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企業と法律 第2回「民事裁判と刑事裁判」


みなさん、こんにちは。
板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回は、「民事裁判と刑事裁判」です。

我々の業界は、「法曹界」(放送界ではありません。)と言ったりしますが、他の業界の方とお話をすると、「民事裁判」と「刑事裁判」がごっちゃにされていることがありますので、お話したいと思います。

皆さんは、裁判所に行ったことはありますか。

裁判所に行くと、各階のフロア案内に「第○民事部」や「第○刑事部」とあり、まるでドレッシングの水と油のように分かれています。裁判所で事件を担当する部は、「民事部」と「刑事部」に分かれているのです。「民事部」というのは、「民事裁判」を担当する裁判所の部署であり、「刑事部」というのは、「刑事裁判」を担当する裁判所の部署です。日本の裁判は、基本的には全てどちらかに分類され、「民事裁判」と「刑事裁判」では、それぞれで使用される用語や裁判の進行の仕方も全くといっていいほど、違います。

「民事裁判」も「刑事裁判」も裁判であることに変わりはないので、訴える者と訴えられる者がいて、訴えた者の訴えについて裁判官が裁くという構造は同じですが、争う人や争いの対象となっているものが違います。

「民事裁判」は、基本的に一般人同士の争いです。「お金をくれ」とか、「離婚したい」等が民事裁判で争いの対象となります。

これに対し、「刑事裁判」は、常に検察官が訴える人となります。「懲役○年に処すべき」等(刑罰を与えるべきか、どのような刑罰が妥当か)が刑事裁判で争いになります。

「民事裁判」では、基本的には、当事者双方の揉め事を解決するためのものですので、実にいろんな紛争があります。契約違反や交通事故等による損害賠償請求、離婚請求、出版差止請求・・・言い出すときりがないです。国との揉め事であっても、国を一般人と同じように取り扱って、国を訴える場合もあります(行政事件と呼ばれるものも含まれます。)。

これも民事事件です。人と国の揉め事だからです。民事裁判は揉め事の解決ですので、当事者同士が「これは争わなくていいや」と思えば、裁判所も審査しません。ちなみに、民事裁判では、訴えた者を「原告」、訴えられた者を「被告」と言います。「被告は、原告に対し、金100万円を支払え。」等というのが典型的な民事裁判の判決です。

一方、「刑事裁判」は、揉め事の解決ではありません。罪を犯したものを国家の刑罰権に照らし、どのように処するのがよいかを決める場です。従って、常に検察官が訴える人となり、検察官は国の代理人的存在として、罪を犯したと思われる人を「被告人」として、訴えます。民事裁判は、「原告 対 被告」の争いであるのに対して、刑事裁判は、「検察官 対 被告人」となります。「被告人を懲役3年に処する。」等というのが典型的な刑事裁判の判決です。

余談ですが、テレビ等の報道では刑事事件の被告人を「○○被告」と呼ばれていることが多いですが、これは「放送界」の慣習に過ぎません。「法曹界」からすると「被告人○○」であり、「被告」は民事事件にしか使用しないので、刑事事件の被告人に使うことはありません。

民事裁判は、民事訴訟法に基づき行われる裁判であり、内容も民法や民法的規定を持った法律が中心です。

刑事裁判は、刑事訴訟法に基づき行われる裁判であり、内容も刑法や刑法的規定を持った法律が中心です。

ややこしいのが、会社法や証券取引法は、民法的規定も刑法的規定もある点です。従って、条文によって、その条文を破るとどうなるのかを見極める必要があります。
例えば、取締役は会社に対して、会社法上、善管注意義務や忠実義務を負っていますが、この義務を怠ると、会社に損害賠償をしなければなりません。これは、会社と取締役の揉め事ですので、民事裁判で争われることです。

しかし、取締役が会社のお金を勝手に自分の遊興のために使うのは、刑法の背任や会社法の特別背任という罪になりますので、この罪を罰するために、国がでてくる必要があります。従って、刑事事件となります。

勿論、背任や特別背任という罪を犯す場合は、同時に会社に対する善管注意義務や忠実義務も怠っていることになりますので、会社に対して損害賠償をしなければなりません。従って、このような事件は、刑事裁判と民事裁判の両方で争われることになる可能性があります。

たまに勘違いされますが、巷で話題のインサイダー取引は「犯罪」ですので、この点についての争いは、刑事事件で争われることになります。インサイダー取引をすると、最悪の場合懲役刑が待っているわけです。お金を払ってもすませられる問題ではありませんので、くれぐれもご注意を。


2007年6月9日  M.Mori
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