板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「みれんのバックミラー」

例えば事業の売買の場合、セルサイド(=売り手)は当該事業の売買交渉における提案価格にて、
「過去にどれほどの投資を行ってきたか」や
「現在どのような経営状態に置かれているか」
といった「現在および過去の因数」の影響が大きいでしょう。

「10億円もかけたのだから、少なくとも10億円以上で売りたい!」とか、
「この事業を手放したくないが、今売却しなければ会社が生き残っていけない」とかですね。

言ってみれば「バックミラーを観ながらの経営」という側面が浮かび上がります。

一方のバイサイド(=買い手)の立場では、当該事業に対して、過去にどれほどの投資が行われたかについては「どうでもいいこと」です。
バイサイドが「唯一」重視する因数は、
「この事業を買収し、我々の手を加えれば、どれほど儲けられるか」
が全てです。

(ファイナンス理論的には、買収のために必要な資本コストと、事業を手に入れ運用した場合に予想される投下資本利益率の間にプラスのスプレッドがあるか否か。
または、当該事業が生み出すであろう将来キャッシュフローを、当該事業を手に入れるための資本コストによって算出された割引現在価値が、当該事業の買収額を上回るか否か(=NPVがゼロ以上であるか否か)だけが買収価格の根拠になります)

以上のセルサイドとバイサイドの思考を比較したとき、バイサイドの理屈が経済的に合理的であり、セルサイドの理屈は感情的であるとさえいえると思います。

バイサイドの思考が、あらゆる価値観において合理的だと言うつもりはありませんが、少なくとも「経済活動(=儲けようとする行為)」であるならば、現在、セルサイドの立場であってもバイサイドの立場であっても、将来セルサイドになる可能性があってもバイサイドになる可能性があっても、以上の説明の中の「バイサイドの経済合理性」を常に頭に入れておくべきだと僕は思います。

あらゆる事業に「イクジット」があるとすれば、以上の思考は極めて大切です。

以上は「当たり前」であって、以下が短いですが本題です・・・

ここで問題なのは、自分が「バックミラーを観ながらの経営」にしがみついているのか否か、「バックミラーを観ながらの人生」にしがみついているか否かです。

人は皆、過去に「みれん」があるものです。
それを否定するつもりは、心の活動に置いて、毛頭ありません。
けれど、経済を考えたとき、その思考は何の意味も持ちません。
意味を持つのは、過去の行為ではなく、これから先の将来のポテンシャルにほかなりません。
非情に感じる人も居るかもしれませんが、非情どころかむしろ大多数の人にとって希望のある考え方だと思います。

未来に目を向けましょう。
しつこいようですが、未来を創るのは僕ら自身です。

2010年10月12日 板倉雄一郎


PS:
「現状を可能な限り客観的に認識した上で将来に目を向けること」は、経営に限らず、あらゆる人にとって人生を豊かにする一つの有効な選択肢だとこのところ感じています。
たとえ失敗した経営においても、恋愛においても、有効だと思います。

未来は見えずらく、過去は明確に見える、と勘違いしているから、どうしても過去に頼ろうとしてしまいがちですが、過去についても「観測の仕方(=現在の精神状態)」によって如何様にも変化するものだと思います。
だから、「未来を見つめる今の姿勢」は、過去の評価においても、未来の結果においても、大きな影響を与えるのだと思います。

過去を修正できるのは、未来をどう生きるかに依存するのだと思います。




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