板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「為替介入の効果」

本日(2010年9月15日)日銀は財務省の依頼を受け1兆5000億円程の円売外貨買介入を行いました。その結果、18時の時点で、ドル/円は85円台まで円安が進行しました。

為替介入を否定する訳ではありませんが、為替介入とは「短期的な通貨の需給バランスを変化させることにより当該国の都合の良い方向へ為替を誘導する」ということであって、本質的な(≒市場原理に基づく)為替相場の形成を中長期に渡って変化させるわけではありません。 

(ただし、売り出した「円」が市場に出回ることによって、為替市場に置ける需給バランスだけではない本質的円安圧力もありますが、300兆円とも言われる世界の為替市場規模から考えて、その効果は微々たるものですし、そもそも為替介入の原資調達の時点で「円」を集めるわけですからツーペーチャラだと考えます。この件については長くなるのでまたの機会に。)

実際に日銀が円売外貨買を実施している間、そのオーダーと、それに乗ろうとする投機家のオーダーによる需給バランスによって円安に振れます。 

今回のようなある程度のサプライズを伴う為替介入は、日本政府の意思を市場に伝える効果がある程度持続するとしても、中長期的には「円」の供給量を増やさない限り効果は薄いでしょう。 

通貨供給量を増やすことが円安圧力になるということを、企業の株式に比喩すれば、ちょうど株式分割(=資金流入を伴わない発行済株式数の増加)に相当します。 株主価値に変化がないところで株式分割を行えば、一株辺りの価値が下落し、価値下落に追従するように一株辺りの価格、つまり株価も下落するわけです。 
(株価 ≒ 一株辺り株主価値 = 株主価値/(発行済株式数ー金庫株数)) 

つまり、企業の株式の場合で言えば、大量の売り(または買い)注文を出した結果、短期的な受給バランスによる一時的な株価変動はあるにせよ、株主価値に変化がない限り、株価は元に戻ってしまうわけです。あくまで一般論ですけれど。 

これを為替に置き換えれば、諸外国の経済と日本の経済の相対的な見通しに変化がない限り、一時的な需給バランスの変化は、一時的な為替変動の範囲に収まるということになります。 

もし中長期的な円安を望むのであれば(←主体によって望む場合もあるし望まない場合もある)、「円」の供給量を増やす(←株式分割)か、諸外国または日本の経済見通しに大きな変化(←株主価値の変化)を期待するしかありません。

以上はざっくりとした為替のメカニズムと「政府がやること」についての記述ですが、個人や民間企業が行うべきことは、円高を嘆くのではなく、円安を利用することなのだろうと思います。 
これについての参考エッセイは、ITAKURA‘s EYE 「円高株安」です。 

2010年9月15日 板倉雄一郎

PS:
予定外のエッセイでした。
明日、「社長失格」の電子書籍化に関するアナウンス行います。




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