあるとは思えません。

なぜなら、まず「形(=器)」にこだわっているからです。
確かに一般的に「事業」とか「会社経営」というと、オフィスビルにきちんとした事務所があり、「○○株式会社」という名称で、「代表取締役」の名刺を持ち、人から聞かれても胸を張って答えられる「資本金」や「従業員数」の会社である・・・というイメージが先行しますよね。

しかし、それらは「事業」を行う上での本質ではありません。
「事務所」や「法人組織」、「資本金」や「従業員」、つまり会社の器があるだけでは、そのままでは何ら、「売上」も「利益」も生み出しません。
大切なのは器ではなく、事業の「中身」なのは言うまでもありません。
まずどんな「商品」や「サービス」を世に送り出し、どのように社会(顧客)に価値を提供するかが最初にありきで、そのためにどうしても必要な器を、次に用意するというのが、正しい順番だと思います。

その証拠に大成功した企業に、シリコンバレーの「ガレージベンチャー」や、日本の製造業で「質素な町工場」からスタートした例が沢山ありますよね。
本来は「必要でない」かもしれないものに、「コスト(特に固定費)」をかけてしまう感覚は、経営者には、向いてないといえると思います。

では次のようなケースはどうでしょうか。

ある程度経営で成功して経験を積んだ人間が、さらに規模を大きく「上場」を目指す場合に、その経営者が以下のように考えた場合。
・管理体制を整備するための管理部長、IR担当のCFOが必要だ。
・上場を目指すのだから、監査法人を入れての監査が必要だ。
・主幹事証券も決めて、資本政策を策定する必要もある。
これも皆さんもうお分かりですよね。
もちろんその会社のステージにもよりますが、事業の内容が伴わないうちに、上記のようなことを考えるのは、まさに「器」を整えるだけの話であり、そのために大きな「コスト」がかかってしまいます。

何を隠そうこの僕自身が、上記の失敗をしてしまったのです。
それまでの「商売」や小規模な「会社経営」については、まあある程度順調でしたし、自分なりに「金銭感覚(=コスト意識)」はあったと思っていました。
しかし、ある本を読んだきっかけで、それが狂ってしまったのです。
その本はジャフココンサルティングが出していた「実戦 株式公開」という本で、株式公開を目指す経営者向けに書かれた本でした。

その本では、「営業至上主義」の経営者や「技術偏重型」の経営者、つまり「コストのかかる管理」に対して無頓着な経営者の実例が幾つも紹介されていました。
それらの経営者の会社は、折角ある程度の規模まで順調に業績を伸ばしても、管理の不備が原因で公開に非常に苦労したり、時間がかかったり、また最悪は公開できなかったりという内容でした。

だからといって、別に本のせいにするつもりはなく、実際に「事業の中身」と「器」の順番を逆に用意しようとした自分の未熟さに原因があったのは当然だと考えています。

また今から考えると、それ以前に明確な根拠もなく「上場企業」にしたいという考え方自体が「器」優先の発想であり、「その目的」であるとか「本当に必要か」などに考えが及んでいなかった点が、そもそもの間違いだった訳です。

今回の話はこのサイトの読者の方には、あまりにも「基本的」な内容でもの足りなかったかもしれません。

しかし、「ファイナンシャル・リテラシー」などの高度なことを頭で理解していて、普段語っている人でも、実はもっと基本的な「金銭感覚」が、実生活において抜け落ちている場合も無きにしも非ずなのです。
「経営者」や「投資家」を志す方であれば、今一度「金銭感覚」について検証してみるのもよいかもしれません。

2007年9月27日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!
経営経験者からみた投資 第6回「失敗から得られるもの





エッセイカテゴリ

By T.Shibuyaインデックス