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企業と法律 第42回「21世紀の世界情勢」

(毎週木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

先日のプレミア懇親会で、私がインタビュアーとして、板倉さんにいろいろ質問を投げかける形で、様々な議論をしました。今回は、そこで話題になった話の一つである、「長安易に長期的にはドル安傾向だ」とは、必ずしも言えない」という話を考えてみたいと思います。

今後の世界の情勢や経済の状況を予測するのが困難であることは、誰しも実感していることだと思います。しかし、その中でも大きな流れとして、確実にいえそうなものを徐々に抽出していくことはできるのだろうと思います。私がこの半年ほど、様々な人の話を聞いていて感じるのは、次の2つではないかと思います。

① 今後の世界情勢の中で、もっとも注視されるべきは、アメリカと中国の2カ国の関係である。

② とはいうものの、アメリカの覇権は、そう簡単に落ちない。

③ とはいうものの、アメリカの覇権(の一部)が中国に移行する過渡期に入っていくだろう。

ということです。


1.アメリカと中国

まず、アメリカは、国内経済や政治基盤に不安を抱えていたとしても、いまのところ、オバマ大統領のもと、「矛盾が噴出して、社会不安が急速に増大する」というところまでは行かずに済んでいるように思います。軍事力も世界一であることは疑うことのできないところです。

さらに、通貨を見ても、ドルの力は、他を圧倒しています。この前、ベトナムを訪問しましたが、ベトナム国内でもドル紙幣は通用しました。市場近くの靴磨きのおじさんでさえ、「1 dollar」といって、売り込みをかけてきました。ベトナムドン(ベトナムの通貨)よりも重宝されていたように思います。

一方、中国を見ると、こちらは別の意味で、国内に社会不安をかかえていますが、政府が少なくともアジア域内に対して、覇権的地位を占めようとしていることは、間違いないと思います。

この話に関連して、ある雑誌で、著名なブロガーがアメリカを指して、「腐っても鯛」と表現をしておられ、これは全くその通りと思いますが、中国も「腐っても鯛」と表現し得る国家ではないかと思います。

約2000年前は、周辺地域に対して、冊封体制(さくほうたいせい)という覇権国家体制を保有していたのですから。ちなみに、2000年前の世界の覇権国家は、ローマ(共和制ローマ、ローマ帝国)と中国(前漢、後漢)でした。ローマ帝国が西洋の歴史を経て、今のアメリカに結実し、中国が東洋の歴史を経て、現在の中華人民共和国として、それぞれ覇権を持とうとしているというのは、一つの歴史の見方かもしれません。

もちろん、中国には、大きな不安もたくさんあります。水不足、食糧問題、環境問題といった喫緊の問題もありますし、格差問題、共産党一党独裁体制に端を発する問題、人権問題等、挙げれば切りがありません。また、一人っ子政策の結果、少子化が進み、2011年から2015年頃に、労働力人口が減少に転じるという統計もあるようです。とはいえ、13億人の人口を抱えた国家が活発化することのエネルギーは凄まじいものがあります。

通貨については、アメリカ→中国という流れの中で、G20で、中国からSDRの提案がなされた点には注意しておく必要があると思います。ドルの基軸通貨性は、アメリカの覇権体制の根幹を成す柱の一つです。この通貨を通じた覇権体制に中国がどのような姿勢であるのかが垣間見えたのではないでしょうか。シンプルに申し上げれば、長期的には、安易に「長期的にはドル安傾向だ」とは必ずしも言えないとはいえないものの、国際政治とリンクした覇権通貨のポジションということも見逃してはならないように思います。


2.日本の立場

こういった前提を踏まえ、日本は、どういう立場になるのだろうかというのが一つの関心事です。

20世紀後半では、日米関係は、世界で最も重要な二国間関係であったことは間違いないでしょう。しかし、21世紀では、米中両国とも、互いのことを最も知りたがり、理解しようとし、どのような関係を築こうとかと模索しているように感じます。既に、国際間において、日本のプレゼンスは、20世紀後半と比べると弱まっているように感じられます。

自信を失いかけている(ように見える)日本ですが、それでも世界第2位の経済大国であり、文化や知的水準は、稀に見る高さを保持しています。国内でもさしあたって暴動が起きる兆しはありませんし、銃の乱射事件もまずありません。しかも、経済において、これまでのノウハウに加え、投下すべき資金も自国内で調達することができます。物も金も人も調達することは、他国に比べれば困難ではないはずです。

キーポイントは、リーダーシップにあるように思います。これは、自らへの希望と自戒を込めているのですが、日本の元気のなさ(そうに見える部分)は、能動的に人を動かし、物を作り、お金を使っていく意思が少ないからであるように思います。自分が素敵だと思うサービス、自分が魅力的だと思う製品をもっと自由につくっていく、そして自分が素晴らしいと思う共同体をつくっていく、その過程の中で、周りを巻き込み、リーダーシップを発揮しようとする心意気や志が、少しばかり足りないからではないでしょうか。板倉さんは、「エロさ」と表現していますが、同じだと思います。

週末の汐留で私が感じた随想でした。
(あくまで、私の個人の意見ですので、悪しからず。)


2009年4月23日  M.Mori
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