板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「エロさの経済価値」

突然ですが、「エロさ」には間違いなく経済価値があります。

こんなご時勢の中、僕や僕の友人(←まあ要するに夜遊び友達)は、そこそこ遊んでいます。
もちろん、その目的は日本経済の復活のためにお金を使う!ということ。(のわけないですが)

そんな輩と夜遊びの中でも、当然ながら経済の話になります。
身近な話題、マクロ経済の話題、アメリカ経済の行方・・・

結構まじめな話もしますが、それは宴の席ですから、話はずっこけて行くわけですが、そのずっこけ話の中に、実は経済の「本質」が隠れているわけです。

先日のお食事会で、満場一致した意見の一つが・・・

「ベントレーだとか、アストンマーチンだとか、たかが車にウン千万円を支払うのは、はっきり言って女を意識しているからだよね。
『俺は(工業製品としての)車が大好きだから買うんだよ』
なぁ~んていう奴は居ないよね(笑)」

全く同感(笑)

その後、この発言の持ち主は、彼の過去の苦い思い出を話し始めました・・・

「20代の頃、車欲しくても金が無くて買えなくてさ。
 それで合コンで会った女の子から、
 『それでどんな車に乗ってるの?』
 なんて聞かれて、
 『Z(←日産のフェアレディーゼット)だよ』
 なぁ~んて嘘ついてたんだよね。
 そんなくだらない嘘をつく自分が嫌でさぁ。」

そんな彼の若い頃の思い出話は続きます・・・

「彼女が居たんだけれど、あるデートの終わりに彼女を駅まで送ってバイバイした後、しばらくして忘れ物を思い出して、駅に戻ったの。
 そしたら、彼女の姿が。
 声をかけようとした時、BMWがやってきたと思ったら、彼女はその車に乗り込んで走り去って行っちゃったんだよね。
 あのときの凹み具合は、最悪だった。
 女は金なんだなと思ったわけよ。
 で、俺はそれからがんばった。」

こうして文章で書くと、うまく表現できないのですが、彼は非常に明るく、いつもニコニコ笑顔のオーバー40です。
彼の思い出話にお食事会の席はとても盛り上がり、そしてとてもしんみりしました。

この彼、その後の絶え間ない努力によって、今では従業員数百名の企業経営者となり、プライベートでは、(あまり詳しくかけないのですが)、ウン千万円の車を複数台所有し、海外のリゾート地にウン億円の別荘まで持つに至りました。
そして、このご時勢でも、しっかり稼いでいますし、その仕事内容は、至って真っ当で、しっかりした経済価値を顧客に提供しながら、しっかり稼いでいます。

似たような「女は金だ!」的経験を持つ男はたくさん居ますが、多くはその経験を元に仕事を成功させたとしても、精神的にどこか卑屈になり、女性の頬を札束で叩くような性格になってしまうケースさえあります。

しかしこの彼は、だからといって、お食事会の席で、彼の仕事や車や服や時計や、要するに『金』を見せびらかすことなどほとんどありません。
「本当の成功」を掴んだ者の言葉、態度、表情などの振る舞いは、モノによる証明を必要としないのでしょう。
そんな自信に満ちた態度が女性を惹き付け、そして、『じゃあ温泉にでも行こうよ』となったときに登場するのが、BMWと同じく「B」から始まるイギリス製の超高級車の新車だったりするわけですから、イチコロです(笑)

僕はここで、「女性は男にカネを求めている」と主張したいのではありません。
ただ金を見せびらかす男、金を取り上げたら他に何にも残らない男、たまたま相場に強くトレーディングであぶく銭を作った男、そんな男は大したもんじゃありませんし、そんな男に対しては女性陣も辟易してしまうでしょう。

ここで紹介した彼は、20年間、まじめにこつこつ努力し、そして今の成功を掴み、成功の「ほんの一部」をプライベートでの遊興のために使っているだけの話です。

そんな「本物」は、やはり魅力的で、そしてエロいわけです。
だからこそ、「エロさ」のために、「エロい車」にウン千万円を支払うわけです。

 

経済的『付加価値』の大部分は、男と女の営み・・・つまり(良い意味での)エロさに担保されていると感じます。

高級車でも、豪華別荘でも、ファッションでも、お食事でも。

ただ生きるために食べるなら、100円マックでもいいでしょう。
けれど、一回の食事でウン万円、ウン十万円を支払う「付加価値」は、やはりエロさの価値ではないでしょうか。
(だって、男同士で、夜景の綺麗なフレンチレストラン行って、ウン万円使うわけないじゃないですか(笑))

ただ移動するためならタクシーで十分でしょう。
所有したとしても、プリウスで十分です。
けれど、同じ車なのに、ウン千万円支払う「付加価値」は、やはりエロさへの投資ではないでしょうか。

