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経営経験者からみた投資 第1回「投資対象企業をみる~経営者編(1)」


(来週からパートナーエッセイは、火・木の週二回更新となります。)

板倉雄一郎事務所、新米パートナーの渋谷です。

最近パートナーになったばかりなので、今回が初めてのエッセイとなりますが、宜しくお願いします。

最初ですので、ごく簡単に自己紹介をさせていただきます。

日本IBM、家業の自動車販売を経て独立し、小規模ですがIT関係の会社を経営しております。並行して上場を目指したネットベンチャーの立上げと、その事業縮小という「失敗」も経験し、その後投資家として投資を生業とするとともに、さらに大きな金額を運用する投資家を目指して活動中です。

また、当事務所主催の「企業価値評価セミナー」の第6期卒業生であり、その後最近になって、パートナーにお誘いいただきました。
(パートナーの多くは卒業生なので、皆さん次第でそういう道もあります。)
さて、自己紹介はこのぐらいにして、本題にまいります。

最初に皆様に質問です。(いきなりですみません)
皆さんは「経営者」というものに、どのような印象をお持ちですか?









す。
大抵の方はこう思うのではないでしょうか。

 ・ お金が儲かる
 ・ やりがいのある立派な仕事ができる
 ・ 会社内で権力がある
 ・ 上司がいなくて羨ましい
 ・ 自由に仕事ができる etc…
確かにそういう部分が全くない訳ではありませんが、世の中の「片面」だけを見てはいけません。世の中は全て両面から成り立っています。

例えば「権利と義務」、「自由と責任」のようにです。
「起業家」や「経営者」を目指す方に、その「華やかでいい面」しか見ていない人が、結構多くいます。(実は僕もそうでした;笑)

しかし、余程の並外れた「能力」、「責任感」、「使命感」、「サービス精神」などがない限り、特に僕のような凡人にとっては、実は「苦しみ」、「重圧」、「重責」などのほうが、華やかに見える部分より、遥かに大きいのです。

これは、言葉にすると「ああナルホド」と思うかも知れませんが、実際に経験してみると、考えてたイメージとは大違いで、本当に「ずっしりと腹にこたえる」苦労の連続なのです。

僕がやっていたベンチャーが順調で(少なくともその時はそう思えた)、ベンチャーキャピタルからの資金を調達する直前に、当時から、たまに相談に乗ってもらっていた、当事務所代表の板倉さんにこう言われました。

「本当にやるの?覚悟できてんの?大変だよぉ?」と。

その時は、気持ちは「イケイケ」ですから、あまり何も感じませんでしたが、それが後になって、「こういう事だったのか・・・」とつくづく何を意味するのか、身を持ってわかった訳です。

その後苦難の連続が待ち受けている訳ですが、そのさなかに、いつも支援してくれたいたある上場会社の社長にも、こう言われました。

「渋谷君、社長って職業は、多少他人より金は儲かるかも知れないが、その何倍も苦労の方が多いんだよ。それが上場したり、会社が大きくなるほど『輪をかけて』そうなるんだよ。

それと、幾ら苦しくて辞めたくなっても、社員と違って『絶対に自分から辞めれない』んだ。要するに、『割に合わない』仕事なんだよ」と。
「なるほど、そういう事だったのか」とその頃には、腹の底から理解できていました。

そういえば、松下幸之助氏の語録に、「次々起こる苦難を、楽しみとして捉えるぐらいでないと、経営者は続かない」というようなのがあったと思います。(全て正確な表現という訳ではありません)
その話をその上場社長にしたところ、「俺はまだまだそこまでは無理」と言っていました。

このあたりの「経営者の苦労」について、更にご興味のある方は、板倉さんの「社長失格」を、そういう観点から読んでみて下さい。相当にリアルで生々しい仮想体験ができますから(笑)。

「余談が長いな」とか「投資とどう関係すんの」と思われた方、すみません。
要するに投資先を選ぶ場合、その会社の「経営者を見る」ことは、最も重要な判断材料の一つです。

ですから、経営者の華やかな側面だけでなく、上記のような側面を理解した上で、経営者を見て、判断することが必要になってくると思います。
「壮絶な苦難の連続」を、「強い意志」を持って、へこたれず、諦めずに、乗り切れる能力を持った人なのか。

それとも、「ちょっとした苦労」に遭遇しただけで、簡単に投げ出してしまう人なのか。

経営者、特に上場企業の経営者には、「社会の公器」を運営していく上での、「滅私奉公」の精神が要求されます。

単に「金儲け」がしたい、「華やかで楽しそう」といった動機の経営者の会社は、投資対象としては不適格なのです。

「滅私奉公」の精神といえば、本田宗一郎氏の次のエピソードを思い出します。
ある時期、ホンダの「会社としての体力」からみて、物凄く過大で、リスクの高い「製造設備の投資」をするか否かで悩んでいたそうです。その設備とは、当時日本にはない最新鋭のドイツ製ものだったのですが、宗一郎氏の「世界一いい製品を作る」という強い思いの実現には不可欠なものでした。

周囲に相談すると、「そんな危険な投資は止めるべき」だとの意見が大半を占めていたようです。

それでも宗一郎氏が出した結論は、「設備投資をする」というものでした。
その理由として以下のような主旨のことを言ったそうです。
「仮にホンダがその投資に失敗して、会社が潰れたとしてもその設備は日本に残る。そうすれば、その設備は日本のどこかで有効に活用され、日本の自動車産業の発展に大きく寄与することだろう。」(全て正確な表現という訳ではありません)
彼は一部の利害関係者には、迷惑をかけてしまうかも知れないが、それでも投資を実行した方が、日本社会全体とした見た場合プラスになるだろうという判断と、「絶対に成功させる」という不退転の覚悟を決めて、投資を行ったのだと思います。
こういう人が、投資に値する「本物の経営者」なのだと思います。

第2回目は、僕が直接知ってる経営者についての具体的な例を挙げて、解説してみたいと思います。

2007年6月10日  T.Shibuya
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