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企業と法律 第36回「2009年の展望」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

みなさん、あけましておめでとうございます。

板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回のテーマは、「2009年の展望」です。

新年いかがお過ごしでしょうか。

今朝、いつも乗っている電車に乗ると、わき目もふらず、車内で英語の勉強をしている人をみかけました。しかも、一人ではなく、同じ出口のところだけで、何人かいました。

今までも車内でこのように勉強熱心な人を見ないわけではなかったのですが、やはり、新年ということで、「心機一転、今年こそ○○の勉強を継続するぞ!」と思っておられる方も多いのではないかと思います。

ただ、人間、怠惰な面もあるもので、11月くらいになると、「そういえば、今年の正月に目標を立てたよな・・・」と思うことも多いのは事実です。継続は力なりとは、使い古された格言ですが、改めて継続することの重要性を感じます。

昨年の正月に書いた「2008年の展望」では、「コンプライアンス」と「M&A」をあげました。

法律関連での今年の話題は、「企業の継続価値」と「雇用問題」ではないかと思います。

【企業の継続価値と適時開示】

いくつかの記事で、長期的な視野にたった経営への回帰ということが叫ばれています。今年は、短期で過度の利回り追求からの脱却という文脈で、長期的な視野に立った経営と、上場企業における開示制度の整合性等が話題になるのではないかと予想します。

今の開示制度は、四半期開示等、短期的な開示が多くなりつつあります。本来、開示自体は、その時点の業績発表に過ぎませんので、短期的視点も長期的視点もないのですが、開示のサイクルが短くなると、どうしても短い期間の業績のみが評価対象になりがちです。こうした観点から、より優れた形での開示方法や上場制度のあり方が議論されると思われます。

また、開示制度は、引き続き話題となる可能性の高いコンプライアンスとの関係でも問題となります。昨年のアーバンコーポレーションとBNPパリバの件では、適切な開示がなされなかった結果、資金調達額について一般投資家に誤解を与える結果となり、民事再生法申請によって多くの一般投資家が損失を被ったという事案がありました。今後とも、適切な適時開示が求められることは変わりないと思われます。

【雇用問題(労働者派遣)】

それから、正月早々から話題なのが雇用問題、特に「労働者派遣法」です。

労働者派遣法は、正式には、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」と言います。昭和60年にできた法律です。

正社員と派遣の格差が問題だ!というのは、数年前から叫ばれていたことですが、ここにきて、平成16年の法改正(pdf)で、製造業への派遣についても認められたことが問題視されるようになりました。

この平成16年の法改正が問題視されていることの意味は、もともとソフトウェア開発や通訳・翻訳、雑誌編集、デザイナー等の専門職に限定されていた労働者派遣の対象を、製造業という非専門職も多い業態にも認めた結果、単なる切り捨てやすいタイプの労働者を生み出しただけではないかという批判です。

この点については、様々なところで、様々な議論がありますので、ここでは首を突っ込むことはしません。既に厚生労働大臣が製造業への労働者派遣について将来の禁止を示唆しているとの報道もあり、このようになれば労働者派遣を当然の前提としている自動車産業を中心とした製造業の財務状況にインパクトがある可能性があります。

ただ、派遣関連で誤解されがちな点も多いですので、その整理をしておきたいと思います。

(1)そもそも労働者派遣とは、どんな形態なのでしょうか。

まず、派遣労働者は、派遣元と雇用関係を結びます。賃金や年次有給休暇等の重要な労働条件はここで決まります。そして、派遣元(労働者派遣業者)は、派遣先の企業との間で、労働者派遣契約という契約を結びます。この契約では、どんな業務について、どこに何人派遣するかや派遣期間等を決めます。

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派遣先の企業は、派遣労働者に対して指揮・命令することができます。

(2)よく誤解される点として、派遣労働者はいつでも首を切ることができると言われている点です。

これはある一面では真実ですが、必ずしも正確ではありません。実際に、派遣労働者を使用する立場からすると、派遣契約を解除すればよいだけですので、確かに、正社員より首にしやすいと言えるかもしれません。ただ、労働者側からすると、派遣元との間の雇用契約については、労働基準法が適用されますので、派遣元から解雇される場合には、通常の解雇と同様に、争えます。

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通常は、雇用期間≧派遣期間となります。従って、派遣契約が中途で解除されても、派遣元は、雇用期間中、雇用を継続する義務があり、正当な理由がなければ解雇できません。派遣先からの一方的な労働者派遣契約の解除の場合、正当な事由があると解される可能性も十分ありますが、少なくとも解雇予告手当相当分の支払いは請求できるはずです。

現実には、同じ仕事をしている正社員と派遣労働者であれば、派遣労働者が解雇されるケースが多いとは思いますが、労働者側からすれば少なくとも解雇予告手当等の請求はできると思われます。場合によっては、解雇の正当性が争えるケースもあるでしょう。

(3)さらに、派遣先は、派遣可能期間を超える期間、継続して、労働者派遣の役務の提供を受けてはならないというルールがあります。派遣期間≦法律で定められた派遣可能期間(製造業の場合は3年)となります。

従って、企業がある業務をずっと派遣で対応するということは、法律上そもそも想定されておらず、一時的な業務でなければ、その後正社員として採用すること(又は請負にすること)が本来の原則です。もともと派遣は、正社員への橋渡しが期待されているのです。

このルールに関連して、製造業の労働者派遣に関する「2009年問題」と言われている問題があります。これは、2007年3月1日に、製造業について、就業場所ごとの同一の業務に係る派遣の受入可能期間は1年から、最長3年となったため、2007+2で、2009年に多くの製造業で、それまで受け入れていた派遣が受けられなくなるという問題です。

おそらく現実的には、派遣 → 直接雇用(期間限定)→ 派遣等の形で抜け出そうとするケースが増えると思います。

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が終わったので、一時的に、

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とし、しばらくして(少なくとも3ヶ月と言われている)また、

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に戻る方法です。

この方法は、派遣元と派遣先の間で合意したり、予め派遣労働者に説明していたりすると、違法の可能性が極めて高くなります。そうでなくても派遣と直接雇用を繰り返していると労働局から「助言」を受ける可能性があります。実際には、これらのリスクを理解しながらも、派遣と直接雇用を繰り返しで乗り切ろうとするケースはあるでしょう。

(4)最後に、労働者派遣法第4条を紹介したいと思います。労働者派遣法第4条では、何人も、労働者派遣事業を行ってはならない業務について規定されています。

この業務とは、「港湾運送業」「建設業」「警備業」等です。公には、港湾労働法や警備業法により雇用調整が設けられているとか、建設労働者の雇用の改善等に関する法律により雇用改善が図られている等と説明されます。

ただ、日本には古くから、(イリーガルに)人夫供給業を行ってきた組織というものが存在します。これらの業態への労働者派遣を行ってきた組織と言えば、、、あとは、各自でお考えください。初めてこの条文を見たときには、合法化しないことによる参入障壁というのもあるのだなと思った次第です。こういったものが法律で明文化されているのが、いろんな意味で凄いと思います。


今年の正月は、多くの人にとって、「2009年は、何が起こるかわからない」と漠然と思いながらの年越しだったのではないでしょうか。ただ、それは不幸な出来事ばかりではなく、同時に多くのチャンスや変革が訪れることも意味すると思います。私は、そういう意味では、とてもワクワクして、この2009年を迎えています。

今年も宜しくお願いします。


2009年1月8日  M.Mori
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