経済の「絶対額」の大部分は、生きるために必要な消費によって回っています。
けれど、
企業の「利益」の大部分は、ただ生きるだけなら「全く必要のない付加価値」から生まれています。

たとえば、トヨタ自動車の例で言えば、ヴィッツやカローラを10台売るより、レクサス1台売った方が利益になるわけです。
だたただ快適な移動を求めるだけなら、マークXやクラウンで十分ですし、いまや200万円のトヨタ車でも、十分快適にドライブできます。
レクサスなんて、「エロさ」を除いたら、全く何の意味もない(←かなり誇張していますが)と思います。
(残念ながら、レクサスには、まだまだエロさが足りませんけれどね。)

 

このところ、収益を伸ばしている企業の一つに「(米)アップル」があります。
過去最高益です。

ただ音楽を聴くだけの携帯プレーヤーなら、アップル製より安くて品質の良いモノはたっくさんあります。
ただのケータイなら、アップルより機能豊富で使いやすく安いモノがたっくさんあります。
なのに人はアップルに「付加価値料」を支払います。
それは、(広い意味での)エロさに他ならない価値を見出すからではないでしょうか。

一方、ソニーは、赤字です。
薄型液晶テレビの「機能」を訴えるようになったソニーは、そのブランド価値を大きく毀損してしまったのではないでしょうか。
家電量販店で、薄型液晶テレビを見比べてみたときに「だけ」、映像の美しさが認識できる程度です。その程度の「機能の差」では、自宅に設置した後には、大した付加価値にはなりえません。
サムスンで十分なわけです。
間違っても、ソニーブランドのテレビがあったからといって、女の子を口説く道具にはなりえません(笑)
その程度の付加価値に顧客はお金を支払わないわけです。

 

世の中、(特別な貧困国を除けば)、「モノ」や、「機能」が溢れています。
機能を謡ったところで、それが利益に結びつくほどの付加価値にはならないわけです。

やはり、「エロさ」が無ければ、薄利多売に勤しむしかなく、しかし、モノや機能に溢れる世の中では、薄利多売から利益を得ることは、どんどん難しくなっていくでしょう。

 

日本の「技術」には確かに価値があります。
その技術は、エロさと無関係に、グリーン化などに間違いなく生かされるでしょう。
けれど、世界一の技術立国は、そこに「エロさ」が無いがゆえに、薄利で働き詰めです。
世界一の純資産保有国ではありますが、そこに至る過程は、勤労と節約です。
なんだかそれじゃ、「人生を楽しむ」という本質的な目的を見失っていると思えてなりません。

車の話に戻りますが、トヨタの車は、「工業製品として」世界一の品質であり、且つ同等の品質の他メーカーの車に比べ安いです。
だから、「工業製品として」、明らかに世界一、「価値 >> 価格」の車を製造して販売しています。

けれど、まるでエロくない。

それが、(発表前ですが)Lexus LF-Aであったとしても、エロくない。

LF-Aの「機能」は、めちゃくちゃすばらしいです。
カーボンモノコックボディー、V10(だったかな)の高出力エンジンなどなど・・・こんな「機能」を、もしフェラーリが作ったら、その価格は恐らくLF-Aの3倍はするでしょう。
3倍の価格でも、そのエロさに対して、その価格を支払うクレージーな人間は世界中にたっくさん居ます。
けれど、Lexusでは、そんな価格はつけられません。
いや、価格を高くするのは結構ですが、そんな価格のLexusはきっと売れないでしょう。
だって、エロさが足りないですからね。

日産GTRは、新たにブレンボ製CCB(カーボン・セラミック・ブレーキ)を搭載し、なんと1500万円オーバーです。
1500万円という価格帯では、マセラッティや、メルセデスAMGが買えちゃいます。
GTRは、確かに速い。
恐らく、フツーの車オタク程度のドライバーが運転したら、GTRより速く走れる車はこの世に存在しないでしょう。
すばらしい「技術」と「機能」です。恐らく世界一です。
けど、GTRに「エロさ」ってありますかね?(笑)
こちらの場合も、もし、同等の「機能」や「性能」をポルシェが作ったら、GTRの3倍以上の価格で販売することができるでしょう。
事実、GTRに匹敵する走行性能を持つPorsche Carrera GTは、6000万円以上で売られています。
Carrera GTがエロいとは、あんまり思いませんが、それでも、Porscheというブランドには、それだけでエロさがあります。

 

日本企業が、ヨーロッパのような「エロさの付加価値」を演出できるとは思いません。
だって、商品を作っている人間が、まるでエロくない人間ばかりですから。
けれど、アップルのようなエロさなら、ソニーにだってできるはずだと思います。
勤勉さ、技術力、コストダウン、機能としての高品質・・・それはそれで間違いなく価値があります。
けれど、「何か」が足りないのではないでしょうか。
その何かを一言に集約すれば、それこそ「エロさ」なのだと思います。

2009年1月26日 板倉雄一郎





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