板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「経常黒字があってこその内需拡大」

「日本の経済モデルは輸出依存。したがって為替や輸出先国の経済状態に振り回され、まるで輸出によって成長する新興国の経済モデルのようだ。だから内需を拡大しなければならない。」

こんな意見を良く見聞きします。

この意見、一見するともっともらしいのですが、果たして本当にそれでよいのでしょうか。というより、そんな日本の経済モデルが、そもそも内需が拡大することによって解決するのでしょうか。

確かに、「個別企業」の視点で見れば、内需であろうが外需であろうが、商品が売れれば、その個別企業は儲かります。

輸出依存のトヨタ自動車だって、国内での販売が好調であれば、それに越したことはありません。

内需が基本の飲食店業だって、国内で生活する人の来店が増えれば、それに越したことはありません。

けれども、自動車の製造に必要な「鉄鋼原料」は、どこから調達するのでしょうか。

自動車を走らせるために必要な「ガソリン」は、どこから調達するのでしょうか。

飲食店が料理する「食材」は、どこから調達するのでしょうか。

日本の経済モデルは、人が生きて生活するために必要な最低限の「食糧」「(原油など)エネルギー」「(鉄鉱石など)資源」の大部分を海外から調達しなければならない構造です。

内需が拡大すればするほど、これら「資源」の国内での消費が進みます。

つまり、内需が拡大すればするほど、海外から「買ってこなければならない」わけです。これは、どれほど経済オンチでもわかることです。

海外から資源を買うためには、その対価としてなんらかの通貨を支払う必要があります。もし、資源国が、「支払は日本円でもいいよ」ということなら話は簡単です。

貿易収支を無視して、支払に必要な日本銀行券を、ドンドン刷ってしまえば良いわけですから。

もちろんその場合、日本円のダイリューション(希薄化)によって、円相場の下落圧力になりますが、一方で、内需が拡大するということは、日本国内でのビジネスチャンスが増えるわけですから、日本にモノを売って日本円を得た海外勢から日本への「日本円での投資」が行われ、モノを海外から調達する上で流出した日本円が日本に戻ってきます。

つまり貿易収支の赤字分を資本収支で賄う経済モデルを実現できれば、「しばらくは」継続可能です。

もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、これ、アメリカ型経済モデルです。
貿易収支が赤字続き=米ドルの海外への流出が続いていても、アメリカにモノを売ることによって米ドルを得た(アメリカから見た)海外が、米国債や米国企業への投資をすることによって(=米国の資本収入)、米ドルがアメリカに戻ってくるわけです。

アメリカがこの経済モデルを「少なくともこれまで」実現できたのは、彼らが発行する「米ドル」が、「すくなくともこれまで」世界の基軸通貨であったこと、そして、アメリカへの人口流入を根拠にしたアメリカの「持続的成長の期待」があったからです。

米ドルが基軸通貨であれば、アメリカにモノを売った海外は、「支払は米ドルにしてください」となるでしょうし、アメリカが持続的成長をすると期待すれば、アメリカへの投資にも結びつくからです。
結果、うまぁ~く、米ドルが還流し、貿易赤字ながら一応の継続性を維持できたというわけです。
その上、諸外国が、アメリカにモノを売って稼いだ米ドルを、米国債や米国企業の株式、または外貨準備というカタチで運用または保有するという構造は、世界中が、「米ドルの価値が下がって欲しくない」と思うに十分な仕組みです。
したがって、アメリカ以外の国や地域に比べアメリカが『相対的に』、よっぽどやばいという状況にでもならない限り、ドルの価値は維持されるというわけです。
現在、確かにアメリカの経済は「極めてやばい」状況です。しかし上記の『相対的に』がきわめて重要で、ヨーロッパも、日本も、新興国も、全部やばい中では、「少なくとも今のところは」米ドルを頼りにすることになるわけです。

しかし、日本の場合はどうでしょうか。
「支払は日本円でいいですよ」なんていう外国企業がありますか。
「日本は持続的成長するだろうから日本へ投資しよう」なんていう外国企業がありますか。

