板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By T.Shibuya  > 経営経験者からみた投資 第3回「投資対象企業をみる~経営者編(3)」

経営経験者からみた投資 第3回「投資対象企業をみる~経営者編(3)」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

今回は元外資系投資銀行勤務で、「スーパートレーダー」だったという経歴を持つB社長について、書いてみたいと思います。

今回のお話も、公開されている情報だけを見て、「経営者のオペレーション」を知るという一般的な投資の話からは、一見外れてしまっているように思われるかもしれません。

しかし皆様が、特に新興企業などに投資する際の、その「裏側」についてご紹介することにより、皆様に何らかの示唆をご提供できるのではないかと考えています。また特にベンチャーの立ち上げや、起業などを目指しておられる方には、今後起こりうる可能性がある状況として、ご参考になれば幸いかと考えています。

B社長は、(本人談によると)元外資系有名投資銀行の敏腕トレーダーで、トレーダー時代の年収は1億円だったそうです。当時の担当分野はリスクアービトラージといって、確かノーベル経済学賞受賞者を擁したヘッジファンド、「LTCM」の手法と同様だったと記憶しています。

(余談ですがLTCMは史上まれにみる巨額損失によって破綻したので、誤解されているのですが、そのトレード手法は本来は割合にリスクの低い手法でした。しかし彼らのリスク分析の上で、「ほとんど起こりえないこと」が、起こってしまい、その時に、「レバレッジをかけすぎていた」ことが、破綻の原因になってしまったようです。)

僕が元々B社長を知ったきっかけは、僕がやっていたベンチャー企業の資金調達先を探していた時でした。ベンチャーに限らずですが、一般的に会社の資金調達において、出資や融資が決まるまでには、ある程度の時間を要すのが普通です。そのため、1社に断られてから次に声をかけるというのでは、時間がかかりすぎ、特に資金の逼迫してしいるベンチャーにとっては死活問題という事情がありました。

ですから僕の会社も、当時「本命」で出資して欲しいところ以外にも、何社か声をかけていて、その中の1社が、当時B社長が興して間もなかった投資会社だったのです。
結局僕の会社は、本命の某ベンチャーキャピタルから、出資してもらえることになり、それはそれで良かったのですが、B社長のところにも声をかけていた手前、一方的に断る訳にもいきません。
(両方から出資してもらえば、お金がたくさん集まっていいじゃないかと思われる方も居られるかもしれませんが、そう単純なものではありません。ある程度のシェアを持った株主が複数いれば、迅速な意思決定に支障をきたす上、創業者である自分のシェアが下がることによる弊害も色々あります。またそもそも、会社が必要以上の資金を投資家から集めることは、真っ当でないばかりか、デメリットも色々と多いのです。)

それで、なんとかB社長の顔もつぶさないように、B社長を僕にを紹介してくれた方も含めて、3者で相談した結果、僕の会社と、B社長の会社で、お互い「小ロット」の資金を、持ち合いのように出資し合い、リスクヘッジしようじゃないかという話になりました。

これの意味するところは、僕とB社長はお互いに上場を目指していた訳ですが、客観的に見れば、双方ともその確率は高いものではありません。つまり、もしどちらかが上手くいけば、どちらかが失敗しても悪くないという話で、非常にリスクの高い投資対象を、お互いに分散投資するという意味合いのものでした。

B社長の印象はといえば、「金ピカ」という言葉がぴったりで、本人も金にまみれているような印象を、売りにしている雰囲気がありました。
高級そうなスーツを着て、なんとかヒルズに住み、元格闘家をボディガード兼運転手として雇っていました。

圧巻はそのオフィスで、某有名ビルの最上階に、無駄だらけの広いスペースを確保し、「これでもか!」というぐらいの、高級な内装で飾っていました。それは、金持ち投資銀行の代名詞的な存在である、GS社のオフィスよりもさらに高級感漂うものでした。

当然僕は、B社長に対して、胡散臭いなぁという印象は持ちましたが、当時今から考えれば世間知らずで、愚か者だった僕は、特に相手の事業計画や実態なども調べもせず、その話に乗りました。

しかしB社長の方も、こちらの事業計画も、財務状況も何も聞いてくることなくOKしたのは、「投資会社の割には安易だなぁ」と、少し驚きでした。

ひょっとして先方にとっては、はした金だったので、どうでも良かったのかも知れません。

その後、僕の会社は失敗し、B社長には出資してもらった資金を全額返金しました。(約半年ぐらいの運用機会は奪うことにはなりましたが。)

そしてB社長の会社はというと、暫くして、まず業績の悪化した某上場企業を買収して、結果的にその器を利用して、その会社の社長となりました。これは当時から「裏口上場」として、経済雑誌など批判されていました。

B社長は裏口上場当初、当時流行していた「企業再生」のプロという触れ込みで、デビューしたようです(笑)。その後のB社長の動きはというと、財務オペレーションどころか、我々から見ると、デタラメの限りをつくしたというものでした。

株式の10分割を手始めに、MSCB発行による資金調達と、その資金での「経営する気のない」、または「経営する能力を持たない」と思える会社の買収、村上ファンドの真似事および村上銘柄の便乗保有と売り抜け。