日本円をヨーロッパで使おうとしても、誰も受け取ってくれません。
少子高齢化による人口減少を前に、持続的成長を期待する人はいません。

つまり、日本という国家の持続性を維持するためには、どうしても輸出によって(米ドルなどの)外貨を稼ぎ、その外貨によって資源を調達「し続けなければならない」わけです。
(「日本円を刷って、それをドル転して支払えばいいじゃないか」なんて馬鹿な意見をヘッジするために、念のため書いておきますが・・・そんなことしたら、日本円のダイリューションにより円安が進み、いずれは海外から「買ってこれない」状況になってしまいます。とんでもないスタグフレーションに陥ること間違いないでしょう。)

簡単な話、一つの家計内で、母ちゃんが父ちゃんや息子や娘のために料理するという「サービス業」が拡大しても、料理のための食材をスーパーに行って買ってこなければならないわけですから、家族の中の誰かが、「家計の外」に対して何らかの価値を提供し、外貨(この場合円)を調達してこなければ家計が持続しないわけです。当たり前のコンコンチキです。

既に日本は貿易赤字です。
したがって、経常収支も押し下げられています。
世界経済の低迷により、外需が大幅に、且つ、急速に減少しています。
つまり、輸出によって外貨を稼ぐことが難しくなっているわけです。
この状況で、内需が拡大し、資源の消費が増えたら、内需関連企業の収支は良くなるでしょうけれど、日本国全体の収支は悪化する一方になってしまいます。

自動車でも、家電でも、新幹線でも、プラントでも、グリーン技術でも、なんでもいいから「輸出」に重点を置く政策が必要なのです。
間違っても、輸出が大幅に減少し、貿易赤字の最中に、「内需拡大を!」なんて馬鹿なことを言っている場合ではないのです。
輸出企業の競争力を高めるための「法人税減税」政策、
(日本にお金があるうちに)資源そのものを押さえたり、開発したりする政策、
食糧や資源の自給率アップの政策が必要なのです。
その結果として、雇用機会が増えたり、株価が上昇したりするわけです。
間違っても、財政支出で雇用を増やしたり、株価を無理やり上昇させたりする「表面策」などやっている場合ではないのです。

幸い、日本にはまだまだお金がたくさんあります。
外貨準備も、中国に抜かれたとはいえ、またまだたくさんあります。
今の内に、長期的に持続可能な経済モデルを構築することが必須だと思います。

日本は、輸出があって初めて継続可能なのです。
経常収支がトントンの範囲「までの」内需拡大が望ましいわけです。

日本が「輸出頼み」なのは、その経済モデル上、仕方の無いことなのです。
内需が拡大したからと言って、輸出頼みから脱却できるわけではないのです。

2009年2月27日 板倉雄一郎

PS:
本日のエッセイの内容は、そのまま「中国経済」にも当てはまります。
中国は、外需による経済成長のおかげで内需も拡大し、いつの間にか資源の「純輸入国」となりました。
その上、まだまだ富を求めて内陸部から沿岸部へ異動しようとする人口がたくさん居ます。
(一説によると、世界同時不況のおかげで仕事が減り、企業が倒産し、内陸部へのUターン組もいるという噂ですが)

中国は、その対策として、諸外国の資源そのものを押さえたりしていますが、最も気になるのは、「軍事費増」です。
現在、空母を2隻建造中だそうです。
一体、どの海を、何の目的で、走らせるつもりなのでしょうか。

もし、世界からモノやサービスを買う国が中国だけになってしまったら、そのときこそ中国は、「支払は元でいいですよね。」とか言い出すのかもしません。
核も空母も持っているし、経済統計は共産党の「言い値」ですしね。

PS^2:
内需拡大を推奨するような「大田総理風政策発表」というエッセイの内容と矛盾すると思われる方もいらっしゃると思いますが、爺さん婆さんのお金が、米国債に消えてしまうぐらいなら、現役世代へ移転させた方が「マシ」という意味で、「大田総理風政策発表」を書かせていただきましたので、どうかご理解ください。





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