とにかく、自社の「株価を上げる」という事だけが、目的としか思えないオペレーションの連続でした。それによって、どれだけ多くの無知な投機家が、悲惨な目にあったのでしょうか。

その間の、B社長の経営取組みに対する発言も、全く一貫性なくころころ変化しており、まるで根無し草のようです。

最初は、「企業再生」をやると言い、次はできもしない「企業経営」をやると言ってました。さすがに、最近はそのどちらも自分にはできないと悟ったらしく、「やっぱり自分にできるのは投資だ」ということで、会社名に「投資」という単語を入れ、「ウォーレン・バフェット」の経営スタイルを目指しているそうです(笑)

こうなってくると、笑うしかないというか、バフェットに失礼どころの話ではないですよね。バフェットとこれだけ対照的な人間も他にあまりいないと思うのですが。

僕はこのような人間の経営する会社の株式から、一刻も早く手を引きたいと思っていましたが、僕が持っているのは未公開の親会社株なので、市場で売ることもできず、なかなかそのチャンスがありませんでした。しかし最近、やっとそのチャンスが訪れました。

会社側から、「自社株買い」をするので、応じる株主は申し込むようにと案内が来たのです。

しかしそれには自社株買いをする株数と価格に関して書かれているのみで、その算定根拠も、財務諸表も何もついていません。普通は、その株価が妥当であるか、判断すべき何らかの材料が欲しいですよね。

その時たまたま、上場している方の会社(僕が株を持っている会社の子会社、正確には持ち分法適用会社)のIRで、その親会社の連結財務諸表の修正情報が出ており、偶然それを見ることができました。

しかしそのIRは積極的なものでなく、適時開示情報として義務付けられたものを、仕方なく載せているだけで、5日間限定という方針のもとでの掲載でした。ですから、それを見つけたのは偶然のようなものです。

しかもそれは修正情報だったので、1年前の情報だったため、現在の数値はどうなっているか想像がつきません。
(ちなみにその1年前時点での連結BPS(一株あたり純資産)は、自社株買い価格の4?5倍あったので、この自社株買いは、応じる株主にとっては相当不利な条件ではあるが、現金化希望のうるさい株主を排除する意図があり、少しは資本コストを下げる気になったのかと、一瞬いい風に考えました。)

そこで仕方なく僕は、せめて最近の連結BPS(一株あたり純資産)ぐらいは知りたいと思い、「自社株買いの案内」に書かれていた連絡先に電話をして、質問しました。

電話口に出た女性は、「そういう細かい話(?)になると、社長の○○(オーナーのB社長でなく親会社の方の雇われ社長)しか答えられないので、後からその社長から電話する」とのことでした。
待ってもなかなか電話が来ないので、再度こちらからかけると、「その話はオーナーのB社長しかわからないので、B社長に直接電話をかけて聞いてくれ」とのことでした。

上場企業のIRではないにしても、その程度の質問をオーナーに直接聞かないとわからないなんて、どんな会社に投資してたんだろうと愕然としました。それで、久しぶりにB社長に電話することになったのです。

B社長のデタラメなオペレーションを見る限り、少なくともバフェットについて「彼より少しは理解しているであろう」、と自分としては思っているので、もし万一B社長と腹を割って話ができたら、ダメもとでも何か少しは助言なりをしてもいいかな、という気持ちはありました。

しかし、そんな気持ちは一発で吹っ飛んでしまい、電話の最初から「だみだこりゃ」と思えるようなものでした。
B社長は、最初から喧嘩ごしで、僕が会社に質問したことを非難してきました。
その内容は以下のような驚くべきものです。
●うちは少人数で忙しいので、そんな細かい質問に答える「人」もいないし、
「時間」もない。
●そんな細かいことをガタガタ質問してくる奴は、うちの株主に一人たりとも
いない。
●金に困ってるなら貸してやるよ。
また、上に書いた自社株買いの目的については、資本コスト云々の話ではなく、こう強弁したのです。
●自社株買いは、設立当初から出資してもらっている「恩人株主」の現金化要望
に応えるためだ。
恩人株主に報いる自社株買いなのに、(1年前の数字とはいえ)経営者側が認識している最低限の価値の、1/4 ? 1/5 でしか買い取らないらしいです(笑)。
もうこうなっては、全く埒があかないので、こんな会社や人間とは、一刻も早く縁を切りたいばかりで、「損得」とかそういった次元の話ではないですよね。
そこで、「自社株買い」に応じる旨を伝えて、電話を切りました。

話がかなり長くなりましたが、僕がこの経験から得られた教訓は以下です。
○どんな状況や経緯があっても、わからないものに対して資金を投じてはいけない。それは株式への投資のみならず、消費としてのお金を使うときもそうです。なぜなら、自分の損得もありますが、それ以上に重要なのは、「社会悪」に対して資金を投じてしまう危険性があるからです。
○当事務所では常に、経営者のオペレーションが真っ当かどうかを、有価証券報告書などの公開情報から得られると主張していますが、このケースでは、社長個人の裏側を見ても、その結果は同じだったという事です。つまり個人的に知っていて裏側を見なくても、十分に情報は得られるという事です。

第4回目は、「スーパーエリート」の経歴を持つC社長について、書いてみたいと思います。

2007年7月5日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!





エッセイカテゴリ

By T.Shibuyaインデックス